週刊少年ジャンプの漫画「ものの歩」の23話です。
この漫画の中に「士(つかさ)」という少年が出てきます。岬が率いる駒江第一高校の将棋部員で、都大会団体戦の副将。少し前に流行した言葉で言えば「無気力、無関心、無感動」といった性格の少年。この少年が、今話で面白いことを述べています。
とにかく、心を動かすのが面倒だった。漫画や映画で感動するのはひどく疲れる
私もどちらかと言えばこのタイプですね。ただ、続けてこうも述べています。
将棋は冷静に平常心で遊べる趣味として重宝した
えええええ!! 私は平常心では遊べません。負けた時の異常な悔しさとかですね。平静を保つのが難しいぐらいで。
さて、前回の話はこちらの記事で。
「ものの歩」第22話。信歩が岬を逆転したのか、岬が信歩を逆転したのか
これまでの話は以下の記事で。
前回は、漫画の中では「信歩が岬を逆転した」と描かれていたのですが、私の中では「岬が信歩を逆転した」と思う、ということを書きました。
今回はその続きです。
あらすじ
岬は信歩に逆転を許した。
岬は「恥ずべき対局だ」と感じ、逆に「敵ながらこの寄せが記された棋譜は美しいだろう」と思う。岬は棋譜の中に女神を見ることができる棋譜マニアだ。棋譜を汚さぬために、投了するべきだと考えた。
既に竜胆に敗れた士が、回想する。士は無気力、無感動な少年だったが、将棋に全力で取り組む岬を見て感化された。将棋に本気になった。以前、団体戦で岬が早投げしたときは、初めて悔しいと思った。しかし今回は岬にとって最後の大会。最後ぐらい好きにして欲しいという気持ちもあった。
回想を終え、敗退を覚悟し、悔しさに震える士。
隣にいる士の震えを感じ、投了すべきか迷う岬。美学を貫くか、醜く粘るか。
結局、岬は美学より大事なものに気付いた。将棋部の部長として、部員のために美学を捨てることを選んだ。
終盤戦へ。
勝負はまだまだこれからだ。
投了するべき局面か
前回の最後の局面を再掲します。
この局面で、先手の岬が投了を検討。周囲も「投了か」と覚悟したところです。
結局、岬は投了せず対局を続行することを選択。
今回はここから、おそらく(棋譜は明記されていない)先手が▲6九香と受け、△7七角成に▲6七香と歩を取ったところで、後手からは△6五歩という攻め。
この信歩の攻めがどうかですね。先手の岬の玉は詰めろ(受けないと詰む状態)ではないと思います。ですので、ここから反撃することも考えられます。また、受けるとすれば7七の馬を追うような手で、2枚の飛車と連携して自玉を安全にしたいところではあります。
岬の選択は攻め。▲1五桂と王手。
上図が今回の最終局面。
むしろこの攻めがやや疑問だったかもしれません。先手玉は詰めろではないので、王手は必要ないところですね。これは△1四玉と逃げられて。
詰ませにくくなったかもしれません。もうちょっとジワジワといくべきだったかも。それでもまだまだわからないと思います。
今回の最初の局面で岬は投了を考えていました。しかし、そこではむしろ岬が有利だと思います。そして最後の局面では互角、といったところだと思います。したがって、いずれにしても投了は必要なさそうではあります。
ただ、対局者の心理状態はそうではないかもしれません。
人生と同じでしょうか
誰もが羨むような仕事に就いている人があっさりとその職を辞したり、何の不自由もない人生を送っているような人が自らその人生に幕を閉じたりします。
傍から見ているのと、自分で見ているのでは違うということだと思います。それは他人と比べてどうか、一般的に言ってどうか、ではなく、自分自身の問題だと思います。自分の思い通りにならず、誇りが傷つけられ、続ける意味を見失ったとき、自然と幕引きが訪れるのかもしれません。
この記事では、岬はまだ不利ではないので、投了を検討する必要はなさそうだというふうに書きました。それは一般的に言えば当然だと思うのですが、もしかしたら岬の立場に立てばまったく的外れなのかもしれません。まさに彼自身の美学。そして彼の美学を理解している漫画の中の人たちには自然なことなのかもしれません。
そもそも相矢倉の戦いなのに、岬の矢倉は中盤であっさり崩壊。しかも岬は先手ですからね。そこからして屈辱だったのかも。
しかしその美学も捨て去ったということで、次回に期待です。
コメント
崩壊したのではなくてこれ急戦矢倉で左銀も攻めに参加させてるということではないでしょうか(先手の急戦矢倉はあんまりないですが、元棋譜と思われるものは先後逆なので)
はい、なるべく元棋譜には触れない方針(プロの棋譜を評価するようなことになるので)なのですが、本来後手番の作戦である急戦矢倉を先手番の岬がやったとすれば、そこまでして岬が序盤で積極的にリードをしたかったのか、それが美しい相矢倉の棋譜と言えるのかなどということは思いますが、確かに矢倉にしっかり囲った形ではなかった可能性はありますね。コメントありがとうございます。
うん? ▲1五桂は寄せ合いに行った手ではなくて△4五歩に対する応手を相手の手によって決めようとしたのだと思うよ(ソフト検討ではね、なお両方共先手+1400ぐらい)
△1四玉なら ▲7八歩△9九馬▲5六歩△6六金▲同 香△同 馬▲4六玉・・・かな~?
△3三玉なら ▲6五馬△同 金▲同 歩△4五歩▲4六歩・・・かな~?
後手玉は捕まりそうにないので終盤の中ほどじゃないと先手の負けだろうね
岬が投了を考えるのは持ち時間かな、アマ高段者でもこの局面で持ち時間がないと玉形の差で先手がまず負けると思うから
王手はいつでも入るので保留してもよかったんじゃないかと思ったのでしたが、私の棋力が低いのでよくわからないのが正直なところです。時間に追われて一度王手したかったのかもしれません。私が先手なら後手の目障りな馬を追って安全にしようとするところでした。
高校の将棋部で△65歩の場面から先後入れ替えて4局指してみましたが先手の3勝でした。
お互いに初段でしたので、力の差はほぼありません。
高校の大会の準決勝であることを考えると20分ー秒読み30秒だとしておそらく後手が秒読みに入ってしまうと寄せきるのは厳しいと思われます。
只、信歩君が時間を残している描写があったのでまだわかりませんが。
コメントありがとうございます。
先手の3-1ですか。
確かにアマ同士だと後手からは寄せにくいかもしれません。
漫画での設定上、信歩はものすごい終盤型で、(漫画の中での)数カ月前の時点で終盤だけならアマ三段ぐらいだったような気がしますので、そのあたりをどう考慮するかですかね。漫画の局面を実際にやってみるとは、素晴らしい将棋部ですね。
いずれにしましても貴重なデータの提供ありがとうございます。