2015年3月15日に放送された「第65回NHK杯テレビ将棋トーナメント」の女流棋士出場者(1枠)決定戦は、甲斐智美女流二冠(女流王位、倉敷藤花)が香川女流王将を破り本戦進出を決めました。
この対局は序盤から解説の阿久津主税八段も「見たことがない」展開に。
そして序盤早々、この対局のキーとなる(はずだったかもしれない)一手が阿久津八段によって示されました。
▲7二歩で先手大優勢?
先手となった甲斐女流二冠の初手は▲7六歩。それに対し、香川女流王将は△1四歩と応じました。いきなりの端歩。阿久津八段は「甲斐さんの方も頭に血がのぼりますね」と解説。
しかし甲斐女流二冠はこれを見て数秒手を止めましたが、すぐに▲7五歩と伸ばしました。
そして12手目、後手は△3四歩と角道をオープン。この局面が問題でした。
本譜は13手目に先手が▲4八玉としましたが、ここで阿久津八段から「すごい危なかったと思うんですけど。(▲4八玉に代えて)▲7二歩って叩いたらどうだったんでしょうか」と指摘が。
以下△8八角成、▲7一歩成、△8九馬、▲6一金といった順が示されました。
阿久津主税八段の見解
阿久津八段は「王手で金を取って攻め込んでいけるので、もしかしたら甲斐さんにチャンスが来てたかもしれないですね。▲7二歩で先手が優勢だった可能性が高いんじゃないか。初めのチャンスを見送ってということか。香川さんが用意してきた作戦でもあったんで、甲斐さんがゆっくり指そうということだったのかも。気づいていてやらなかったのか」と述べていました。
甲斐女流二冠は、このチャンスに気付いていてわざと見送ったのでしょうか・・・。
序盤力3対5
実は対局前のトークで、阿久津主税八段は甲斐女流二冠の序盤力を5段階で「3」と少し低く評価。一方、香川女流王将の序盤力は「5」と評価していました。甲斐女流二冠も、香川女流王将の序盤力を警戒していたのかもしれません。
そういえば、この2人は前年の第64回NHK杯女流棋士出場者決定戦でも対局しています。このときは先手の香川女流王将が三間飛車、後手の甲斐女流二冠が向かい飛車の相振り飛車でした。この対局では香川女流王将が勝利しています。
甲斐智美女流二冠が仕掛ける
本局は、中盤から端を絡めて仕掛けた甲斐女流二冠がリードする展開に。終盤、香川女流王将は王手、王手と迫りましたが及ばず、先手の117手目を見て投了しました。
感想戦で
感想戦では、序盤の▲7二歩があった局面はほとんど検討されませんでした。
ただ、対局者が局面を戻している最中に、阿久津八段が「序盤で▲7二歩叩いていきなり潰れそうだったけど大丈夫だった?」と質問。それに対し香川女流王将は「最後、△5五馬って・・・」と返すも、阿久津八段は「金銀2枚取らせて?」と疑問を投げかけました。香川女流王将は「だめですか?」と応じました。
この一瞬のやりとりを見る限り、香川女流王将には▲7二歩への対策があったように思えます。
一方の甲斐女流王将は「7二歩?」とピンと来ていないようでした。
実際どうなの?
実際ソフトとかで検討してみると(うちの弱いソフトですが)、この▲7二歩でも先手が大優勢というわけではなさそうです。
「この対局の詳しい棋譜と解説はNHK将棋テキストで解説」されるのでしょうか。されるとしたら、詳しい解説を聞いてみたいですが、この日司会の矢内理絵子女流五段はいつものこのセリフを言いませんでしたので、収録されないかも。
ノータイム指しは糸谷哲郎竜王の影響?
余計な情報かもしれませんが、香川愛生女流王将は終盤、おそらく自らの敗勢だと自覚していた局面で、ノータイムで指すときがありました。阿久津八段は「これはもう香川さんは、負けだからノータイムで指しますね。優勢だったら絶対すぐ指さないですよ」と話していました。
劣勢なときの早指しといえば糸谷哲郎竜王。昨年の竜王戦に挑戦した際は、「劣勢な局面になったら意識的にしてやる」という早指しを見せ、実際に挽回し逆転した局がありました。
香川愛生女流王将と糸谷哲郎竜王は同じ関西であり、他の関西棋士らと一緒に研究をしたり、また仲良く2人で写っている写真などからしても、なんらかの影響を受けていても不思議ではありません(単に棋士の習慣なのでしょうか。ただ、ノータイム指しのあとに59秒まで考える場面もあったりと、一貫しませんでした)。
しかし今回はそのノータイム指しも功を奏せず、敗退となりました。
最後まで読んでいただきありがとうごいました。