2015年4月8・9日に行われた第73期名人戦七番勝負(羽生善治名人VS行方尚史八段)第1局は、60手という、名人戦史上最短の手数で羽生善治名人が勝利。
詳しい棋譜は日本将棋連盟モバイル、名人戦棋譜速報でご覧ください。
行方尚史八段が早囲いを目指す
戦型は、振り駒で先手となった行方尚史八段が矢倉の早囲いを目指す形に。
25手目、行方玉が▲6八玉と自分の角道を防ぐ形で移動すると、後手の羽生善治名人が△7五歩と歩をぶつけ動きました。
名人戦らしく、ゆっくりとした進行となりました。
先手、約2時間の長考
後手が飛車先の歩を突いた38手目△8五歩に対し、行方八段は約2時間の長考。
その末に、2筋にあった飛車を▲6八飛と6筋に回し、完全に玉飛接近。自分の玉と自分の飛車が接近することを玉飛接近といい、攻撃の要である飛車の近くに玉があり、流れ弾に当たりやすく、典型的な悪形とされます。
ニコニコ生放送の解説では、これを行方八段が「ひねり出した手」と表現されました。
ここで1日目は封じ手に。
続けて長考
羽生善治名人の封じ手は40手目△4三金左。
予想されていた手の1つであるにもかかわらず、先手の行方尚史八段はここで再び1時間35分の長考。
先手と後手の持ち時間の差は、約2時間に開いていきました。
形勢もやや後手よりに
その後しばらく指すと、大駒がぶつかり合い戦いが本格化。
先手は玉飛接近の不安定な格好での戦いとなりました。2日目のニコニコ生放送で解説をしていた森下卓九段は、当初からやや後手持ち。そして、この戦いのなかで、ジリジリと形勢の差が開いていき、後手の羽生善治名人が優勢になっていったようでした。
しかし、まだまだ一山二山ある場面。
突然の投了
60手目、羽生名人が△4三銀と遊んでいた銀を味よく活用して先手の角に当てたところで、行方尚史八段は15分ほど考えて突然投了。まだ王手でもなければ詰めろでもない(おそらく)局面。
ニコニコ生放送では局面の話から離れて、森下卓九段の弟子である増田康宏四段の話をしているところでした。
ニコ生のユーザーの書き込みで(?)投了を知った森下九段は「え!投了したんですか!びっくりしましたね」と驚きました。
行方尚史八段らしくない
森下九段は「しかし、行方さんらしくない。この投了は」と述べ「ちょっと、うーん、行方さんてこういう将棋を、頑張って頑張ってひっくり返してきた人ですからね、驚きました。ここで投げるのではちょっと・・・うーん」と唸り、行方八段らしくないと繰り返しました。
聞き手の鈴木環那女流二段も「軽くパニックで・・・」と突然の投了に混乱。
森下九段いわく「私が後手を持って、先手がponanzaだったら勝てるとは断言できない。こういう将棋がひっくり返るのは山ほどある」という場面。そして「私だったら投げない。しかも、行方さんですから。いや、島先生(島朗九段)とか藤井さん(藤井猛九段)だったらあるかもしれません。最後の最後まで指すのが行方流ですから」と述べました。
一方、itumonさん(あるプロ棋士だと言われるツイッターアカウント)は以下のようにツイートしています。
局面を見れば少し早い気もしますが、投了もある局面だと思います。
まだ粘れますが、名人戦で名人相手にそんな将棋は指せない、と殉じられたのかもしれませんし、羽生名人が間違う雰囲気が無いので投了なのかもしれません
— itumon (@itumon) 2015, 4月 9
投了の理由
森下九段は、行方八段が投げてしまった理由について「羽生さんの貫禄。羽生さんだから諦めたということがあるかもしれない」とも述べていました。
また森下九段は行方八段について「自分の将棋を指していなかった」とも言及し、本局の早囲い、そして玉飛接近となった展開について疑問を呈していました。
最短手数
この60手での投了は、名人戦史上最短手数だそうです。これまで最短だったのは、1947年(昭和22年)の第6期名人戦(木村義雄名人VS塚田正夫八段)第7局の指し直し局の63手でした。実に68年ぶりの記録更新。
行方八段にとっては辛い時間が続き、最後は羽生名人の貫禄に屈した形。とはいえ、まだ第1局が終わったばかり。
注目の第73期名人戦第2局は4月22・23日に行われます。
コメント
管理人様、いつも記事ありがとうございます。
2日目のニコ生を最初から見ていたわけではないので、これは私の推測ですが、「森下卓九段は、当初からやや先手持ち。」と書かれているのは、「後手持ち」の誤りではないでしょうか。文脈から、そういうふうに思えるのですが・・・。ご確認をいただければ幸いです。
これからも、楽しい記事を楽しみに致しております。
コメントありがとうございます。
そしてご指摘ありがとうございます。失礼しました。
誤りでして、修正致しました。
いや、最近・・・にかぎらずですが、誤字が多くて参りますね・・・。
コメントありがとうございます。
この2日目の生中継で解説役として出演した森下九段が話していた、リベンジマッチで「対局中の棋士本人による棋戦解説」を行うことになった経緯の内容が印象に残っています。
個人的に、”ポスト電王戦”イベントの方向性を探るヒントになるように思えました。
今更ながらのタイミングの書き込みですが、ご容赦のほど。
コメントありがとうございます。いつでも構いません!
おそらくお話の内容はこの記事と同じようなことですね。以下抜粋。
そうなんですよね、コンピュータと人間、ただ対局するだけじゃなくて、「ならでは」の使い方がいろいろあると思うんです。
面白いアイディアが実を結べばよいのですが。
コメントありがとうございます。
かっこいいね、名人戦