第3回将棋電王トーナメントのすべての対局の棋譜が公開されました。CSA形式のデータです。
せっかく公開されたので、予選の中で最も印象的な一局をご紹介します。予選第7ラウンド、▲きふわらべvs△Scherzoです。
「奇跡の角の生還」があった一局です。
インタビュー
今回、「奇跡の角生還」を演じたソフト「きふわらべ」の開発者は高橋智史さん。
この電王トーナメント出場にあたり55ページという膨大な自己PR文書を作成してきました。インタビューでは「もっと書きたいんだけど時間がなくて。周りを気にせずやりたいようにやろうと思って」とのことでした。
きふわらべは昨年も出場。その時は飛車が1マスしか進めないという弱点があったのですが、今回は2マス以上進めるようになったということで、劇的な進化を見せています。
さらには「二歩チェックができるようになった」、「敵陣に進んだ駒が成れるようになった」という進化ポイントも見逃せません。昨今はオープンソースで公開されているソフトを流用することも可能な状況ですが、高橋さんは「自分でやりたかった」と話していました。
また、Scherzoの氏家一朗さんはインタビューで「いろいろ頑張ったんですけど、今朝4時40分ぐらいに、今まで開発したのは今回は無理だなと思って、去年とまったく同じプログラムになっています。去年と一昨年もだいたい一緒」と話していました。
それぞれの自己PR文書(他のソフトのも含めて)は、以下の記事も参考にしてみてください。
第3回将棋電王トーナメント全参加ソフトの自己PR文書から重要そうな部分を一言ずつ抜粋してまとめた記事
きふわらべvs.Scherzo
この予選の模様は、ニコニコ生放送のタイムシフトでもご覧いただけます。
第3回 将棋電王トーナメント 予選リーグ(ニコニコ生放送)
(この記事で記す部分は8時間10分付近です)
前述のインタビューによれば、先手のきふわらべは敵陣で成ることができるようになったはずですが、いきなりの角不成。
互いに角を打ち合います。この1五の角が奇跡の生還を果たします。
下図。角が詰んだ!!
角を逃げる。いやこれ逃げてるのか?
後手のScherzo、角を取らずに香車を突撃させる。
それから6手後、きふわらべはようやく角を逃がす。
Scherzo、金を投入し角を取りに行く。これはまた角が詰んでる!!
きふわらべ、しょうがないので金を取る。
しかしScherzoは角を取らずに銀を打つ。なぜ取りに行ったはずの角を取らない!
きふわらべ、取られるはずの角を取られなかったということで、テンションが上がったのか、角を敵陣に不成でタダ捨て。さすがにこれは取られるだろ・・・?
Scherzo、それでも取らない!
それから4手は、あの敵陣の角の存在をみんなが忘れているかのように進行。とにかく角は取られない。きふわらべは角を引く。引き場所にも敵が!
Scherzoはそれでも取らない。
ついに敵陣からの生還に成功する角。ただし取られなかった代わりに何の戦果も上げていない。
角、また詰まされる。
銀を取る角。
それでも取られない。Scherzoは、駒を取る能力はあるはず。他の駒は取られていますし。でもあの角だけはどうしても取らない。
相手が角を取らないので、角を使って好き放題すればきふわらべは勝てると思うのですが。
以下の局面で、きふわらべが時間切れ。
長岡裕也五段と藤田綾女流初段による解説です。
長岡五段「これ大熱戦だったんじゃないですか。だってこの角、取られないわけですから。むしろ必勝の可能性も」
藤田女流「角で王手したら取らないんですかね」
長岡五段「(終局図で)▲4四角と突っ込んで取ってこなかったら、これは勝てるんじゃないかと勘違いしちゃいますけどね」
藤田女流「でも面白かったです」
長岡五段「この角が最後まで生き残るとは」
藤田女流「無敵角でした。本当に」
長岡五段「そうですね、どうしてなんだろう。続き観たいですね」
藤田女流「続き観たいですね」
長岡五段によると、普通のコンピュータ将棋ソフトでは駒得(相手の駒をタダで取るか、自分の駒とより価値の高い相手の駒を交換すること)をすることは評価が高くなるはずなのですが、ソフトの評価関数によっては必ずしもそうではないとのこと。2つのソフトは別の価値基準に基づいて動いているのかもしれません。
忘れない
藤田女流は、番組終了後もこの事件を忘れられないようです。
長岡先生はさすがの司会っぷりでした(*^^*)
新無敵囲いと奇跡の角の生還忘れない。
— 藤田 綾 (@aya_fjt) 2015, 11月 21
ちなみに上記ツイートにある「新無敵囲い」の記事は以下を御覧ください。
「無敵囲い」が「新無敵囲い」に進化。名人コブラが魅せた独自の戦い
新無敵囲いは、名人コブラが発動した最強の囲い。一方、「奇跡の角生還」は、きふわらべとScherzoという2つのソフトが協力して残した美しい棋譜。そういう意味でも、とても価値が高いと思うのです。
電王トーナメント予選を賑やかにしてくれた皆様、ありがとうございました。
以上、好局振り返りでした。
コメント
多分きふわらべ側のバグで発生した不成りの角をScherzo側が不成りの角に対応してなかったせいで認識できなくてそのまま角が認識できずに局面が進んでいったんだろうなぁ
両方のソフトが角成りの処理にバグを抱えていたからこそ起きたという意味では好局っていうか迷局?
コメントありがとうございます。
近い推測っぽいですね。Scherzo、最初の1回は不成の角を取っているんです(最初の角交換)。でも打たれた角は取らないと。
またScherzoは、その角で1回王手されて、逃げる対応をしているので、もうすこし条件が複雑なのかもしれません。
複雑な条件で、視聴者を楽しませる棋譜を完成させるところが美しいです。