小説現代2015年7月号の誌上で、逢坂剛さんと黒川博行さんによる将棋対決が行われていますのでご紹介します。
対局者の2人はいずれも推理作家として著名で、一般社団法人日本推理作家協会の会員。
逢坂さんは最近だとドラマの「MOZU」シリーズ(主演は西島秀俊さん)の原作者といえばわかりやすいでしょうか。一方、黒川さんもドラマ「刑事吉永誠一」シリーズ(主演は船越英一郎さん)の原作者です。
そしてなんと、対局前日には同協会の「ミステリーズ」と、我らが日本将棋連盟の「キングス」によるソフトボール対決も行われています。
昨日は吉川英治賞も受賞した作家逢坂剛氏ひきいるミステリーズとキングスが対戦。
先発投手ストライク入らずザ草野球になりました。
最後まで諦めずに追いすがるも71歳の逢坂さんに完投を許し敗戦、打ち上げも含めて楽しい1日でした。 pic.twitter.com/4RRgupgI2r
— 田中寅彦 (@tora_ejison) 2015, 5月 22
上記の田中寅彦九段のツイートにもあるように、逢坂剛さんはこの試合でピッチャーとしてマウンドに立ち完投。71歳ですよ!
将棋界と文学界の文化の違い
立会、解説は先崎学九段。記録はNHK杯でもおなじみ、奨励会の甲斐日向三段。対局場は東京・将棋会館5階の香雲の間。持ち時間はチェスクロックで30分の早指し。
詳しくは小説現代をご覧いただくのがよいのですが、先崎九段は対局前に「で、この勝負に何を賭けるんですか?」と煽りました。
先崎九段からの「賭け」の提案は、負けた方が勝った方を1年間「大先生」と呼ぶというというものだったのですが、主催である小説現代編集部はこれを却下し「清く正しくただ名誉」のみを賭けることになりました。
これが、将棋界と文学界の文化の違いでしょうか。
提案を却下された先崎九段は、その後は終始真面目な解説をされていました。
相振り飛車に
戦型は、先手の逢坂さんが四間、後手の黒川さんが三間に飛車を振り、相振り飛車に。
(詳しい棋譜も、小説現代に掲載されていますので興味がある方はご覧ください)
振り飛車党なら誰もが通る道
先手は美濃囲いを目指し、後手は簡単な囲いで銀を突っ込んできました。
ここで先手の逢坂さんは悠々と美濃囲いを完成させる▲5八金左。大丈夫か。
これを見た後手は早速3筋から攻めてきます。
素直に▲同歩で応じると・・・
ギャー!王手!
これは振り飛車党なら一度は通る道だと思います。先手は、どこかで後手の角を5五に出させないようにする手を指すべきだったように思います。でもまだまだこれから。
と思っていたら、うまく受けることができず壊滅的な状況に陥る先手。
さらに壊滅的に。これはもう敗勢でしょう。
しかし先手はなんとか竜を追い返し、逆に馬を作って、飛車先の6筋から玉頭を攻める形に。
後手がトドメを刺し損ねているうちに、先手は先に作った馬を自陣付近中央に引きつけ、さらにもう一枚馬を作りました。
もう先手が完全に逆転。さて、先手の次の一手は?
▲1五歩で、後手の竜が詰んでます。が、実際に先手が指したのは▲8一香成でした(悪くはなさそうですが)。この局面で両対局者は5六の馬の存在をうっかりしていたようで、数手後までこの「竜の一手詰め」は放置され、難を逃れます。
お互いの玉が4段目に出て行く激戦に。ん・・・以下の局面はここでもしかして・・・?
詰んでるように見えます。たぶん詰んでます。▲8六桂から。
しかし詰みを逃してしまう優しい先手。
以下の局面は、直前の▲2五歩打で後手の2六の銀の紐が外れたので、それを助けるために4四の銀を△3五銀と進めた局面。しかし4四の銀は1一の馬を封鎖していた役割があったので・・・。
後手は銀を助けたがために、自玉に詰みが生じてしまいました。
1一の馬が開放された先手は、直後にバシッとその馬で王手。
逢坂剛さんの大逆転勝利
この手を見て後手は投了。
先手の逢坂さんが勝利を収めました。
序盤早々の先手陣大崩壊な状況からは想像できない大逆転。
黒川さんは序盤の大優勢でも「決めきれる棋力がなくてよう間違うた」、逢坂さんは「黒ちゃんが自分で転んでくれた」、先崎九段は「最初はあっという間に決着が着くかと思ったが、大乱戦になった」などと感想を述べていました。
なおこのお二人は、某社某誌で20年前にも将棋を指していて、この時は黒川さんが勝利していたとのことです。
作家が身近に感じられる?
具体的に、先生方の棋力が何級とか何段だとかはわかりませんが、これは自分より棋力が上だなとか、自分の方が上だとか、推測できるのではないでしょうか。
普段、緻密にストーリーやトリックを書き上げていく作家の先生方が、なんとも人間らしい一手を見せるという光景。特に竜の一手詰めをお互いに見逃していたというのは、普段プロ棋士の対局を見ることが多い私(管理人)にとって、なんともほのぼのとした気分になりました(申し訳ありません)。
将棋界と小説界
繰り返しになりますが、詳しくは小説現代2015年7月号をご覧ください。全棋譜も掲載されており、先崎九段の適切な解説付きでご覧いただくことができますし、モノクロですが写真も掲載されています。
最近発表された第10回小説現代長編新人賞受賞作も将棋を扱った作品のようですし、なにかと今後も将棋界と小説現代はお付き合いがありそうですね。
とりあえず、次回のミステリーズVSキングスは、ぜひニコニコ生放送で中継して欲しいです。視聴するかはわかりませんけど・・・。
以上、最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
コメント
作家たちが「棋翁」という将棋タイトルを争う棋翁戦の顛末が本になっています。
http://www.amazon.co.jp/%E6%A3%8B%E7%BF%81%E6%88%A6%E3%81%A6%E3%82%93%E3%81%BE%E3%81%A4%E8%A8%98-%E9%80%A2%E5%9D%82-%E5%89%9B/dp/4087741257
逢坂剛氏と黒川博行氏も参加しています。
本はもう処分してしまいましたし、昔の事なので両氏の直接対決が有ったかどうかは覚えていません。
この記事を読んだとき、真っ先にこの本の事を思い浮かべました。
コメント、情報ありがとうございます。
棋翁!!なんですかこれ。しかも豪華なメンバー。20年も前の本でけど、非常に面白そうなんですが。
これは是非欲しい。バトルロイヤルってなんだ・・・。
当サイトの運営上、何か新しい発想が得られそうだという気さえしています。ご紹介ありがとうございます。