2015年7月24日の第1期叡王戦六段予選では、私(管理人)が密かに期待しておりました西尾明六段が登場。
西尾六段は、今年3月から4月にかけて行われた将棋電王戦FINALで棋士側の参謀役として活動。データ分析や戦略の立案などで、3勝2敗という結果に貢献しました。
また、最近西尾六段は序盤で実戦例の少ない形を採用するなど意欲的で、銀河戦で9連勝していたのですが、これはコンピュータソフトによる研究の結果だということです。
この記事をご参照下さい。
コンピュータ将棋ソフトの活用が進むと力戦形が増えて終盤力が重要になる説。序盤の幅が広がりすぎて絞り切れない楽しい時代に?
密かな期待
上記のように、西尾六段は今、将棋界で最もコンピュータ将棋に詳しく、使いこなしている棋士だと言っても過言ではないと思います。
そのため、もしこの叡王戦を勝ち上がり優勝者に出場権が与えられる「第1期電王戦」に出ようものなら、これまでの電王戦とはまた違った戦いが期待できるかも、と思っていました。
大ポカで敗戦
午前中の1回戦で村田智弘六段を破った西尾六段。午後の2回戦の相手は大石直嗣六段でした。
詳しい棋譜は日本将棋連盟モバイル中継アプリ、または後日叡王戦のホームページでご覧ください。
戦型は、相掛かりから後手の西尾六段が飛車先の銀を出て行く展開に。やっぱり実戦例の少ない(ない?)形を採用する西尾六段。
終盤には西尾六段がリード。棋譜コメントでも「棋士室では後手(西尾六段)勝ちと言われている」と書かれ、その後も順調に指し進め以下の117手目の局面を迎えました。
この時、後手玉には詰みがないため、後手としては先手玉に必至をかければ勝ちだったようです。しかし後手は詰ませにいく△7六桂を選択。
棋譜コメントには
西尾は即詰みと見て△7六桂を放ったが△7八金 ▲9八玉 △7七金の必至で勝ちだった
と書かれています。おそらくプロ的にはそれほど難しくない必至。
後手の王手に先手は▲9八玉。
ここでも、△7八金から必至だと思います。
が、西尾六段の選択はやはり即詰みがあるとみる△8八金。
棋譜コメントには
検討陣が「え?え?え?」とどよめく
と書かれています。
125手目、先手玉は7七に。
ここで棋譜コメントには
「いやあ、こんなことがあるんですねえ」(西川和五段)
その次の手には
西尾が△8七角成を着手しようとして止まった。
とありますので、ここで西尾六段は先手玉が詰まいないことに気づいたようです。
しょうがなく△6八ととしますが。
駒をもらった先手は▲3四桂。
ここで西尾六段が投了。以下即詰み。棋譜コメントが切ない。
感想戦はわずか数分で終了。記者が対局室に向かうと、すでに西尾は帰りのエレベーターに乗り込んでいた。
手元のAperyさんで確認したところ、必至をかければよかった局面では後手が5000ほどの値となっていました。
笑いしかない
これは辛い敗戦・・・。と思いきや(辛いのでしょうが)、笑う西尾六段。
大ポカにも程がありました。笑えないけど、こんなことがあるのかと笑いしか出てこなかった。
— 西尾明 (@nishio1979) 2015, 7月 24
チェスの大悪手ランキングを見る
そして慰めにチェスの大悪手ランキングを見る。
チェスの大悪手ランキングを見る。結論のグランドマスターや世界チャンピオンも人間だという言葉にやや慰められる。http://t.co/6NqjpZXp9G
— 西尾明 (@nishio1979) 2015, 7月 24
へえ!このページ、初めて見ましたけど興味深いです。
Top 10 Biggest Blunders Grandmasters Made at Chess
ランキング1位となったMagnus Carlsenは、世界チャンピオンです。彼の大悪手についてこう書かれています。
Carlsen decided that saving a pawn is more important than preventing the checkmate, so he played 65. e5?? and ofcourse got mated 65…Rc1#
将棋にして意訳。
カールセンは自玉の詰みの回避より、歩を守ることを選んだのさ。
▲e5歩という大悪手。もちろん後手は△c1飛車。・・・詰みさ。
「65. e5??」の意味は「65手目、e5ポーン、大悪手」です。チェスでは白番(先手)と黒番(後手)を対にして1手と表現します。単に盤上の地点だけ「e5」と書いてあれば、これは「ポーンが」が省略されているため「ポーンがe5に移動した」という意味です。その後の「??」は大悪手を示します。
そして「65…Rc1#」と書いてありますが、Rはルーク(飛車の動きの駒)です。後手の「ルークがc1に移動」、「#」は「チェックメイト、詰み」を表します。
詳しい棋譜の読み方は、Wikipediaの棋譜のページをご覧ください。チェスは「代数式」だけ見ればOKです。ついでに将棋の棋譜や囲碁の棋譜のことも書かれていますので、この際棋譜についての知識が曖昧な方は今一度読んでみてもいいかもしれません。
結論
西尾六段は、この記事の最後の「結論(Conclusions)」にある「GMやチャンピオンもミスをする」に慰められたとツイートしていますが、もう一つ、重大な結論が書かれていることに気付きました。
ランキング8番目の「Shredder」は有名チェスプログラムのようですが・・・。
Computers can blunder too! That was actually a big surprise for me.
コンピュータもポカをやらかすときがあるなんて!マジで驚いたよ
タダで取れるビショップ(角の動きの駒)を取らないという謎の行動。100万回に1回しか発生しないという「ハッシュテーブルエラー」が原因で発生したようです。詳しくは上記リンクから。見る人が見れば、面白いかもしれません。
こういうのがあるから、電王戦本番ではコンピュータ将棋開発者も緊張しそうですね。特に「第1期電王戦」は1つのソフトしか出場権がありませんし、めったに発生し得ないとはいえ、エラーが発生して下手したらイベント台なしの危険性も・・・。
西尾六段、叡王戦では密かに期待していまして、ポカで負けてしまいましたが、叡王戦・電王戦にふさわしい面白いページのご紹介をありがとうございました。