2015年3月14日の将棋電王戦FINAL第1局、▲プロ棋士・斎藤慎太郎五段VS△コンピュータソフト・Aprey(エイプリ―)では、Aperyが負ける直前に見せた「王手ラッシュ」が話題となりました。
これについて、日本将棋連盟の片上大輔六段(理事、電王戦を担当)が翌々日に投稿した自身のブログで「私は不快な気持ちはない」と見解を述べています。
プロ棋士は王手ラッシュをしない
コンピュータソフトやアプリと将棋を指したことがある方は、経験があるかもしれません。ソフトは敗勢になっても「詰み」まで指すようにプログラムされている場合があります。典型的には、自玉に受けがないとわかると、相手玉に王手をかけ続けて自玉を延命しミスを待ちます。これが「王手ラッシュ」と呼ばれる現象の意味です。
一方、プロ棋士はこのようなことはしませんし、してはいけないこととされています。この理由としては、相手の棋力を低くみている(凡ミスを期待する)ということが相手を尊重していないとされること、また後世まで残る棋譜を汚す行為だとされているためです。
事前の予告
▲斎藤慎太郎五段VS△Aperyの詳細については、こちらの記事を御覧ください。
上記にも書いてありますが、Aperyの開発者である平岡拓也さんは対局前に
Aperyは負ける時は最後の一手まで指します
折角棋譜が残るのだから、コンピュータの特徴的な手を残したい
とブログで予告していました。
鈴木大介八段の見解
開始から約9時間半経過した時点で、既に斎藤五段が勝勢となり、Aperyは王手を始めていました(72手目付近)。プロであれば絶対逆転しないような局面。
このような模様になり、ニコファーレで解説していた鈴木大介八段は「個人的な意見としては投了してほしい。ある程度点数(評価値)が開いた時点で」「人それぞれ考え方は違うが、投了するのが将棋界のしきたり。それはある程度尊重してもらってもいいのかなと個人的には思う」と発言。
さらに「王手ラッシュだけは見たくない」「王手ラッシュされたら、その人と指したくない」とも述べていました。
Apery、王手を繰り返す
Aperyは事前にプログラムされたとおり、王手を繰り返しました。
持ち駒を打っては捨て、打っては捨てとやっていくうちに、時間はドンドン経過。結局、ラッシュは40手以上(Aperyが指した分だけだと20手以上)、40分以上続きました。
Aperyの指し手を盤上に再現する電王手さんの動きは、ロボットアームにしては滑らかなのですが、それでもラッシュ中はとてもゆっくりに感じてしまいました。
平岡拓也さんの意図
この「みっともない」ともとれる王手ラッシュに何の意味があったのでしょうか。
これについては、こちらの記事でも書きましたが、対局後に平岡拓也さんが述べたところによると「将棋に興味をもってくれる人が増えたり、プログラム面でも、コンピュータ将棋に興味を持ってもらったらいいな」ということでした。
しかし、平岡さんのツイッターアカウントには批判的な意見が寄せられる事態となりました。
平岡さんはその後、以下のようにもツイート。
そもそもコンピュータ将棋の文化的に最後まで指すのは全然悪い事じゃないんだよな。異文化の片方を叩くのは良くない傾向だ。
— 平岡 拓也 (@HiraokaTakuya) 2015, 3月 14
負けの場面の無駄王手ラッシュは探索アルゴリズムが透けて見える感じがするので是非とも見せたかったのだよ。
— 平岡 拓也 (@HiraokaTakuya) 2015, 3月 14
その後も批判は相次ぎ、なかには「将棋に二度と関わらないでほしい」という批判もありました。
なお、Aperyの開発に参加した杉田歩さんは以下のようにツイートしています。
電王戦って、今まで人間が専有していた領域に機械が入ってくることによってどういう反応が起きるかについてのある種の社会実験みたいな意味があると思うんだけど、その観点からすると、今回の投了に関して議論が沸き起こっている状況は意義深いと言えるんじゃないでしょうか。
— 杉田歩 (@ayumu_sugita) 2015, 3月 15
コンピュータ側が人間のしきたりにきっちり合わせて無難に終了するよりも、一度くらいはこういう摩擦があったほうがいいと個人的には思っている。
— 杉田歩 (@ayumu_sugita) 2015, 3月 15
片上大輔理事の見解
さて、前置きが長くなりましたが、この「王手ラッシュ」問題について日本将棋連盟の理事である片上大輔六段が対局の翌々日にブログで見解を表明。片上理事は電王戦の将棋連盟側の責任者的立場にあります。
片上理事はこの問題について
平岡さんや開発チームの皆さんは紳士なので、私は不快な気持ちはないですし、斎藤君も同じだろう
としています。
鈴木大介八段が「投了してほしい」「見たくない」と言ったのとは対照的(一応、鈴木大介八段としては「仮に人間(プロ棋士)だったら」というニュアンスがあるのかもしれませんが)ですが、理事の言葉は重いです。
ただし、今回の問題のように結果としてプロ棋士や棋戦運営以外の人に
(批判の)矛先が向くことが時にあるということは、肝に銘じておきたい
ともしています。
電王戦リベンジマッチでもそうですが、片上六段は理事という立場からも批判の矢面に立つことも多いと思いますが、まだ33歳にして貴重な経験を積んでいると思います。この経験を将棋の発展に役立ててくれることを願ってやみません。
第2局以降に注目
とにかく、この王手ラッシュは斎藤慎太郎五段が勝勢になったからこそともいえます。第2局以降もこれが見られるかどうかは、ある意味プロ棋士側にもかかっています。
そういえば、前回の第3回電王戦では豊島将之七段に敗れたコンピュータソフト・YSSは開発者の山下宏さんが投了を告げましたので、そういうパターンになるのかもしれませんが。
コメント
そもそもプロ棋士どもだって、形作りだの思い出王手だのやってんじゃん
コンピューターなら100%勝ってた完全勝勢の状況から、思い出王手を受け間違えて羽生さんが頓死したりしてんじゃん
これで投了するのが正しいミスを期待するなとか鈴木は馬鹿かよw
頓死する可能性すらほぼない局面では?