週刊少年ジャンプの漫画「ものの歩」の22話です。
ここ数話は登場人物たちの心理描写が多いのですが、将棋漫画って描くのが難しいと改めて思いましたね。少年漫画なので「戦い」というのを主軸に置くのが筋なのでしょうが、目に見える「戦い」を描くのが格闘漫画やスポーツ漫画とかと比べると難しそうです。迫力を伝えるのも大変ですし。となるとやはり心理描写が重要だと思いますが、色々な年齢層が満足できるように描写するのって技術的に高度そうです。
前回の話は以下の記事です。信歩vs岬戦。
「ものの歩」第21話。岬は棋譜に女神を見て鼻血を出し、信歩は飛車を切る
漫画の中では「ずっと岬がリードしていた」ということになっているのですが、よく局面を見てみるとそうでもなさそう、むしろ信歩が良さそうでした。
これまでの話は以下の記事で。
局面は、信歩が決断の飛車切りをしたところです。
あらすじ
都大会団体戦準決勝。信歩と竜胆が所属する千賀高校と、岬が率いる駒江第一の対戦。
副将戦は竜胆が士に勝利。これで決勝進出は信歩vs岬戦にかかることになった。
前回までの局面は以下。
先手は▲同玉。
後手は△5四歩で角を出撃させる準備を整える。
岬は「埃は掃う」と▲3三歩。
そこからの棋譜は省略されていた(やや不可解な動きがあったかもしれない)のですが、以下の局面に。
ここで信歩が長考。そしてニヤリと笑って△7五金。
この一手で焦りだす岬。
そこから▲5六飛 △6五金 ▲5八飛 △6六歩 ▲9二馬 △5五金 ▲2一金 △2三玉 ▲1一金 △8八と ▲6八玉 △8七と ▲6六歩 △8六角 ▲5七玉 △4五桂 ▲同歩 △6七歩で以下の局面。
ここまで指されてざわつく会場。どこからともなく「・・・嘘だろ 寄せで・・・ひっくり返した・・・岬から初めて・・・・・・リードを奪った!!?」という声が。
岬の心臓は「ドクン」と鳴り、目は点になり、髪は白くなった。
逆転したのか
信歩は凄まじい終盤力を誇るので、大きくリードされずに終盤に持ち込めれば逆転可能という計算で指しています。そこで本話の最後の局面。
これがどっちがいいかですね。この局面、先手(岬)の玉は詰めろ(正しく応対しないと詰む状態)。△6八銀から詰みますね。先手の岬としてはまずこれを受ける必要があります。
受け方はいろいろあるんですかね。▲6七同玉でもいいのか。なんとなく危険な気もします。7一の飛車の利きを活かして受ける手がありそうです。
受けきれば先手が良さそうです。そして受けきれそうでもあります。つまり現局面はまだ岬が有利かと思います。
信歩の終盤の逆転術は出るのか。
どこで逆転したのか
前回の記事(再掲)では、漫画では終始岬がリードしていたように描かれていましたが、私としては飛車を切る前の局面では信歩が有利、飛車を切った局面でもまだ互角ぐらいだと思う、と書きました。
今話の最終局面では岬が有利だと思います。つまり漫画の中では、信歩が岬を逆転したようですが、私の中では岬が信歩を逆転したと思っています。プロじゃないので正確なことはわかりませんけどね。
どこで逆転したかというと、あの飛車切りがやっぱりちょっと早まったんじゃないかということと、今話の最初の方に出てきた何気ない△5四歩。
これが、次に角を動かすために歩を突いただけという、終盤の入り口にしては悠長な一手だったかもしれません。
話を戻しますが、将棋って逆転が逆転だとわかるためにはある程度の棋力が必要で、それもスポーツや格闘技とは違う点で、漫画を描くうえで難しいところかと思いました。プロでも形勢判断が分かれることもありますし。あと一応ジャンプは少年向けなので、どうしてもわかりやすい心理描写にする必要があるのも、辛いかもしれません。
例えば「よどみなく動いていた空気清浄機から、カタカタと異音が漏れた」とか「障子の破れたところから隙間風が入り、ストーブの火はわずかに赤みを増した」という描写(下手くそ!)をして対局者の心理状態を表現するとか、たぶん少年向けだと難しそうですからね。
そんなことを思った、ものの歩22話でした。最後までお付き合いいただきありがとうございます。
コメント
私は囲碁のルールを全く知らないのですが、ヒカルの碁はとても楽しめました。
「こいつらは高度な駆け引きをやっているんだな」とか
「こっちが優勢なんだな」とか台詞や表情だけで伝わってきました。
作者の表現力はもちろん大事ですが、読者である私も
「どうせわからないからノリだけで読もう」と開き直ることで楽しむことが
できていたと思います。
将棋は中途半端にわかるせいでそれが難しいのですが、
このサイトを参考にして考えさせていただこうと思います。
コメントありがとうございます。
このサイトが参考になるかどうか・・・。あくまで私の個人的な感想やら意見やらですからね。ヒカルの碁は昔読んだことがあるはずなのですが、すっかり忘れてしまいました。設定は覚えているのですが。でも確かに面白かったですしどんどん読めた記憶があります。
将棋は囲碁に比べて形勢判断がしやすいと聞きます。ですので、将棋がわかる多くの読者が、局面を見て自分なりに形勢判断をしているものと思います。
思えば私もプロ棋戦を観ている時は、解説の棋士が「こっちが優勢」だとおっしゃればこっちが優勢に見え、逆が優勢だとおっしゃれば逆が優勢に見えます。それでも楽しいのですから、漫画でも色々と楽しみ方があると思っています。
また参考になるような記事を書きたいと思います。
局面図作成、お疲れさま
岬編は局面図や手順と漫画内の形勢判断が逆の事が多く分けて考えるようにしました
今回まではまだプロ棋士の対局の棋譜から離れてないらしいので
自分の読みとソフト検討(アマ6段)では当てにならないのかも知れませんが・・・
△5四歩は仰る様に疑問で △6五銀▲8六飛車△8五歩▲同飛車△7六銀でどうか?
手が飛んでる所は▲6六飛車△7六歩らしいです
▲6六飛車は▲6一飛車成を見せつつ角道を止める△6四歩を強要した手だと思います
ところが△7六歩と詰めろの妙手、玉が逃げると△7七銀で王手飛車か詰めろ飛車取り
なので▲同飛車寄と取るしかなく、▲6六飛車は悪手で▲5四歩なら勝てた感じがします
△7五金もどうかな~、△7五銀▲5六飛車△7六桂で受け難そうだけどどうか?
最終図で▲6七同玉ですか勇気あるな~、△7五銀が怖くて自分なら指せないです
ここは形勢判断の難しい所で、穏便に▲7八歩で少し先手持ちかな?
将棋漫画は岬編のように局面図や手順と漫画内の形勢判断が違うのは問題外ですけど
ヒカルの碁みたいに局面図のいいとこ取りだけして、人間の内面を熱くでもいいかな
ターゲットを将棋を知らない人にするのか少し知ってる人にするのかでしょうね
コメントありがとうございます。
手が飛んでいるところ教えていただきありがとうございます。やっぱり▲6六飛車△7六歩ですか。記事中の局面図はその手順で作成しました(記事中の局面図をよく見ると6六から飛車が移動している形跡があると思います)。この後の展開がわかっているうえでだったので、▲6六飛は違和感があったのですが、そういう意図でしたか。
△7五銀▲5六飛車△7六桂は良さそうな感じがしますが、読み抜けてるとあれなので確実に飛車を追える金で行ったんですかね。そのへんはよくわかりません。最後の局面▲同玉は危険な予感がしてますが、漫画では▲同玉といくかもしれません。
まあジャンプを読んでいる読者の多くは細かい形勢はあまり興味はないと思います。読者層からしてターゲットは将棋を知らない人でしょうね。でも人それぞれいろんな楽しみがあっていいと思います。私は局面の方が楽しみで。コメントありがとうございます。
これ監修の橋本先生が順位戦で中村先生と指した棋譜をそのまま使っていますよ・・・
はい。噂には聞いていますが、プロの棋譜をああだこうだということになってしまうので、そこはあえて触れない状態で、あくまで漫画から局面を作ったり棋譜を推測したりして楽しむという趣向にしていますのでご理解いただければと思います。