2015年3月1日に放送された第64回NHK杯テレビ将棋トーナメント準決勝・第1局(▲深浦康市九段VS△森内俊之九段)は、相矢倉からのねじりあいになりましたが、最後は森内俊之九段が絶妙な受けを炸裂させ、おそらく逆転で決勝進出を決めました。
詳しい棋譜は、同トーナメントのホームページを御覧ください。
矢内理絵子女流五段が司会
この日は、清水市代女流六段がタイトル戦出場のため、矢内理絵子女流五段が司会・聞き手を担当。
いつもは清水女流六段の「日曜のひととき、究極の好手・妙手の数々をお楽しみください」的なセリフがあるのですが、矢内女流五段は、単に今回と次回は清水女流六段に代わり司会を担当するという旨の発言をし「よろしくお願いします」と述べ、すぐにトーナメント表の読み上げに移りました。
解説は佐藤康光九段
解説を担当したのは佐藤康光九段。この日は同世代のお2人の対局、特に森内俊之九段とはかつて同じ研究会(島朗九段主宰の島研)に所属していたため、もちろん2人の棋風や癖や性格やらなんやらも熟知しているはず。
そんな佐藤九段は今年度の森内俊之九段について「非常にちょっと波があったといいますかね、棋聖戦の挑戦者になったわけですけど、やはりほかのタイトル戦では結果が出なかった(名人と竜王を失冠)ということで、本人としては不本意な一年だったと思います」「こういうことが長く続くと大変だと思いますけど、結構切り替えもうまいですからね」と述べていました。
ただこの日はあまり手の予想は当たらず「(解説と)違いましたね」を連発し、「これはまた解説が難しい手が来ました」などとコメントする場面もありました。
打ち歩詰めになるように
対局は、相矢倉から先手の深浦康市九段が仕掛けて攻める展開に。徐々に森内俊之九段の玉は追い詰められていきました。
解説・聞き手も「受けが難しい」「狭いですからね・・・」と森内玉の状況を説明。
しかし144手目、△2四同歩のときに佐藤九段はつぶやくように
「さあ、同飛車の時になにか・・・あ、そうか・・・・・・・1二金とか打ちますかぁ?1二銀とか」
と解説。後手玉は1三にいて、先手の攻め駒は2五に香車、2四に飛車と上から抑えられているため、△1二金打ちや△1二銀打ちは、自玉の退路を断つという手。この手について佐藤九段は
「▲1四歩と打つと、打ち歩詰めになるように、受けますかね・・・受かってるかどうかわかんないんですけど・・・」
と説明。そしてその直後に「それしかなさそうですね」ともコメントしました。
ご存知のとおり、将棋のルールでは打ち歩によって相手玉を詰ませると反則負けとなります。
△1二銀
佐藤九段は「何を打つんでしょうかね、銀ですかね、△1二銀かな、あれ?打てますかねそれ、えへへ」とすでに1二の地点になにか打つものだと確信。そして「どっち打つのか、まあ銀ですかね、2一飛車成の筋が・・・」と言った瞬間、森内俊之九段が駒台の銀を取り、1二にそっと置きました(146手目)。
佐藤九段は「うわあ、これはスゴいですね。これを凌ぎ切ったら・・・恐ろしすぎますね・・・正しく指せば何かありそうな気がするんですが、いやあ、そうでもないかな」と発言。
しかし、この手を境に攻守は逆転したもようで、その後は森内俊之九段が攻めに転じ、鮮やかに深浦玉を寄せました。
名局でしたね
166手目、△4八龍と入ったところで深浦康市九段は投了。
終局後は森内九段、深浦九段ともにまったく無言となり、お互いにただ盤面を見つめたり頭を抱えたり口元を抑えたりするばかりでした。
矢内理絵子女流五段は△1二銀について「これしかないっていう」、佐藤康光九段も「恐ろしいしのぎでしたね」と述べ、「両者、力を出し切った名局でしたね、これはね」と締めくくりました。
なぜか感動
プロの将棋では、時々、打ち歩詰めというルールが勝敗を左右することがありますが、△1二銀によって「打ち歩詰めになるように」受けるという方法を、あの場の少なくとも2人(森内九段、佐藤九段)が発見していたのが、私にはなにか感動的ですらありました。
棋士の方もこれに言及しています。
この凌ぎはすごい。
— 瀬川晶司 (@ShojiSegawa) 2015, 3月 1
NHK杯すごい凌ぎ!この攻めを凌げるんだあ!
— 藤森哲也 (@tetsu_59) 2015, 3月 1
日曜の朝、究極の妙手を見ました。