2015年5月4日の「第25回世界コンピュータ将棋選手権」の2次予選で、コンピュータソフトSeleneが、同選手権史上初の入玉宣言法の「宣言」による勝利をおさめました。
しかも、この入玉宣言をSeleneは13手前から読み切っていたということです。
Seleneといえば、西海枝昌彦さんが1人で開発したソフトで、将棋電王戦FINAL第2局にも出場したことで知られる強豪です。入玉宣言が発生した対局の相手は、この選手権で健闘をみせたソフト「ひまわり」で、決して弱い相手ではありません。
詳しい棋譜は以下をご覧ください。
入玉宣言法とは
同選手権のルールによれば、第25条に以下のようにあります。
(入玉宣言法)
第25条
1 次の各号に掲げる条件がすべて成立する場合、勝ちを宣言できる(以下「入玉宣言」という)。1つでも条件を満たしていない場合、宣言した方が負けとなる。
一 宣言側の手番である。
二 宣言側の玉が敵陣三段目以内に入っている。
三 宣言側が、大駒5点小駒1点で計算して
・先手の場合28点以上の持点がある。
・後手の場合27点以上の持点がある。
・点数の対象となるのは、宣言側の持駒と敵陣三段目以内に存在する玉を除く宣言側の駒
のみである。
四 宣言側の敵陣三段目以内の駒は、玉を除いて10枚以上存在する。
五 宣言側の玉に王手がかかっていない。
六 宣言側の持ち時間が残っている。
終局時の局面
入玉宣言が発生した時の局面はこちらです。これが209手目。次の210手目に後手のSeleneが宣言します。
後手のSeleneからみて、敵陣(下側3段以内)に玉があり(条件二)、持ち点は37点あり(条件三)、敵陣に玉を除き10枚の駒があり(条件四)、自玉に王手がかかっていません(条件五)。
208手目に△2七銀を打ち、最後の条件である条件四を満たしています。
経過
上記の局面に至る過程ですが、まずは戦型は相掛かりでした。
124手目に後手Seleneが入玉。
175手目に先手ひまわりが入玉。
ここからSeleneは、208手目までに着々と入玉宣言法の条件を整え、210手目で宣言したということになります。最終局面を再掲します。
プロ棋士のルール
人間のプロ棋士が対局する日本将棋連盟のルールでも宣言勝ちのルールは存在します。
平成25年(2013年)10月1日より暫定施行されている日本将棋連盟のルールでは、先後両者の玉が敵陣に入って、諸条件を満たし両者が合意した場合は「持将棋」となりますが、合意に至らない場合は「入玉宣言法」が適用されます。
この入玉宣言法のルールは、世界コンピュータ将棋選手権と日本将棋連盟で少し異なっています。一番大きな違いは「持ち点」。
世界コンピュータ将棋選手権のルールでは持ち点が「先手28点以上、後手27点以上」で宣言勝ちですが、日本将棋連盟のルールでは「31点」で勝ち、「24点以上30点以下」であれば引き分けとなります。
プロ棋士の対局では、宣言によって決着がついた事例がないそうです。
プログラム上のルール
その他、世界コンピュータ将棋選手権のルールでは、コンピュータプログラム独特のルールとして以下があります。
2 入玉宣言は、プログラムにより、以下の各号に掲げる方法で行うものとする。
一 入玉宣言をすることを画面上に明示する。
二 対戦サーバを用いた対戦の場合、前号に加え、対戦サーバに「%KACHI」のコマンドを送信する。
相入玉、持将棋でも珍しいのですが、入玉宣言で勝利となると歴史的です。
西海枝昌彦さんすごい
Seleneは、このめったに発生し得ない入玉宣言を、正確にプログラムしていたということになります。しかも前述のとおり13手前から、読み切っての勝利です。
一方で、電王戦FINAL第2局では角不成に対応しておらず投了・・・。開発者の西海枝昌彦さん、天才すぎます。
他のソフトへの影響も?
入玉宣言による勝利が伝えられると、会場では拍手が起こりました。
今回の出来事により、Selene以外のプログラムも、宣言に対応する、あるいは宣言されないように回避するような対応をするのか(既にしている?)、あるいは、それはレアケースだということで対応しないのか、いろいろ方針が分かれそうで興味深いです。
なお、Seleneはこの2次予選を5勝4敗というギリギリの成績で突破しています。
宣言による勝利という歴史的な偉業を達成したソフトだけに、決勝でも健闘(できれば再び入玉宣言)を期待したいです。
コメント
点数計算間違っています。「敵陣三段目以内に存在する玉を除く宣言側の駒」に対して「盤面上の玉を除く宣言側の駒」で計算しているように見えます。
コメントありがとうございます。
申し訳ありません、ご指摘のとおりでした。修正致しました。
2次予選のニコ生(以下の7時間18分付近)の解説を観ていて、このときの「47点」という点数を記憶していて書いてしまいました。
http://live.nicovideo.jp/watch/lv217818155
観なおしたところ、上記はあくまで持将棋の時の点数で、入玉宣言にそのまま適用されるものではなかった、という私の勘違いでした。
ご指摘いただきましてありがとうございました。
点数の対象は何ですか
自分の駒ですね。飛車と角は5点、玉は0点、その他は1点で計算します。
詳しくは日本将棋連盟の対局規定(抄録)第6条およびその中のC「入玉宣言法」をご覧ください。
http://www.shogi.or.jp/faq/taikyoku-kitei.html