2015年12月11日の第41期棋王戦挑戦者決定トーナメント敗者組決勝(▲佐藤天彦八段vs△阿部健治郎六段)で、面白い一手が出たのでご紹介します。
面白い、というのは、佐藤八段が指した新手(と定義できると思います)が、事前にある動画の中でキャラクターが指摘していた手であったこと。その動画とはニコニコ動画にアップされている「盤上のシンデレラ」というシリーズの動画です。
この記事では、簡単に対局の流れと、その動画をご紹介します。
2015/12/12追記:
ご紹介する新手は「楓新手」と呼ばれているようです。また、対局後に佐藤八段がツイートしていますので追記しました。
角換わり腰掛け銀
前例もある形なので例の新手の箇所まではサラッとご紹介します。詳しい棋譜は日本将棋連盟モバイルで。先手が佐藤八段、後手が阿部六段。角換わり腰掛け銀に。
以下の局面で後手から仕掛け。
棋譜コメントには以下のように書かれており、最近研究が盛んな形のようです。
前例の半分以上が今年度に指されている仕掛け。プロのテーマ図と言ってもいいだろう。
上図から15手ほど進み、後手が46分使って以下の手を指す。(本体局の持ち時間は各4時間)
佐藤八段は10分使って飛車を回る。
この局面は、今年11月15日の将棋日本シリーズJTプロ公式戦の決勝戦(▲三浦弘行九段vs△深浦康市九段)で出た局面と同じ。棋譜は以下でご覧ください。
2015年度 将棋日本シリーズ 東京大会 JTプロ公式戦 決勝戦(JT)
ただし、JT杯では少し回り道しているため、本局とは手数は違います。
棋譜コメントには以下のように書かれています。
▲三浦-△深浦戦と同じ局面だ。結果は先手が勝ち、三浦九段が初優勝を果たしたが、途中は後手が有望だったといわれている。
本局でいえば、後手の阿部六段が有望になる局面。阿部六段はJT杯決勝と同じ△4七と。
ここで、佐藤八段が考慮時間を使わずに。
過激に▲5四銀!!
この手については後で紹介する動画で詳しく解説されています。
JT杯決勝では▲5六銀でした。▲5四銀に△同歩は▲6四角の王手飛車取り。
棋譜コメントには、局後の感想として以下のように書かれています。
この手が決め手で、以降の変化は先手が一手勝ちとされた。
攻め合うのは先手が良いようです。後手は△6三歩。そこから▲6八金右 △8六歩 ▲同歩 △8七歩に63分考えて▲5三桂成。
これが最後の決め手になったようです。棋譜コメントにある局後の感想は以下。
ここでの踏み込みが、「しっかり読みきられていました」と阿部が話した好判断だった。
この後は、後手が128分という大長考の末△8六飛としますが。
約10手後、以下の局面で後手の阿部六段が投了。
71手。佐藤八段の残り時間は1時間33分、阿部六段は7分。
佐藤八段が挑戦者決定戦に進出しました。
盤上のシンデレラ
「盤上のシンデレラ」シリーズは、ゲーム「アイドルマスター シンデレラガールズ(モバマス)」の二次創作(?)。私このあたりあまり詳しくないので間違っていたら教えて下さい。略称は「盤デレ」または「盤デレラ」のようです。
今年11月1日から現在(12月11日時点)までに、6本の動画がニコニコ動画にアップされています。この「盤上のシンデレラ」シリーズについては、また後日詳しくご紹介しますが、驚くのは11月21日にアップされたシリーズ4作目の以下の動画。
「盤上のシンデレラ ~安部菜々と地獄の検討室~ 第4局」と題された動画ですが、注目なのは6分付近から。JT杯での局面を検討しています。
さらに注目なのが7分7秒付近から。「未央」というキャラクターが以下のように指摘します。
・・・・・ここで5四銀ってないかな?
まさに12月11日、佐藤天彦八段が指した手。未央は前例の問題点と、5四銀の場合の利点を説明します。その後もいろいろ検討されていますのでご覧になってみてください。
追記:
この新手は、動画内での現アイドル名人・楓さん(高垣楓)が指したことから「楓新手」と呼ばれているようです。
何者なのか
例のJT杯決勝が11月15日、この動画のアップされた日は11月21日。1週間で検討されアップされたことになります。
となると「盤上のシンデレラ」シリーズをアップしているのは相当の棋力の持ち主か、あるいはコンピュータ将棋ソフトを駆使しているのか。
四駒関係(KKPP)さん
この動画シリーズを投稿している人のプロフィール名は「四駒関係(KKPP)」さんとなっています。(性別、生年月日、住所は非公開)
「四駒関係」は、コンピュータ将棋ソフトの評価関数を作る時に「4つの駒の位置の関係を考慮する」という意味。KKPPは、自玉、相手玉およびそれ以外の2駒の関係という意味です(この辺も間違っていたら教えて下さい)。Bonanzaを源流として、現在のPonanzaやAperyなどの上位ソフトの主流は「三駒関係」で、四駒関係は珍しいです。
この四駒関係(KKPP)を使っていることで有名なソフトは「N4S」。2014年の世界コンピュータ将棋選手権では8位、2015年は10位になったソフト。11月の第3回将棋電王トーナメントでは、マシンのスペックの都合で4駒関係を諦めて3駒関係の「大将軍」として出場しベスト8でした。
だからといってN4Sの関係者が「盤上のシンデレラ」に関与しているとは限りませんが、上記動画のような研究ができる4駒関係のソフトは限られると思われますので、何らか関係がありそうです。あくまで推測ですが。
佐藤天彦八段による総括
佐藤八段がこの動画をご覧になったのか、まったく別にこの新手が研究されたのかはわかりません。最初の方に書きましたとおり、研究が盛んに行われていると思われる局面からの流れですし、JT杯決勝という大舞台で指された局面からの変化ですので、多くの人に研究されている可能性があります。
追記:
佐藤八段が対局後の総括をツイートされていますのでご紹介します。
今日は棋王戦対阿部健治郎六段戦。角換わりの最新形から新手を放ちました。わからないところは多かったですが、数手後には勝ちのルートに入っていたかもしれません。次も頑張ります。
— 佐藤 天彦 (@AMAHIKOSATOh) 2015, 12月 11
以上です。ありがとうございました。
コメント
管理人です。以下追記しました。
・この手が「楓新手」と呼ばれている件
・佐藤天彦八段の対局後のツイート
以上です。
佐藤八段は盤上のシンデレラ動画を知らなかったようですね。
(佐藤八段のツイートより)
情報ありがとうございます。どうやらそのようですね。
実はJT杯決勝の解説(感想戦かも)でも、指摘があったいう話をツイッターで見ました。
一度世に出た鉱脈は掘られるのが速いなあと思いました。