Googleの人工知能研究で生まれた囲碁ソフトAlphaGoがトップ棋士・李世ドル九段に挑む「Google Deep Mind Challenge Match」が2016年3月9日から開催されます。
日程は9日、10日、12日、13日、15日と、ほぼ間をおかずに5局。各局13時から。開催地は韓国で、日本とは時差がありません。YouTubeや囲碁プレミアムで中継されます。
【プレスリリース】囲碁将棋チャンネル、「Google DeepMind チャレンジマッチ」を日本語解説付きで無料生中継 – INTERNET Watch
一方、日本ではAlphaGoに対抗すべくドワンゴなどの「DEEP ZEN GO プロジェクト」が開始されています。
「DEEP ZEN GO プロジェクト」発表。AlphaGo対抗の囲碁ソフト開発をドワンゴが支援、山本一成さんら参加
ZENの開発に、大きな企業が開発環境を支援して人材も供給するというプロジェクトですね。
以下、この囲碁界の出来事についての、将棋サイト管理人としての感想文です。
もしAlphaShogiがあったら
もしGoogleのような巨大企業が巨額の資金を投じて将棋ソフトを開発したら?
「DEEP ZEN GO プロジェクト」の発表会で、Zen 開発チーム代表の加藤英樹氏は、現在のZenとAlphaGoが対戦したら勝率は3~4%だと話されていました。AlphaGoは人工知能の研究の成果としての囲碁ソフトで、囲碁向けの細かい工夫は従来のソフトに比べて上手いわけではなく、力まかせにやってその実力だということです。
仮に同じように開発されたAlphaShogiが、マシンスペック制限のないコンピュータ将棋大会に出場したら。私は技術的な観点で語ることはできませんが、感覚的に言えば、囲碁の例のように巨額を投じた側が勝つような気がします。でもそれは何ら重要な問題ではありません。
Googleが本気出したら
Googleが優秀なプログラマを集め巨額の資金を投じて開発環境を用意したらすごい強い将棋ソフトができそうです。
思えば既存のコンピュータ将棋ソフトの開発者の皆様は、莫大な資金があるわけでもなく、本業が別にある方も多いですし、その制限の中でコンピュータ将棋を発展させてきたと思います。
そのような制限がある従来のコンピュータ将棋ソフトがAlphaShogiといい勝負ができれば、それだけで十分価値があることだと思います。
チェスのDeep BlueもIBMのプロジェクトでした。将棋は世界的に見れば競技人口の少ない競技ですし、多くが日本で指されていますし、コンピュータ将棋の開発もほとんど日本で行われているので、日本以外の企業が巨額を投じて将棋ソフトを開発する状況になかったのかもしれません。
将棋棋士と似てる気がして
囲碁やチェスでは、棋士(プレイヤー)を育てるために子供の頃からトレーナーを付けて訓練するそうです。いやよく知らないんですけど、共産圏の国のオリンピック選手育成のように優秀な子供たちを国中から集めて、優秀なトレーナーの下で育成していくんでしょうかね。
将棋ではそういうのはあまりないようです。師匠に教わることもないし、勉強の方法なんかも自分で確立してやっていく。
たぶん将棋でも子供の頃からトレーナーがつきっきりで訓練したほうが、強い棋士が誕生するはずなんですが、それをやっていない。これもよくわからないんですが、そうやってまで優秀なプロを育成する合理性はないんじゃないかと思います。
コンピュータ将棋も同じで、Googleなどにしてみれば巨額の資金を投じて開発する合理性がないと。なのでAlphaShogiは幻なんですね。
コンピュータ将棋の価値
将棋の棋士は、ただ将棋が強いだけではなくて、別の価値もあると思います。特にコンピュータ将棋が強くなってきたここ数年は、棋力や棋譜以外の価値が相対的に高まってきたといえると思っています。そして、(これは以前から何度か書いていることですが)コンピュータ将棋も同じで、ただ強いだけではなくて別の価値もあると思います。今、幻のAlphaShogiを見て、将棋の棋士と同じように棋力や棋譜以外の価値が相対的に高まるはず。
例えば、Apery開発者の平岡拓也さんは「プログラムに興味を持って欲しい」という思いでソースコードを公開しています。磯崎元洋さんはソースコード行数を少なくしたやねうら王を開発し、技術的な説明も含めてブログで公開しています。これらのことは、コンピュータ将棋の価値を高めていると感じます。
私の認識では、プログラムの開発というのは、場合によっては1人の優秀なプログラマが普通のプログラマ100人分の仕事をやってしまうような、それだけ人によって生産性に違いのある作業。それは将棋のプロ棋士にアマ初段が100人でかかっても敵わないのと同じようなこと。
コンピュータソフトはもちろん、もう車や機械、電子機器など様々なものがプログラムなしでは動かないですし、今後プログラムの重要性はますます高まるはず。日本が産業立国としてやっていくために優秀なプログラマは必要不可欠だと思います。
優秀なプログラマ、あるいは人工知能研究者とかを育てる入り口としてコンピュータ将棋は良いんじゃないかと、改めて思います。教育的な視点からの価値ですね。
昔「ロボコン」という高専生が参加するロボットコンテストを見たことがあります。あれをロボットではなく、コンピュータ将棋でやるようなことになれば面白いんじゃないかと思いますね。コンピュータ将棋は、ロボコンのように機械の制作やチームもいらないですし、PC1台あれば開発できます。高専だと範囲が狭いので高校生も参加できるようにして。
電王戦へ
以前も書きましたが、私はかつて電王戦に興味がなくて、「コンピュータが人間に勝つのは当たり前」と思っていたんですね。でもそのなかで人間は、人間にしかできないことというのを改めて探っていると思います。
同じように、コンピュータ将棋も、(幻の)AlphaShogiにはできなくて、個人で開発しているからこそできることというのを探るのがいいんじゃないかと思っています。開発状況をネット中継している方とかですね、面白い棋譜を残すことに情熱を燃やしている方とかですね(例その1、例その2)。そういう価値は、コンピュータ将棋開発者ご自身もそうですが、見ている我々も探ることができそうです。
それに気付いて、私は電王戦に興味を持つようになりました。山崎隆之叡王はもちろんですが、PONANZAがコンピュータ将棋にどのような価値を示してくれるか、注目するつもりです。
久しぶりに感想文を書いたら支離滅裂な文章になりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
コメント
高専プロコンというのもありますよ
ありがとうございます。調べました。あるようですね。Eテレとかで放送すればいいのにと思いました。
それにしても。AlphaGo。勝率先行で、たいへんな事になりましたねぇ。同3月10日記
コメントありがとうございます。アルファ碁2連勝スタートとなりました。しかも偶然ではない強さを見せつけているようです。
「人間が1勝すると、ニュースになる」ようでは、おしまいですね。同3月14日記
私としてはおしまいとは思ってないですが、終わりというのは人それぞれに訪れるものだと思います。