2015年10月15・16日開催の第28期竜王戦七番勝負第1局(△糸谷哲郎竜王vs▲渡辺明棋王)は、糸谷竜王が勝利。
両者が得意な「角換わり」のシリーズになるかと思われましたが、この開幕局は振り駒で後手となった糸谷哲郎竜王が意表の横歩取りを選択。
検討陣は中盤までは先手持ちと判断していました。また、ニコニコ生放送ではponanzaの評価値が表示されるなか解説が行われたのですが、ponanzaも中盤までは先手が有利と評価していました。
したがって第1局は後手の逆転勝ちと言えそうです。
詳しい棋譜は竜王戦中継サイトでご覧ください。この記事では簡単に対局の流れをご紹介します。
横歩取りに
初手から▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩からの、後手・糸谷哲郎竜王の4手目がまさかの△8四歩。
棋譜コメントによるとこの一手は
糸谷は過去5年、4手目に△8八角成と△3二金以外の手を指していない
ぐらいの意表を突かれる手。戦型は横歩取りに。
糸谷竜王の後手番横歩取りは、前例なし。1年前、竜王になってから多忙なようですので、研究勝負ではない形を選択したか。
中盤、お互いに玉に手をかける。あまり見ない形に。
なお、この記事では、この後いくつか局面図が出てきます。そして記事の最後の方で各局面におけるニコ生で表示されたponanzaの評価値をご紹介します。(局面図と評価値を同じ場所に掲載しないのは、まずは局面図だけを見て自分で考えてみたい方への配慮です。どの記事でもやるわけではありませんが、この記事では実験的にやってみようかと思いまして)
58手目。
後手、決断の角打ち。
横歩取りだったはずが、居飛車対振り飛車の対抗形のような形に。
後手陣が振り飛車っぽくなってきたのを見て、藤井九段は「よし、こっちを持つか」と、盤をひっくり返して検討を始めました。#竜王戦 pic.twitter.com/F7BWs3kFv1
— 将棋世界 (@shogi_sekai) 2015, 10月 16
お互いに攻め合って、右側がすっきり。
この少し前までは、控室では先手がよいという評判でした。ここでもまだ先手が良さそうに見えます。
しかし、後手も美濃囲いを完成させます。まずます対抗形のような形に。そして先手の守りを剥がしていく。
後手はやや盤面の下の方で駒が渋滞しているか。
竜王が逆転へ
以下の局面、現地の藤井猛九段はついに「形成不明だ」との見解。
そして50分以上の長考の末後手が指したのは△4八銀。
渋滞している駒たちの中に、さらに銀打ち。角、角、金、銀、銀で大渋滞。
ニコ生解説の広瀬章人八段は「良くも悪くも決着を付けに行った」と解説。
渡辺棋王も敵の玉頭に迫ります。
形勢が大きく動いたとみられるのは115手目、▲7五銀。
棋譜コメントでは
△8九金で後手が行けそうな気がします
と藤井猛九段。ponanzaも同じ手を推奨。そして糸谷竜王も実際に△8九金を着手。
控室も後手勝勢の判断に。
どんどん捌けていく渋滞していた駒たち。
熱戦の末に
以下の後手142手目を見て、渡辺明棋王が投了。
残り時間は糸谷竜王が42分、渡辺棋王が1分でした。
終盤はややアヤがあったようですが、先手の115手目以降は一貫して後手が良かったようです。
終わってみれば145手の熱戦でした。
広瀬八段の終局後の一言。
ponanzaの評価値も揺れに揺れて、最後は何かあったかと思ったんですけど、最後は糸谷竜王が辛くも逃げ切った。お互い早指しなので、終局時間の心配もされたが、むしろ大熱戦になった
そういえば、この二人は時間の使い方に特徴があり、早指しで、序盤の展開からして1日目で決着がついてしまうのではないかと言われていました。
ponanza評価値
各局面におけるponzanzaの評価値です。おおよその値、かつソフトは時間が経過すると評価値が変動しますので、目安程度に考えると良いかもしれません。
58手目 +650 先手優勢
83手目 +600 揺れ動いていましたがまだ先手優勢
95手目 -300 ▲7七同桂で後手が逆転
96手目 互角
99手目 -500 藤井九段が形勢不明とした局面
100手目 1000以上 大渋滞を作った△4八銀で先手再逆転
105手目 -1700 ここでまた後手が逆転。しかしその後互角に
115手目 直前まで互角だったのが-5000以上で後手勝勢に
もちろん、この評価が正しいということではありません。これだけ見れば逆転に次ぐ逆転に見えると思います。トップ棋士同士の対局でこれだけ評価が揺れ動いたということは、棋士とコンピュータの局面の捉え方が違っているということかと思います。比べるのはおかしいかもしれませんが、我が家のAperyさんは97手目以降は一貫して後手が良く、ponanzaさんとも違う評価でした。ますます来年の電王戦が楽しみに。
前評判を覆す
いよいよ開幕した竜王戦。
前評判では渡辺棋王が有利だという声が多かったように思います。
前夜祭での糸谷竜王本人の言葉。
果たして自分の実力はいかほどのものかと。自分で考えてもラチがあかないので、仲のよい棋士や奨励会員に飲み会の席で聞いてみたのですが、0-4、1-4、2-4(で竜王失冠)と言われまして、どうやら聞く相手を間違えました
読売新聞の展望記事では山崎隆之八段が条件付きで糸谷竜王の防衛を予想、畠山鎮七段は渡辺棋王の奪取を予想していました。
山崎 4局目までに糸谷竜王が1勝以上して互角に戦える手応えを感じたら、4勝3敗で防衛すると思います。
畠山 私は渡辺棋王の方が実績、作戦の幅、経験で手厚いと思うので、4勝2敗で奪取と予想します。
しかしさすが竜王というか、この大一番で横歩取りを採用し逆転模様の勝利。
思えば、前期の竜王戦でも糸谷七段は逆転で森内竜王に勝利してきました。本局でも特に終盤になるとノータイムで指す場面や、離席などがあり、糸谷竜王らしさ(?)が見られました。
有利と言われた方がまず1敗という展開は、面白いシリーズになる予感です。
おまけに、開幕記念に竜を描いた藤田綾女流初段の笑顔をご紹介します。
本日の藤田画伯。お題は「竜」。素晴らしい出来に画伯はご満悦です。 pic.twitter.com/N4jTcQzchC
— 日本将棋連盟モバイル (@shogi_mobile) 2015, 10月 16
第28期竜王戦第2局は10月29・30日、北海道の京王プラザホテル札幌で行われます。
コメント
はじめまして。
こちらの記事を、Facebookにシェアさせていただきました。
事後承諾をいただく形になりすみませんが、よろしくお願いします。
もし、承諾いただけないようでしたら、削除いたします。
はじめまして。コメントありがとうございます。
はい、承諾しますし、特に問題ありません。
このようにご報告いただくのは初めてですね。わざわざありがとうございます。
シェアしていただきまして嬉しいです。
今後ともよろしくお願い致します。
ノータイム指しなどで相手のミスを誘うのはこれまでもやっていましたが、
一度も指したことが無かった後手番横歩を大一番で採用するなど、
竜王の勝負師っぷりに磨きがかかっているような気がします。
渡辺棋王の実績を考えれば、1敗してもなお五分か挑戦者有利という見方もできますが、
結果はどうあれ面白いシリーズになりそうということは確かですね。
コメントありがとうございます。
ここ一番での後手番横歩採用というのが、面白いですね。
また対人間戦での力の発揮の仕方というのを改めて思いました。時間も、終わってみれば竜王がかなり残していますし、おそらく終盤の入り口ぐらいまでは互角だったんじゃないかと思いますが、時間がなくなった挑戦者、もうちょっと考えたかった局面もあったと思います。
この後も面白いシリーズになりそうです。
Facebookにシェア承諾いただきまして、ありがとうございます。
ここはきれいにまとまっていて、見やすいのでまた使わせていただくかと思いますが、よろしくお願いします。
毎日の更新、お疲れ様です。いつも愉しみにしております。
お礼のご挨拶まで、文書で失礼いたします。
はい、丁寧にありがとうございます。
また、いつもご覧になっていただいているようでありがとうございます。嬉しいです。
私としましても、見やすくなるようにサイトの品質の維持・向上につとめてまいります。
またなにかご意見等ありましたらなんなりとおっしゃって下さい。今後共よろしくお願い致します。
渡辺棋王のファンとして、この負け方はショックでした。
ずっと渡辺ペースでしたし。
しかも、相手が若手の糸谷竜王なので、余計にショックでした。
でも、おもしろいシリーズを期待しています。
(ちなみに読売新聞側は、竜王ランキング戦終了時点で、糸谷竜王-挑戦者羽生を期待していたようです。)
コメントありがとうございます。
やっぱりそうですよね。おそらく渡辺棋王ファンにとっては、糸谷竜王の勝負術にしてやられた感があったんじゃないかと推測していました。
でもこれで糸谷竜王の評価ががらっとかわったのかなと。ノータイム指しに加えて、作戦の選び方でもなにかしてくるぞと、そんな心理を植えつけたのではないかと思います。
まあ羽生名人はいつでも人気、別格ですからね。期待されてもしょうがないというか、あまり気にしなくてもいいと思います。