2015年12月13日の第1期叡王戦決勝3番勝負第2局で、解説者として出演した田中寅彦九段が、マスコミに対する不満をぶちまけて(?)、「将棋を義務教育にすべき」と主張して、さらにはコンピュータと人間の関係についても見解を述べました。
以下の動画のタイムシフトでもご覧になれます。
第1期叡王戦 決勝三番勝負 第2局 郷田真隆九段 vs 山崎隆之八段
(この記事でご紹介する部分はタイムシフトの10時間49分付近から)
主張の内容はやや飛躍しているかもしれないんですが、現在58歳の田中九段が下の世代を思っての主張ということで、ご紹介したいと思います。聞き手は山口恵梨子女流初段です。
人間がコンピュータに勝つには?
叡王戦で優勝した棋士は、最強のコンピュータ将棋ソフトPonanzaと第1期電王戦で対戦します。Ponanzaはこれまでの電王戦で3回連続でプロ棋士に勝利しており、さらに今年の世界コンピュータ将棋選手権、電王トーナメントも制しています。
そんなPonanzaに対して、棋士はどう挑めばいいのか? という山口女流の質問に、田中九段が答えます。
田中九段「なまじっかなことやったって絶対敵わないですね。ただ、弱点はいっぱいあると思うんです。そういう弱点を見つける若手がいる。ただ、(決勝に残った2人は)そういうタイプじゃないことだけは確か」
今年春に行われた将棋電王戦FINALでは、人間5人vsコンピュータソフト5つが対戦し人間側が3-2で勝利。アンチコンピュータ戦略と呼ばれるコンピュータの弱点を突く戦略も用いられました。ただ、叡王戦決勝に残った郷田真隆九段、山崎隆之八段はともにコンピュータ将棋には詳しくない(はず)ため、田中九段は「そういう弱点を見つけてるようなタイプじゃない」と述べています。
コンピュータが人間に勝つには?
山口女流は、逆にPonanzaが棋士に勝つには? という質問を田中九段にぶつけました。
田中九段「そのままやってれば勝つんじゃない? 勝たないかな。だって考えてみてください。人間がかけっこがどんなに速くたって車に負けますよ。だいたい、今いい勝負しているっていうことが将棋が奥が深いってことの証明なんですから。人間が負ける・勝つと言っていること自体が私はナンセンスだと思う」
より単純な競技においてはコンピュータが次々に人間に勝利。まったく人間が勝てなくなった競技もありますが、それに比べれば、まだ将棋は人間が勝つ可能性がある。田中九段は、続けます。
田中九段「コンピュータが1秒間に何億手も考えて解明できないすごいものを我々の先祖が作り上げた。それがすごいことだって、何でマスコミが言わないのか!」
マスコミの報道に疑問を呈す田中九段。
確かに、電王戦やコンピュータ将棋におけるマスコミの報道では「コンピュータvs人間」「コンピュータは人間を超えたのか」「AI(人工知能)」といった部分が大きくとりあげられ、将棋のゲーム性・成り立ち、なぜ現在においても人間とコンピュータが勝負になっているのか、という部分は扱いが小さいかもしれません。
義務教育に
さらに田中九段の矛先は政治にも向かいます。
田中九段「なんで日本人が世界に誇れる日本文化を、みんなが義務教育で習うようにしないのか!
これがね。絶対、私、悔しくてしょうがない。
だってこれからの子供たちは、絶対、世界の人たちと一緒に仕事をする、友達ができる、一緒にやらなきゃいけないですよ。そういう時に、『日本には何があるんだ?』って言われた時に『こういうすごいゲームを僕らの先祖が作った』って言えなきゃ!」
上海で学校教育に取り入れられている事例
田中九段は、中国・上海の小中一貫校の子供たちが千駄ヶ谷小学校に来て合同の将棋教室をした時の話をされました。そこでは、日本の子供たちが3分の1しか将棋のルールを知らなかったのに、上海から来た子供たちは全員ルールを知っていた、というのです。
上海の子供たちが将棋のルールを知っているのは、一部の学校で将棋が義務教育になっているためで、頭が良くなる効果があると学校が判断して教育に組み込んでいる、ということです。
上海での将棋普及の話は以下の記事にも書いてありますのでご参考に。将棋人口は少し前に60万人を超え、現在はもっと増えているとのこと。
上海の子供たちが日本の文化である将棋のルールを知っているのに、日本の子供たちは知らない。
田中九段「これは恥ずかしいなと思ってね。いいものは取り入れるっていうことを、文部科学省もなんとか考えてほしいなと思っております」
奇跡的なゲーム
さらにヒートアップする田中九段。
田中九段「とんでもない計算能力があるソフトが、この81マス40枚の駒が動くだけのルール、それも織田信長の頃からルールが変わっていないゲーム、それがいまだにわからない(解明されていない)というのは、これは奇跡的なすばらしいものを我々民族は作った。これだけは絶対、みなさんだけじゃなくて、みなさんの後に続く人たちに、絶対、自慢をもって、私は将棋が趣味でこれだけ強いんだぞって、威張ってください。で、どんどん伝道師を増やしていただければとな思います。
・・・すみません、拍手を。大きなもので」
拍手が起こる会場。
将棋の未来は。
田中九段「いずれは、無限大に近いとはいってもこれだけの(81マス、40枚)の枠ですから、ソフトは読み切れると思うんですけどね。読み切れなくても、人間は敵わなくなると思います。
ただ、それが将棋の終わりじゃないですから。人間がやっていることっていうのが面白いんじゃないかなと。ソフトはその補佐になるような気がしてならないですね。今だって、読み筋を利用(Ponanzaが読んだ手を解説に利用)させてもらってます」
山口女流「先生、さきほど『Ponanza様』っておっしゃってましたからね」
田中九段「いやいや、いい手やりますからね」
田中九段の功績
最後はちょっと堅苦しい話題になったので、ここで田中九段の功績を2つ。まず、同日に共演した藤田綾女流初段を生放送中に激写してツイートしました。舞台上からの生激写は貴重。
郷田九段考える人を書く
藤田画伯 pic.twitter.com/AbG7LpBgkl
— 田中寅彦 (@tora_ejison) 2015, 12月 13
また、本局では山崎八段が出されたおやつをなぜか食い入るように見つめていたのですが、その理由を解明してくれました。
山崎さん来たおやつをガン見していましたが、実は抹茶とカステラを頼んだはずが、抹茶カステラになったのではないか?と噂。 pic.twitter.com/USF5HD98D9
— 田中寅彦 (@tora_ejison) 2015, 12月 13
おわりに
何かの本で読んだことがあるのですが、外国の方と仲良くなって信頼されたいと思ったら、自分が何者であるか、どういう環境で生まれ育ったかというのを伝えてコミュニケーションすることが効果的だそうです。そういう時に例えば趣味の話や文化の話になって、どれだけ奥深い話ができるかというのは重要そうです。
あと、私将棋ファンになった当時(2年ぐらい前です)人間とコンピュータが戦う「電王戦」というものにあまり興味がなくて真剣に見てなかったんですが、その理由として田中九段と同じように「コンピュータが人間に勝つのは当たり前やろ」と思っていたフシがありました。
記事中では触れませんでしたが、山口女流はコンピュータ将棋ソフト開発者の方々の努力にも言及していました。81マス40枚の駒という狭い世界で、400年かかっても解明されず先手後手の勝率がわずか2%しか変わらないという奇跡的といっていいゲームがどうやって生まれたのか、あるいはこれからそういうゲームは生まれるのか? って思うとロマンがあって、それだけでも教育の価値があると思いました。
コメント
将棋がどんなに「素晴らしいゲーム」でも義務教育にだけはしてはいけない
「将棋が好きなヤツ」よりも「死ぬほど嫌いなヤツ」を大量につくってしまうからなwww
義務教育、実現できるといいね。将棋する子は勉強もできる。まじめな子が生徒指導されたってきいて、勉強しすぎてキレたかと思ったら、休み時間に将棋やってたからだよ。ノートで駒作ってやってたらよけいな物は学校に持ち込むなだって。
義務教育で将棋脳つくりを、公立の学校が率先して行うのは。反対(時期尚早)の立場から以下のべます。上記本文の情報によると。「織田信長の時代から。日本の将棋のルールは変わっていない。」とのことです。しかし。私の認識によれば。それより若干前の、室町時代。八代将軍、足利義政の時代からは。「将棋」のルールは、急変しているんじゃないんでしょうか。確か「醉象」とかいう駒が。有ったように聞いているんですがねぇ。またさいきんは。「桂馬のルールは、昔と今とで違う」なんていう。教育には絶対必要な「教える内容の普遍性」を、疑うような研究も。ネットで紹介されているんですね。「”古代の将棋の桂馬の動き”(””はセンテンス検索の意味)」で、グ-クル検索でもしてみてください。
また。「先手後手、どっちが必勝かどうかわからない、奇跡のゲーム」との事ですが。他の国の、同系統のゲームも。だいたい、先手・後手の、バランスのとれたゲームになっているのではと思います。ほとんど日本では、日本将棋ばかりが指されているため。他の同じような複雑性のゲームの。ゲーム理論の、たとえば、先・後手の必勝性の理由や、系統的パターンについての、ゲーム理論的な研究も。少なくとも日本将棋に類似な、中将棋とか5五将棋とかいったゲームの周辺に関してさえ。わが国では。あんまり進んでいないように、個人的には見ています。私の勉強不足かもしれませんが。蛇足ですが。中将棋。獅子が先手初手で高く構えられるんで。先手の方が、少し有利なような気が、私にはしますが、錯覚でしょうか。
何れにしても。そういった研究は。まずは大学の研究室で。これから、じっくりと行うべきものなのではないかと私は思います。つまり大学で研究を先行させ。行く行くは、その成果を。中等高等教育現場に下して行くのが、一般的なパターンなのではと、私は思います。
そもそも。「先手の必勝性とか後手の必勝性」なんていう概念の教育も。少なくとも、小・中学校では。難しいのではないでしょうか。将棋を鍛えられた、天才的将棋少年・少女にとっては。極めて若いときに接する。当たり前の概念ではあるのでしょうが。
米長さんも「あなたの国にもチェス(その国固有のものも含めて)があるね?私の国にもある。最大の違いは、とった駒を再び戦場によみがえらせることができる。私の国はそういうゲームをもつ国だ(うろ覚え)」的な自己紹介こそが、真に内容のある相互理解だと仰っていたように思います。
タナトラせんせい熱いですね!
あなあき様、ざいほう様、長さん様、ひろ様、コメントありがとうございます。
あなあき様:
何を教えるか、そして教え方次第のような気がします。ルールを覚えるのは簡単ですし、簡単な詰将棋ぐらいならできそうです。それに、81マス40枚の駒でほぼ無限の可能性っていうのは伝わると思うのです。
ざいほう様:
へー小学校ですかね、私も子供の頃なんかゲームとかいろいろやってたと思いますが、まあ確かに怒られましたけど気にしなかったですね。将棋じゃなくてもいいですが、ノートに何か書いて工夫して遊ぶってクリエイティブでいいと思うのです。それを先生に見つからずにやるのがさらにクリエイティブなのかも。
長さん様:
ルールの話はすみません、田中九段がおっしゃったようにそのまま書きました。調べるべきだったかもしれません。でもだいたい合っているので。あと「いい国作ろう鎌倉幕府」も今では通用しないようですし、だからといって我々が学んだことが無駄だったとは思いませんので、研究によっていろいろと新たな事実がわかれば、それはそれでいいのかなと思います。
先手後手の必勝かわからない、というより、勝率がわずかしか変わらない、ですね。先手後手の勝率がこれほど僅差なのは例がないと。それが狭い世界で無駄なく実現されているのが奇跡なのかなと思いました。
田中九段がおっしゃったのは確か小学生か中学生の話だったと思いますが、大学の研究レベル話は置いておいて、駒が再利用できるようになって可能性が無限に広がった、現代のコンピュータでも解明できない高度なゲームが生まれた、くらいのレベルの話でよいと思います。
ひろ様:
そうですね。将棋が他のゲームに比べて有利なのは、各国にチャトランガ源流のゲームが存在していて、それとの違いを話してみたり、なぜそういうのが生まれたのか話してみたりする、ということができる点だと思います。そして「どうぶつしょうぎ」が生まれたように、アレンジ次第で新たな遊びへの発展性があるっていうのも。田中九段はヒートアップしていましたね。目が覚めました。
皆様コメントありがとうございます。
ここのコメント欄は少し荒れてきている気がします。 田中先生がそう仰った、でよいではありませんか。
>上の匿名さん
同感です。
>あなあきさん
あなたのコメントは煽りが入っていて、いつも不愉快です。
>長さん
あなたのコメントはいつも長くて意味不明なので、ちゃんとした日本語の文章を書いて下さい。
以下、私の書き込みで。
「ゲーム理論の、たとえば、先・後手の必勝性の理由や、系統的パターンについての、ゲーム理論的な研究も。少なくとも日本将棋に類似な、中将棋とか5五将棋とかいったゲームの周辺に関してさえ。わが国では。あんまり進んでいないように、個人的には見ています。」について、訂正します。
読み返してみると。この部分。出だしの「ゲーム理論の、」が、削除し忘れでした。この点については、御指摘の通りです。たいへん失礼いたしました。
私には。わたしなりの意見があるのですが。本文中に書かれた根拠に、対応するように。私にしては丁寧に。コメントしたつもりですので。あなたの再コメントについては。たいへん残念な御意見だと思います。いつもの私流の、「別論旨注入型」のコメントで。別のブログでは苦情を受けて削除されています。結局の所。ネット社会には、いろいろな方がおられますので。全部の方に愉快な書き込みをするというのは、不可能に近いと、あなたの御意見を御聞きし、感じられました。よって。私のコメントが邪魔なようでしたら。管理人様の御意向により、削除等御処理を願います。
管理人です。
私はこのサイトの立ち上げ時からずっと管理人ですが、もしかしたら人によってはコメント欄の管理が行き届いてないと感じるかもしれませんが、以前のほうが辛辣なコメントもあって、最近は全体的には問題ないと思っています。ご心配いただきましてありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。
ご心配の点は、たぶん、書いている内容というより書き方についての問題かと思います。「義務教育にすることでのデメリット」のご指摘とかですが、特徴的な書き方や句読点の使い方でもしかしたら受け取る側にとっては不愉快に感じたかもしれません。ネット上にはいろんな人がいて、顔が見えないのでどんな人かわかりません。相手は孫のように年下の人かもしれませんし、祖父祖母のように年上かもしれませんし、もしかしたら有村架純さんかもしれません。
不愉快に感じたかもしれませんが、書き方というのも人それぞれあるのはしょうがないので、面倒に感じるかもしれませんが書いてある内容をくみとるようにすると不愉快を抑えられる可能性があります。
繰り返しになりますが書いてある内容を否定されているのではなく、書き方についての問題ですので、書く方は少し気をつければよりご意見が伝わりやすいと思いますし、受け取る方はなるべく書き方を脳内で変換して内容をくみとっていただけると幸いです。よろしくお願いします。
管理人としては自由に書き込んでもらえるのがいいですので、今後ともよろしくお願いします。
私は有村架純さんだと思うことにします
はい、みんながみんなを有村架純さんだと思えば、すべてうまくいくと思います。趣旨をご理解いただきありがとうございます。