2015年6月、日本将棋連盟モバイルの中継アプリで5回にわたり連載された渡辺弥生女流初段のコラムが独特だったのでご紹介します。
私(管理人)は今回初めて渡辺女流のコラムを読んでみて驚きました。
女流棋士の方はそれぞれコラムに味があって、ほのぼのとする内容が多くて、読んでいて和やかな気分になるのですが、渡辺女流のコラムはあまり和やかな気分にはなりません。いや、話自体は和やかなのですが、ただななぬ何かがあるのです。
だ・である調
渡辺女流のコラムでまず最も特徴的なのは、文体が「だ・である調」ベースなこと。それに「です・ます調」を織り交ぜる意欲的な趣向を見せます。例えば、6月2日のコラムは以下のように始まります。
6月の女流棋士コラムを担当いたします、渡辺弥生です。1ヶ月、よろしくお願いします。
少し前の話だが、5月15日の渡辺明棋王就位式に出席した。自分はこちら、渡辺棋王と同じ所司和晴七段門下である。
「ですます調」の自己紹介からの突然の「だである調」。
他の女流棋士、男性棋士も含めてこのコラムは「ですます調」なのが一般的(というか他にである調の人っていましたっけ)なので、まず驚きます。
「自分はこちら」とか見たことないですし。
何か、読むのに覚悟がいる気がしました。
独特のセンス
コラムの中では度々、渡辺女流のセンスに触れることができます。
まず、前述の渡辺棋王へのお祝いのスピーチ、草案段階では下記のような内容だったそうです。
「この度は圧巻の3連勝で、その終盤力は見る者の心胆を寒からしめる云々・・・」
これはさすがに友人に咎められたとのこと。
別の回では、北海道の釧路へ仕事に行った時について述べています。この仕事は指導が2割、観光が8割という素晴らしいものだったとして。
向こうの方も、どちらがどちらに教えているのかわからないような終盤戦の指導対局を受けるよりは、きっと有意義な一日と言えよう。
自虐ネタを無理矢理ポジティブに、みんなに利益があるかのように述べています。
また別の回でも、文藝春秋「羽生善治 闘う頭脳」から、「闘う」と「戦う」の意味を考察して。
つまり、対局者は相手と戦っており、記録係は眠気と闘っているわけです。
この独特のセンス。
いずれにしても渡辺女流は、無難にまとめるのではなく挑戦的な感じで、読んでいて何かドキドキする。
ドジっ娘
コラム内では度々ドジなところを告白します。
まず、前述の就位式、スピーチを依頼され緊張した様子を綴っています。
当日の朝、緊張のあまり貧血になり、家を出たところで派手に転倒し、手足をすりむくアクシデントに見舞われたものの、どうやら本番では転ばずに済んだようだ。
渡辺棋王、防衛おめでとうございました。
アクシデントからの突然の祝福。
北海道の釧路での仕事と観光では。
久しぶりの早起きと運動のせいで、車の中で眠りこけてしまい、失礼いたしました。釧路の皆様、ありがとうございました。
お侘びからのお礼。
福岡でのイベントではやらかしたようです。
「読み上げをお願いします」と言われ、これぞ私の得意分野、と舞い上がり、「秒読みと読み上げ、どちらをお願いしても大丈夫ですか」との質問に対しても、やったこともないくせに「大丈夫です!」と大威張りで答えてしまった。
(中略)
2局目のねじり合いにはついていけず、終盤しっちゃかめっちゃかな符号を会場に読み上げ通しでありました。
活き活きとドジを告白。
中村桃子女流初段との対局の敗戦の弁。
いくら秒読みが嫌だからと言って、秒読みに入らないように指すのはまずかった。
これはもう、ドジっ娘で売りだそうとしているとしか思えない。
しかしドジ告白にもいちいちキレがあるんですよね。
残された謎
この日本将棋連盟モバイルのコラムの各記事の冒頭では、記者が記事内容について一言感想を書いているのですが、渡辺女流のコラムについては「渡辺流」「前振りの話が半分を埋めるのが渡辺コラム」などと評されています。
普段コラムを読まれない方も、一度読んでみてはいかがでしょうか。
ちなみに、渡辺女流はこの連載の最終回の最後で、コラムを担当した1ヶ月間について以下のように述べています。
6月は将棋哲学について勉強していたわけである。香1枚、ではなく、盤の枡目1つ分、強くなった気がする。
もう、謎すぎて。
よく「香車1枚分の棋力差」という表現はされますが、「盤の枡目1つ」とは。1つ増えたら別のゲームではないか。
この謎を解いてみたいと挑みましたが、解けませんでした。
強引に解釈すれば、精神的な心の余裕ができて、心の中の盤が広がった、ということなのかもしれません。
自由に解釈して楽しめるのも、渡辺流コラムです。
コメント
渡辺弥生女流初段のコラムについつい引き込まれて、普段はそんなに読まない(または流し見してしまう)コラムを毎日読んでしまいました。あまりにも独特の語り口が実に堂に行っていた為、これはきっとエッセイ本の一冊や二冊は出ていると思いきや、ググっても別の渡辺弥生さん(教授らしい)しか出てこない。これは非常に勿体ない。出版されれば、私は即買います!<–ここは是非強調!/という訳で(?)管理人さんに取り上げて頂いて結構感動しました。どうもありがとうございました。
コメントありがとうございます。
かなり独特ですよね。意欲的で、よく練られた感じです。将棋の方でさらに活躍されると、コラムもさらに注目されて話題になると思うので、期待しています。
出版されているものといえば以前、将棋世界では短期の連載はあったと思います(将棋の上達方法だったかと思います)。それも本にまとまっているわけではないんですが。エッセイ本などは残念ながら聞いたことがないですね。
私以外にも注目している方がいると知りよかったです。
コメントありがとうございます。