2015年7月26日放送の第65回NHK杯テレビ将棋トーナメント1回戦第17局は、▲谷川浩司九段VS△阿部健治郎五段という組み合わせ。
前日放送のアニメ「名探偵コナン 太閤恋する名人戦(後編)」(日本テレビ系)は将棋がテーマで、しかも使われた棋譜は谷川九段のものでした。
前編では以下の様な事件も。
名探偵コナン「太閤恋する名人戦」で将棋のタイトル戦にまつわる謎解き。そしてなんと翌日のアタック25に類似問題が
今回も、何かが起こるのでないかと期待が高まりました。
名探偵コナン「太閤恋する名人戦」
太閤恋する名人戦(後編)では、羽田秀吉六冠(通称、太閤名人)への復讐に燃える誘拐犯「谷森さん」が、10年前の因縁の一戦のやり直しを求める場面が。
棋界にとても詳しく、棋力もプロ並みのツイッターアカウントitumonさんがこの局面を解説します。
『名探偵コナン 785ー786話 太閤恋する名人戦』に使用された局面は
「1993年5月の棋聖戦第1局 羽生善治竜王(王座・棋王)ー△谷川浩司棋聖(王将)戦」ですね。勝又清和六段が監修なされた事もあって素敵なお話でした^^
→http://t.co/obqtOLjdae
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なるほど、先手の「谷森さん」が羽生善治竜王、後手の太閤名人は谷川浩司棋聖なんですね。
【おまけ】
これがコナンさんで使われた局面
▲4八飛と王手銀取りに打った所、狙いは王手で▲7八飛を狙っています。後手はこの7八の銀を取られたら負けです pic.twitter.com/5nW8uzdfAi
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谷森さんは「この必勝の▲4八飛が炸裂するだけだがな!!」と▲4八飛を着手し「ううははははははッッッッ!!!王手銀取り!!!私の勝ちだ!!(涙)うッ、うううう」と泣き出します。
病気で亡くなった奥さんの雪辱を果たしたと。
で、それに対し後手の谷川棋聖が指したのが△4七角!
この中合が絶妙手で後手勝ちとなりました pic.twitter.com/tHezY6LoOs
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太閤名人「△4七角」
谷森さん「えっ?△4七角だと?!」
△4七角に対し、それでも▲7八飛は△同飛成▲同玉△6九銀▲7七玉△7八金▲8六玉△8五歩(参考図)▲同玉△8四飛までの詰みとなります
△4七角以外の合駒では▲7八飛と取られてしまいますが、△4七角だけは▲7八飛と取れません pic.twitter.com/S0UoVl2qxU
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なので本譜は△4七角に▲同飛と取り、△5一玉▲5三香△6二玉▲4二竜△7一玉と逃げられてこれが投了図。
後手は△7三の銀が良く利いていて詰みがありませんし、先手玉は適当な受けもありませんので投了となりました。画像は投了図です。 pic.twitter.com/vscgCpSEXb
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谷森さん「△4七角は逆転の妙手。どのみち私は負けていたということか」
谷森さんを倒した太閤名人は、抜けだしていた名人戦の対局場にとんぼ返り。太閤名人は、その対局会場の目の前で恋人からキスされて「じゃ、頑張って行ってこい!」と言われます。
恋人がいない視聴者からは、この「行為」が対局者への「助言」にあたるのではないかというクレームが、日本テレビに寄せられたとか寄せられないとか。
不安を口にする谷川九段
アニメの中で放たれた逆転の妙手。そしてその妙手を放った谷川九段が翌日のNHK杯に登場という、願ってもないタイミング。
しかし対局前のインタビューでは、若手との対戦の不安を口にします。
谷川九段「久しぶりに1回戦からの出場になってしまったかと思う。若手との対戦は楽しみでもあり、不安でもある」
強気な阿部五段
一方、阿部五段は序盤でリードするとも取れる宣言。
阿部五段「谷川先生は終盤が強いので、形勢が良くなってからも気を引き締めて逆転負けしないようにしたい」
この阿部五段のインタビューに、解説の阿久津主税八段(後に重要な役割を果たす)は、「強気な感じ。優勢になる前提があるのかな。勝つ気満々で来ている」と述べていました。
なお詳しい棋譜はNHK杯のホームページをご覧ください。
横歩取りに
戦型は横歩取りに。後手の阿部五段が望んだものだと思います。
横歩取りはちょっとの間違いで大きな破綻をきたしてしまう戦型。研究が生きやすいともいわれます。
先手の谷川九段は飛車を中央に。一方の後手は飛車を2筋に。
不安が的中
お互いの飛車を取りあって。
ここで後手はいきなり角を突っ込む。
先手は、馬を金で取れば△2八飛が激痛。玉で取っても△4九飛が痛い。
これは、インタビューで言っていた「不安」が的中してしまったか。若手の研究にハマってしまったのか。素人目にも先手が厳しい戦いに。
阿部五段が予告したとおり「形勢が良くなった」。
しかしそれでも先手は攻撃の形を作り、以下の局面に。
ここで阿部五段が指した△3六とが、詰めろ逃れになっていたという・・・。
後手玉に詰みが?
以下の局面。先手は▲5九金とか受けて粘る手もあったと思います。
が、詰ませにいく谷川九段。
いわゆる形作りか。
光速流が
しかし、阿久津八段は「あれ、でもけっこう際どいですか。詰んでますか。詰んでますね。合駒が高い駒しかないので」と後手玉の詰みを指摘。
数手進んだ局面では、阿久津八段が「なんか読み切った感じですね。私も気づいてなかったんで」と谷川九段の手つきを解説。
阿部五段がインタビューで述べた「形勢が良くなってからも気を引き締めて逆転負けしないように」という伏線。これが回収されたのか。
聞き手の清水市代女流六段も「光速流が・・・」と言及し、先手の勝ちムードに。急転直下の詰みに、阿久津八段は「危機感がなくて恥ずかしい」とも述べていました。
もしかしてわかっていた?清水女流
清水女流が「詰将棋のような」と述べ、阿久津八段も「実戦で、ここまで詰将棋の手筋で詰むことはない」と解説。さすがは「光速流」谷川九段。
精算してから先手は▲4二飛と打つ。
視聴者の頭の中では前日の谷森さんが「この必勝の▲4二飛が炸裂!!ううははははははッッッッ!!」と叫んだかも知れません。
録画を観直してみると、清水女流、もしかして詰まないことに気づいていましたかね。「ここで駒台を見ると」とか「みなさんも1枚1枚持ち駒の(合駒の)変化を考えられていると思うんですが。詰まなそうにも見えるんですが」と、暗に合駒によっては詰まないことを指摘しているように聞こえます。
そして△5二角。
全谷川ファンの期待を背負っていた阿久津八段は「あ、角、あれ?あっそっか、角合、角合。ああ・・・私今日ダメですね」。
飛車を打って勝利を確信した谷森さんが「えっ?△5二角だと?!」と叫んでいる姿を想像した視聴者も多かったのではないでしょうか。
前日から張られた壮大な伏線は回収されました。
以下の局面で谷川九段が投了。
感想戦で「やっぱり研究不足でしたか」と述べていた谷川九段の姿が、ちょっと寂しかったです。会長、頑張って欲しい。
解説の力
この対局、名探偵コナンからの伏線回収には阿久津八段の解説が欠かせないです。角合を見落としていたのは、良く言えば視聴者目線で盛り上げてくれた、とも言えますし。
清水女流も本当は角合を指摘したかったところを、阿久津八段の意図をくんであえて指摘しなかったのだと思います。
もしかしたら上級者の視聴者の方は、詰まないことを見切っておられたかもしれません。しかし私(管理人、初段)ほどの棋力では△3六との局面で後手玉に詰みがないか考えるて「バラすだろ、飛車打つだろ、合駒打たれて送るだろ、ええっと。あ、あっくん詰むって言ってる。詰んでるんだ!」と感動し、△5二角で詰まないと言われて「えええええ!!谷森さんやん」と落胆するという楽しい日曜のひとときでした。
皆様お疲れ様でした。
勝利した阿部健治郎五段は2回戦で渡辺明棋王と対戦します。
コメント
私も阿久津八段の迷解説に躍らされた一人ですわ。
会長、若手の研究にハマっていきなり劣勢に陥り、このまま終わったら寂しいなぁと思っていたんです。
ところが6五角あたりから後手陣に食らいついて、寄せに行ったところで、
すわ、光速の寄せ炸裂か!大逆転か!
あっくんも詰むと力強く断言してるし、
さすが会長!これが光速の寄せか!
と感動してたのに、まさかの角合で、
私も思わず谷森さんかよ!ってテレビ画面に言ってしまいました。
まぁ、今期いちばん楽しめた対局だったんで良かったです。
ところでコナンに出てきた勝又名人の顔が某九段に似てたのは、きっと某九段のアニメ好きをリスペクトされたからだと勝手に思いました。こないだニコ生でコナン君の絵(しかも上手い)を 披露されてましたし。
長文になり、失礼しました。
コメントありがとうございます。
そうですね、角で攻防に効かせてなんとかと思ったんですが。先手陣が崩壊していたので早く終わっちゃうんじゃないかと心配しました。
あの攻めが成立するんですね。横歩取りになったところから嫌な予感がしたんです。
どこまで研究していたのか。阿部五段の指し手が早かったですからね。
阿久津八段の活躍なしには語れない一局でしょう。演技力なのか。
録画を観ましたがやっぱり清水女流は気づいていたような感じですね。後手の竜が受けに効いているのも指摘されていましたし。
そしてどうみても名人は高橋九段。
そういえば絵を披露されていましたね。トレースされたようですが、それでもあれだけやられるのはすごい。それをポスター(?)にしてしまうという心意気が素晴らしいです。
コメントありがとうございます。