みなさま、楽しく将棋を指していますか。
また寄稿させていただきます。「ひろ(@shogitarou36)」でございます。
ふるえる観る将初心者にソッと知識のカーディガンを掛けてあげる……そんな将棋用語解説の時間です。
用語解説、今回は「先手(せんて)」です。
先手とは
「先手」。言わずと知れた「初手を指すほう」です。
正式には振り駒で決定します。
終局が奇数手なら先手勝ち。偶数手なら後手勝ち。(千日手等のぞく)
なお日本将棋モバイルなどの棋譜中継では表記上「投了」で一手加算されるので、その点意識しておく必要があります。
そんな「先手」ですが、観る将初心者にとってはなかなか厄介なことがあるのです……。
ぼくの将棋教室体験談
~とある将棋教室~
先生「後手が角で王手しました」
ぼく「王手だ!防がなきゃ!」
先生「では先手はどうします?」
ぼく「こうします!」
先生「フフフ、そうですね。これで王手は回避できました」
ぼく「はい!」
先生「でももっといいやり方があるんですよ」
ぼく「!?」
先生「こうしてから……」
ぼく「後手は角で取ります!」
先生「そうですね。これでまた王手。でもそこでこうすると?」
ぼく「……はい、銀で王手を回避しました」
先生「なにか気付きませんか?」
ぼく「……あっ!次に銀で角をとれます!」
先生「そうですね」
ぼく「ウッヒョー!これはお得ですね!ウッヒョーイ!」
先生「はい。歩で相駒してから3七銀とすることで”先手が取れる”わけです」
ぼく「ウッヒョ…… え」
先生「先手が取れます」
ぼく(ぼ、ぼくはもともと先手だったはず……それなのに「先手が取れる」だと……。ま、まさか……いつのまにか先手を奪われていたとでもいうのか……!?)
~別の日~
先生「さあ、ここで後手のぼくくんはどうしますか?」
ぼく「うーん……いっそ飛車交換です!」
先生「元気ですね!では飛車交換して……」
ぼく「同歩です!」
先生「フフフ、では先生はこうです!8一飛!」
ぼく「ああっ!香車が取られてしまいます!」
先生「ぼくくんが思っていたことを、先生に先にやられてしまいましたか?」
ぼく「盛大にシューン」
先生「でも、一応飛車を打ってみたらどうですか?」
ぼく「いまさら打ったって……香車は先に取られてしまいます。2九飛パチ」
先生「おやこれはいけない!先生の玉に王手がかかってしまいました!」
ぼく「あれあれ?」
先生「まずは金を引いて受けますね」
ぼく「おやおや?」
先生「さてぼくくん?先に香車を取れるのはどちらですか?」
ぼく「ぼくです!」
先生「そのとおり!あそこでの飛車交換からの飛車打ちはぼくくんが”先手”ですから、いい判断でしたね!」
ぼく「!?」
ぼく(こ、こんどは僕が先手……。いつのまにか先手を……奪ってしまっていた……だと……?)
ぼく「お、お返しします!ぼく……ぼくは後手のままでいいです!」
先生「はい?」
~帰り道~
ぼく「奪ってしまった先手は受け取ってもらえなかった……」
羽生善治名人「やあぼくくん、どうしたの浮かない顔をして」
ぼく「あっ、羽生善治名人。ぼくは……後手なのに先手を奪ってしまったんです」
羽生善治名人「ええ、ええ、そういうこともありますね。うまく指したのでしょう」
ぼく「そんな……!の、望んで奪った先手ではないのです!」
羽生善治名人「どうやらぼくくんは誤解をしているようですね、ええ、ええ」
ぼく「名人、そこのところ詳しくお聞かせ願えないでしょうか」
先手のもうひとつの意味
「先手」の「初手を指すほう」という意味しか知らなかったぼくくんは混乱していたわけです。
そう、「先手」にはもう一つの意味があるのです。
それは
「損害回避の一手を相手に強要する手」
というものです。
その一手を強要することで、局面の方向性を決める権利を我が手にする。そんな一手が「先手」なのです。
私が最初にこの意味の「先手」を聞いたとき、
「(先手の飛車を指差して)この飛車が先手ですから」
という使われ方をしていたのだと思います。
もし後手の飛車だったり、「先手を打ってますから」や「先手を取ってますから」という表現だったら誤解も小さかったと思います。
ともかく私は
(;`・ω・´) 「……あれ?『先手ですから』、なんです?続きの説明は?」
(;`・ω・´) 「先手特有の、なんかメリットがあるんですよね?え、その説明は?」
(;`・ω・´) 「先手が指すととくに価値があるとか、そういう説明……あ、次の局面に移った……」
と、大混乱しました。
「先手ですから(相手の手を強要できる)」ではなく「先手ですから(とてもいいことがある)」だと思ったわけです。
やがて意味は理解しましたが、今回あらためてこの「先手」という単語の意味を考えたとき「損害回避の一手を相手に強要する手」というのは、その性質をあらわしてはいても分かりやすい表現ではないと考えました。
そこで私は以下の説明を推奨するのです。
「先手」とは、
1、 初手を指す側
そして
2、相手に後手を引かせる一手
というのはどうでしょうか!
「後手を引く」というのは一般的な慣用句です。また「後手・先手」という対比も一般的です。観る将初心者にとっても理解がしやすい説明ではないでしょうか!
指し将棋において
指し将棋初心者においても、この「先手」の概念はとても重要だと考えています。
なぜなら「王手は全てに優先する『先手』」だからです。
いま後手が△6八歩と打ちました。
これは△6九歩成、▲同玉、△6八金までの詰めろです。
それが読めると、初心者は「あわわ、受けなきゃ。ど、同金?桂はねて逃げ道つくる?」となりがちなのですが、これは後手玉が▲4二香成、△同金、▲4三桂以下どう応じても詰んでいます。
(△同金には頭金。△6一玉にも頭金。△4一玉には▲3一金まで)
「とりあえず王手」は「王手は追う手」の格言の示す通り良くない場合が多いのですが、詰めろに対して「最強の『先手』である王手」で応じるという発想があると、メガネ一枚強くなると思うのです。
「初心者中年男性へ贈る!私の棋力向上方法(初心者、40代男性 ひろ)」でも触れましたが、観る将としては5級、初段が「より将棋観戦を楽しめる指し将棋基準」として考えられます。
指し将棋の実力を高めるためにも、この「先手」という概念を観る将初心者に伝えておきたいのです。
最後まで読んで下さったかた、ありがとうございました。
(2015/11/18 記事の一部を訂正しました。コメント欄を参照ください)
コメント
元々、後手を引くの対比の意味だと思いますよ。
最後の局面一手詰めじゃねーか
最後のは単に6一飛打でダメなのだろうか?
またTwitterのテンションでお返事させていただくよ!
>匿名さん
やはりそうですか!
ぼく自身は「先手ですから……からなに!?(`;ω;´)」と思ったものですから、同じように困る人がいたら「手番とは別の意味だよ!」とお伝えしたくて!
>匿名さん、匿名さん
あああ……(`;ω;´)
そのとおりだよ!
ごめんね!差し替えるよ!
ありがとうございます!
ご指摘の詰め将棋につき訂正させていただいたよ!
ご指摘ありがとうだよ!