駒の並べ方の常識が崩壊?大橋流、伊藤流、熊坂流どの流派とも違う田中魁秀九段の並べ方がとても自由な件

将棋の対局の時、駒を初期配置に並べるのに流派があるのをご存知でしょうか。

普段アプリで対局している方は意識されないかもしれませんし、友達同士の対局だとそれほど気にしないと思いますが、プロ棋士の将棋を観るようになると、ある程度決まった法則で並べているのに気付くと思います。

この記事では、現在プロ棋士で主流となっている並べ方をご紹介し、その上で、とてもめずらしい田中魁秀九段、ちょっと珍しい高橋道雄九段の並べ方もご紹介します。

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大橋流と伊藤流

プロ棋士の間で最も多い並べ方と言われているのが大橋流。まず玉(王)を配置し、その脇から固めていくという自然な並べ方です。下の図の数字の順番で並べます。

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次が伊藤流。大橋流とともに二大流派。

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伊藤流の特徴は、並べている途中に走り駒(飛車、角、香車)が敵陣に直通しないようにすること。そのため、歩を並べてから走り駒を配置します。歩の並べ方も、中央からではなく左から順です。

熊坂流

一応、ご紹介しておきますが、熊坂学五段オリジナルの「熊坂流」と呼ばれる並べ方もあるようです。

2011年7月27日の朝日杯将棋オープン戦一次予選で並べられたやり方。棋譜コメントには以下のようにあります。

熊坂は王将を並べたあと、左側の金銀桂香を並べてから次に右側の金銀桂香の順で並べた。珍しい並べ方だ。
(棋譜・コメント入力=八雲)

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飛車、角、歩の順番はわかりません。棋譜コメントにはこれ以上言及がないので、これ以降は大橋流に合流したものと思います。規則性があるので、覚えやすいといえば覚えやすいです。

自由過ぎる田中魁秀九段

上記の熊坂学五段の並べ方は「珍しい」と書かれていますが、田中魁秀九段はもっと珍しいです。

2015年7月2日の第1期叡王戦九段予選の対高橋道雄九段戦で実践された並べ方をご紹介します。

この並べ方、あとで視聴者から「見たことないのでびっくりした」というメールが届いたぐらい珍しいものでした。

田中流

まず、ここまでは大橋流や伊藤流と同じ。

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しかし、ここで驚きの一手。

何だと思いますか?

知らない人は絶対に、絶対に、絶対にわからないと思います。

でもヒントだけお出しします。

この記事の画像では二文字駒を使っていますが、叡王戦で使用される駒は、映像の映りを考慮して一文字駒です。

さて、正解はこれです。

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まさかの「2九馬」。一文字駒で、桂馬とまちがえたのだと思います。しかし田中九段はこれを放置して・・・。

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香車を並べました。

間違えに気付いて差し替え。平然とやられるので、こんなものなのかなと思ってしまいます。

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差し替えた角を配置します。

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ここは普通に配置して。

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そして。

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歩を左から順番に全部並べてから、最後に飛車で完成。

この自由さ。

視聴者からメールが来るのもわかります。

高橋流

ちなみに対局相手だった高橋道雄九段も、少し珍しい、大橋流の分流のような並べ方です。

まず大橋流で玉と小駒をすべて配置。

kifu20150702-takahashi

大駒だけを最後に並べるやり方でした。角、飛車の順です。

並べ方に無頓着な塚田泰明九段

プロ棋士は、我々が思うほど並べ方を気にしないのでしょうか。

叡王戦の田中九段VS高橋九段戦で解説だった塚田泰明九段は、視聴者からの「駒の並べ方は何種類ぐらいあるんですか?」というメールに対し少し焦り気味に「えっと・・・ちょっと待って下さい。答えられないぞ。大橋流と伊藤流ってのがあるんですけど・・・藤田さん(聞き手の藤田綾女流初段)答えられます?」とパス。

塚田九段は大橋流と伊藤流がどっちがどっちだかわからなかったようです。

藤田綾女流初段が「伊藤流は香車を(歩を置く前に)置かないんですよね」と説明すると、塚田九段は「そうなんですか!」と感心し、伊藤流の並べ方を「知りませんでした」と発言していました。

そんな並べ方に無頓着な塚田九段をもってしても「田中先生の並べ方は自由でしたね!びっくりしちゃった」と述べていました。

自由でいいのか

この記事で並べ方をご紹介した棋士は、いずれもベテランの棋士でした。ベテランは並べ方におおらかなのでしょうか。若手だと、もうちょっと厳密にやっている気もします。

将棋教室とかではどうやって教えてるんですかね。自由でいいのか。

ところで、叡王戦はマルチアングル(カメラの視点が複数ある)が採用されていますから、並べ方をじっくり観ることができます。

好きな棋士、尊敬する棋士の並べ方を観察してみるというのも、面白いと思います。

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コメント

  1. やったか? より:

    先日の叡王戦での加藤一二三先生の並べ方も印象的でした。
    並べる駒の順番はまともなんですが、とりあえずバチンバチンと駒を置いて(升目からはみ出そうが斜め向きだろうがお構いなし)、全部置き終わってから各駒をチョンチョンと直すという。
    見ていてすがすがしくなるくらいの豪快さ。揮毫の仕方もそうですが、さすが加藤先生という豪快さでした。でも加藤先生ご自身にとっては、いたって自然になさってるんでしょうね。

    • 管理人 管理人 より:

      コメントありがとうございます。

      加藤九段、あの並べ方は盛り上がりますよね。「あと何分」とかも面白かったです。やっぱりレジェンドなんだと思いました。何かの本に書いてありましたが、確かにご本人はいたって普通なんですよね。

      座っている姿はきつそうでした。(余談ですが、さっきふと加藤九段の戦法で「棒銀暴食」というネタを思いつきました。しかし検索してみたら何件かヒットしました。やっぱり先に思いつく人はいるんですね)

      叡王戦は対局前後もいろいろありますね。どこかの記事にも書いたかもしれませんが、タバコをふかす棋士、座布団を回す棋士、感想戦長くやる人、ちょっとしかやらない人、どちらが振り歩先を間違える記録係、記録係の服装などなど、見どころが多いです。タイトル戦やテレビ対局にない良さですね。

      コメントありがとうございます。

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