2015年1月11・12日におこなわれた第64期王将戦七番勝負第1局で、渡辺明王将が指した新手、5五銀左(59手目)のことについて、これまでいろいろな謎がありましたが、これが2月3日に発売された将棋世界3月号でほぼ明らかになっています。
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新手▲5五銀左の謎
この対局は、角換わり腰掛け銀の定跡形に進みましたが、59手目に渡辺明王将が突如6六の銀を5五にタダ捨てしました。
このタダ捨ては衝撃的でしたが、一部棋士によると「研究会で指されていた手」とされていました。
渡辺王将は翌日のブログで、
新手の▲55銀左は人に聞いた手で自分で考えた手ではありません
と記述。
一方、挑戦者の郷田真隆九段は終局直後に
▲5五銀左は潜在的に考えていたが、対局中は忘れていた。指されてまずいと思った
とコメントしています。
王将は人から聞いた、挑戦者は潜在的に考えていたが忘れていた・・・。
王将は一体誰から聞いたのか、挑戦者は誰かから聞かされていたのか・・・。謎が深まっていました。
ツツカナ、森下卓九段、村山慈明七段、そして渡辺明王将
まず、渡辺王将がこの新手を知った経緯から。
詳しくは将棋世界に書いてありますが、実はこれは昨年末に森下卓九段が「ソフトに指された」もの。森下卓九段はこの手に驚いて、何人もの若手棋士にこの手を見せたとのことです。それで、「スゴい新手がある」と広まった、とのこと。
ちょうどその頃、森下卓九段はツツカナとの電王戦リベンジマッチへ向けて準備している最中でした。
ただ、これが一概にツツカナの新手ともいえないようです。実はそれより前、昨年の夏頃に豊島将之七段も同じ手をソフトに指されたとのこと。第3回電王戦に出場した豊島七段の相手のソフトはYSSです。
さらにさらに、豊島七段と同じ時期に、この手をソフトに指された別の若手棋士もいたとのこと。ですから、直接広めたのは若手棋士らに話した森下卓九段ですが、それより前からこの手を知っていた人もいたということです。
ただ、この手がこの日まで指されなかったのは、この手が有力なのかどうなのか、まだわかっていなかったためとも言えます。渡辺王将自身も「有力そうだ」ということは感じていたようですが、確信はなかったようです。
郷田真隆九段は自分で考えていた
一方の郷田真隆九段は、この手について前述のとおり「潜在的に考えていた」とのこと。郷田九段といえば、いわゆるアナログ派で知られており、パソコンは持っているものの棋譜データベースの検索にしか使っておらず、ソフトを使うことはないとのことです。
そんな郷田九段ですが、研究の過程においては、手を思いついて、忘れて、思いついて、忘れて・・・の繰り返しなのだそうです。それで、すべての手を覚えていられないので、重要な手だけは覚えておくと。
5五銀左に関しては、思いついていたものの、重要だったが覚えていなくて、指されて思い出したような状態だったと思われます。
詳しくは将棋世界を買いましょう
これで、私が思っていた、渡辺王将のブログや郷田九段のコメントの謎は解決しました。
詳しくは将棋世界3月号を買ってみてください。私の拙い文章ではなく、大川慎太郎さんの文章で読むとさらに面白いでし、各棋士のソフトに対する考え方も知れて興味深いです。
しかし、驚きましたね・・・。まさか森下卓九段発だったとは。
最後まで読んでいただきありがとうございました。