2015年9月14日に行われた第28期竜王戦挑戦者決定戦3番勝負第3局、▲渡辺明棋王vs△永瀬拓矢六段は、渡辺棋王が勝利。
これで対戦成績を2勝1敗として、糸谷哲郎竜王への挑戦権を獲得しました。
詳しい棋譜は竜王戦中継サイトで御覧ください。
戦型は角換わりに
振り駒によって、先手は渡辺棋王に。
第1局、第2局の戦型は矢倉でした。この第3局は角換わりに。43手目で先手の渡辺棋王から仕掛ける。
渡辺棋王はわずか4日前、9月10日のA級順位戦の行方尚史八段戦で同じ形を、しかも同じ先手番で指しており、勝利しています。当時の棋譜コメントには「いきなりの仕掛け」と書かれており、その時点での前例はすべて昭和の時代に指されたものでした。
永瀬六段ももちろん、この仕掛けはわかっていたはず。その上でこの局面になったということは、この後に対策を用意してきたか、少なくとも考えていたと思われます。
後手が変化
46手目。ここで後手の永瀬六段が前述の前例から離れる△4六歩。これが対策なのか。
50分の長考で指された一手。ここまでの消費時間は渡辺棋王の21分に対し永瀬六段は1時間42分と大差に。
渡辺棋王の長考
先手は飛車先の歩を交換し、前述の後手の4六の歩を払いながら4筋に飛車を展開(55手目)。
ここで永瀬六段は△4四歩。
他の駒が効いていない4四の地点に打った歩。しかしただより高いものはない。仮に先手が▲同飛と取れば、△2六角で飛桂両取り。飛車が捕獲される危険性も。これを見た渡辺棋王は長考に沈みます。
本局は将棋プレミアムで生中継されていたのですが、解説(後半担当)の西尾明六段によると、前述の行方八段も前日に「△4四歩という手がある」と話されていたとのこと。仮に△4四歩に代えて△4三歩と低く受けると、先手に飛車を▲3六飛と3筋に回られ、その後▲3五歩と打たれた時に後手の3四の銀の引き場所がない。ただし、△4四歩は攻めを呼びこむ危険性もあります。
時間を使う永瀬六段
67分の長考の末、先手の渡辺棋王は▲4四同飛。
後手としては△4四歩と打ったからには、▲同飛の局面を想定していたはず。が、永瀬六段もまたここで長考に沈みます。
40分後に指されたのは△2六角。
この手は解説(前半担当)の伊藤真吾五段も示していた手です。ここで40分使ったということは、▲4四同飛とは取れないとみていたのか。
持ち時間に差がついたまま終盤へ
暫くは検討陣の検討通りに進み、後手が△4一飛と逃げたところで渡辺棋王が再び長考。
渡辺棋王は序盤でほとんど時間を使わなかった分、中盤以降にふんだんに時間を投入。そして夕食休憩を挟んで48分の考慮で指された手は▲3五歩。
固い陣形の先手が攻め、後手が受ける展開に。形勢は難解。しかし後手は受けを間違えるとたちどころに崩壊する神経を使う局面。加えて時間もない。局面の形勢は互角でも、勝ちやすさは先手のほうに分があったようです。
先手が勝勢に
その後、やはりじわじわと差が広がり、先手は馬を二枚作って優勢に。後手も竜を作りますが、先手はうまい受けで二枚竜を作らせない。
永瀬六段は△8六桂を決断。
しかし先手は冷静に対処。▲同歩 △同歩 ▲7九桂。
後手に攻めがなくなり、以下の局面に至り、解説の西尾明六段は先手勝勢の見解。
永世竜王資格保持者が7番勝負へ
その後は渡辺棋王が冷静に寄せ、121手目を見た永瀬六段が投了。渡辺棋王は30分時間を残しての勝利となりました。永瀬六段は残り2分でした。
渡辺棋王は2013年の第25期で竜王を失冠して以来、2年ぶりの竜王戦7番勝負へ。
一方、永瀬拓矢六段は、ランキング戦4組優勝から勝ち上がり、「1組の壁」を突破(vs藤井猛九段戦)し、その後も佐藤康光九段、羽生善治名人と、竜王経験者を次々に破ってきましたが、挑戦者決定戦で永世竜王資格保持者の前に力尽きました。
ことば「1組の壁」。
竜王戦の決勝トーナメントでは、第19期でトーナメント形式が変更されて以降、ランキング戦4、5、6組の優勝者は、待ち受ける1組5位との戦いに9期連続で破れ続けてきました。これは「1組の壁」と呼ばれていました
この壁は今期、永瀬六段(と藤井猛九段のファンタによって)に破られました。挑戦者決定戦で敗れましたが、永瀬六段は歴史に名を刻みました。
若い棋士同士のタイトル戦
渡辺棋王が、竜王奪還を目指しタイトル戦へ。待ち受けるのは糸谷哲郎竜王。
糸谷竜王は前期竜王戦で森内俊之竜王(当時)を破り初タイトルを獲得しています。その特徴は早指し。特に形勢が悪くなってからは意識的に早指しをして森内竜王相手に時間攻め。大逆転で勝利した一戦もありました。
一方の渡辺棋王も本局で見せたように、序盤はどんどん飛ばす時間の使い方に特徴がある棋士。
糸谷竜王は26歳(7番勝負の頃には27歳)。渡辺棋王は31歳。長らく羽生善治名人をはじめとした羽生世代と呼ばれる棋士達やその少し下の世代の棋士達がタイトル戦に出続けてきましたが、こんなに若い棋士同士のタイトル戦は久しぶり(2010年度の王位戦:深浦王位38歳+広瀬挑戦者23歳=61歳。2010年度の王将戦:久保王将35歳+豊島挑戦者20歳=55歳。今回の竜王戦は糸谷竜王27歳+渡辺明挑戦者31歳=58歳。なお同年度の棋王戦は渡辺棋王31歳+佐藤天挑戦者28歳=59歳。コメント欄参照です)。2日制のタイトル戦で、2人がどのような時間の使い方を見せるか。楽しみになってきました。
第28期竜王戦7番勝負第1局は10月15・16日、富山県黒部市の「宇奈月国際ホテル」で開催されます。
コメント
渡辺棋王、盤石の指し回しの勝利でしたね。七番勝負が今から楽しみです。
ところで、記事中、先手の指し手「▲9七桂」とあるのは「▲7九桂」だと思います。ご確認頂ければ幸いです。
コメントありがとうございます。
いつもご指摘ありがとうございます。
ご指摘のとおりです。修正致しました。
確認したつもりが、失礼いたしました。
間違い見落とし、半年以上もサイトやってるのに治らないです。我ながらひどいですが、今後もおつきあいよろしくお願い致します。
ありがとうございます。
若い棋士のタイトル戦というと、2010年度の深浦王位-広瀬六段戦より若い戦いがあったと思います。
追加お願いします。
2010年度の王位戦:深浦王位38歳+広瀬挑戦者23歳=61歳
2010年度の王将戦:久保王将35歳+豊島挑戦者20歳=55歳
2015年度の竜王戦:糸谷竜王27歳+渡辺明挑戦者31歳=58歳
2015年度の棋王戦:渡辺棋王31歳+佐藤天挑戦者28歳=59歳
コメント、情報ありがとうございます。記事中に入れました。
久保利明王将と豊島将之挑戦者がかなり若いですね。20代の棋士が次々にタイトルに挑戦していますし、タイトルホルダーも誕生しているので今後も若い棋士同士の対決が相次ぐと思いますね。