みなさま、楽しく将棋を指していますか。
また寄稿させていただきます。「ひろ(@shogitarou36)」でございます。
私も将棋に興味を持ち始めて約二年……。観る将としての実力(?)も上がってきたと自負しております。
しかし、そうなると考えなければいけない事があります。
そう、「後輩の育成」です。
おそらく日々誕生しているであろう「観る将」の初心者たち……。
彼らが「ううーん、観る将の世界は初心者に優しくないよぅ」と離れてしまうのは悲しいことです。
ここは先輩として!後輩を導くべきだと思い立ちました。
そこでまずは「メガネ一枚つよくなる!観る将のための専門用語解説記事-決定版-」を書きたいと管理人さんに伝えたところ、「ふむ、それはこっちでも考えておる。というか決定版って……貴様、いきなり決定版から出すな!ジワジワいけ!」と、そりゃそうだな返信がありました。
そこで先日の「女性の『プロ棋士』」に続いて用語
「取れない」
の解説を寄稿いたします。
みなさま、どうか最後までお付き合いを。
取れない
相手の駒が自分の駒の利きの範囲にあるとき、相手の駒を自分の駒台に移動させ、同時に自分の駒を相手の駒のいるマスに移動させる行為を「取る」という。
「取れない」は、相手の駒が自分の駒の利きの範囲にあっても、「取る」ができない状況をさす。
主に解説文、解説と聞き手の会話において用いられる。
「取れない」と言っても、実際には取れることがある。
分類
「取れない」が発生する状況は大きく分けて二種類。ルール上「取れない」ケースと、形勢を損ねるために「取れない」ケースがある。この記事では、ルール上「取れない」ケースを解説した後、取ると形勢を損ねるので「取れない」ケースの例を二つ紹介する。
1、ルール上「取れない」
2-1、取ると詰まされるので「取れない」
2-2、取ると駒損するので「取れない」
1、ルール上「取れない」
将棋のルールにおいて反則とされる行為の一つに「王手放置」がある。
「王手放置」とは「王手をかけられたのに、それを放置して別の手を指す」というもので、「王手放置」の手を指すと即反則負けとなる。
実戦の中では、角と桂をつかった下図の形で7四の桂馬を△同歩と「取れない」形が有名である。
解説中での使用例(解説者:解 聞き手:聞)
解「これにはこうして、桂を打って……」
聞「同歩で……」
解「同歩はあきまへん。王さんが取られてしまいます」
聞「あっ。アハハ。『取れない』ですね」
解「えらい気前がいいですなあ」
2-1、取ると詰まされるので「取れない」
上図において▲2五桂と銀を「取る」と、△3九飛成まで先手玉は詰む。
これは自ら「詰めろ」を作り出す形になり、なおかつ後手に手番を渡す。
「詰めろ」は「受けなければ次で詰む形」であり受けなければならない。この場合は自分の手番で受けるどころか、受けずに相手に手番を渡している。
つまり、自玉の詰みを発生させるので「取れない」と表現するのが慣習となっている。
プロの実戦では羽生善治の5二銀が有名である(第38回NHKテレビ将棋トーナメント四回戦 対加藤一二三九段戦 1989年2月5日放送)
この銀はなにで取っても1四角から金打ちまで後手玉は詰む。
解説中での使用例(解説の米長邦雄九段:米 聞き手の永井英明さん:永 時空を超えて:ぼく)
米「オーオーオー!やった!」
永「すごい手がまた。こりゃなんですか、すごい手だなこれは」
米「これはいっぺんに、終わりにしようと」
永「あんなとこに打つ手があるんですかねえ」
ぼく「なるほどな」
永「ちょっとすいません。これなんなん……この銀なんなんですか」
米「これはね、取るでしょ?取らして角をこう打つわけなんですよ。香車がいます」
永「ああー!そうか!こういくとアウトなんですね!」
ぼく「そう。『取れない』ってわけです」
ルール上取れないわけではなく、「取れる」。
しかし取ると負けが決定するため「取れない」と表現するのが「1、ルール上取れない」との違いである。
ルール上禁止されているわけではないので、取って長手数の詰みが発生する場合などは、プロの実戦でも取ってしまうこともある。
2-2、駒損するので「取れない」
下図のとき、△7四歩と歩を取ると角によって飛車が取られてしまう。なので7四の歩は「取れない」。
この場合は、取っても負けが決定するわけではなく、損をするだけである。したがって実は「取れるし負けが決定しない」のが1,2-1との違いである。
上図でいえば歩と飛車の交換であるが、仮に「歩が一枚あれば相手玉が詰む」という状況であれば、逆に飛車のほうが先手にとって「2-1、取ると詰まされるので『取れない』駒」となる。
「取れない」駒を取ったときの反応
「取れない」駒を取った時の反応は、1,2-1,2-2それぞれ違ってくる。
「1、ルール上『取れない』」の場合
この場合に取るのは、完全なウッカリなので解説や聞き手が取ってしまっても笑って済ませることが多い。
縁台将棋、またアマチュアの練習においては「待った」がきくことも多い。
取ってしまってもあくまでウッカリ扱いであり、取った本人の棋力が疑われることはなく、ウッカリキャラ扱いされる程度である。
「2-1、取ると詰まされるので『取れない』」
しかし、ニコニコ生放送などで解説が「2-1、取ると詰まされるので『取れない』」の場合に取ってしまうと、これは棋力を疑われることになる。
ニコ生においてはコメントで指摘されて気付き、えらい恥ずかしい思いをするかもしれない。
聞き手はかける言葉によって聞き手としての実力が試される。
「2-2、駒損するので『取れない』」
この場合に取ってしまうことは、大盤解説などプロが駒を動かす場面ではめったに現れない。
初心者向け講座などにおいて「~なので、これは取れません。覚えておいて下さい」と用いられることになる。
むしろアマチュアの練習将棋においてこそ、このケースが考えられる。
ウッカリ駒損はアマチュアの常である。
とはいえ、その場合は誰も指摘しない。その理由として、ルール違反でもなく、負けが確定するわけでもないということが挙げられる。
しかしそもそも将棋とはそうやって虚実おりまぜた一手一手を重ねて勝ちに向かっていくゲームであるので、指摘するのは戦いに水を差す行為と考えられる。
野暮、と言ってよいだろう。
「取れない」。
将棋放送を見始めたとき、まず最初にこの言葉が私の脳に「?」を大量に発生させました。
詰め将棋で大駒を「取らせて」詰ませる手順を説明した人が、おなじ口で「駒損するから取れない」と言っている……。
「男にはやらなければならない時がある」と言った父親が「落ちつけ、そんなことしたら内申書が……」と言いだした時のようなウワア(`;ω;´)なんやねん!感が。
大人になった今、「そうか、ようやく気持ちが分かったよ……オヤジ」という感じです。わたし子供いないですけど。
でも、いつまでも忘れたくない……今期NHK杯で、阿部健治郎五段が対谷川九段戦の横歩取りで見せた「42手目の角切り」のような少年らしさを……。
そんな気持ちもあるのです……。
最後まで読んで下さったから、ありがとうございました。
私が保証します。あなたは我慢強いです。
コメント
素晴らしい記事でした!
確かに「取れない」って言葉を初めて聞いた時(私も2年くらい前でしたw)、
「ん?取れない? んー・・・、あ、そっか!なるほど!」
と思ったものでした。
こういった些細なことが「後輩の育成」に大切ですよね!
いろいろと「解説したい人」が増えたなwww
面白かったです。
私は昔から将棋に触れていたので今更考えたこともなかったですが、新しく始めた人はそういう疑問を持つのかと興味深く読ませてもらいした
こういう寄稿システムは他のサイトにはない(多分)試みで非常に素晴らしいと思います。
ひろさんも、以前寄稿された方の記事も参考になりました。ありがとうございました。
またもツイッターのテンションで、いっせいにお返事させていただくよ!
求められていなくてもお返事するよ!
>花房さん
「とれない」という言葉に立ち止まってしまった観る将後輩に「とれるよ!」と。
「カワイイは作れる」の感じで「トレナイは取れる!こともある!」と伝えていく所存だよ!
>あなあきさん
ふえるよ!
>匿名さん
さいしょ、NHKの講座でプロ棋士ではないつるのさんが「あーコレとれないんだ」と言っていた時に、「(;`・ω・´)と・・・取れるよね・・・?」と思いましたよ!
固有の専門用語ではなくてアマチュアも使う一般動詞なので、誤解できちゃうんです!
>中嶋さん
お役に立ったのならなによりだよ!