2015年12月3日の第28期竜王戦第5局2日のニコニコ生放送で、面白いメール質問がありました。
自称「かなりライトな将棋ファン」の方からの質問。
個人的に、好きだったのでご紹介します。今後ニコニコ生放送の質問の定跡になるかもしれませんし、謙虚な気持ちを持って生きようという、人生のヒントになるかもしれません。
解説は郷田真隆王将、聞き手は藤田綾女流初段でした。
将棋倶楽部24で三段
午前中のメールコーナーでのことです。三重県の男性から以下のメール。藤田女流が読み上げます。
「私はこの日を楽しみにしておりました。と言いますのも、私は将棋倶楽部24で三段程度と、かなりライトな将棋ファンで・・・」
ここまで読んで、藤田女流が「これはライトじゃない(笑)」、郷田王将も「ライトではないですね(笑)」とツッコミ。ニコ生のコメントも「将棋倶楽部24で三段のライトファン」の言葉にざわめきました。
将棋倶楽部24はインターネット上の対局場ですが、他のネット対局場や道場などに比べて段級が辛くなっています。そこで「三段程度」の実力者なのに「かなりライトなファン」と言っているのが、質問者の謙虚なところです。
ライトな質問
藤田女流はメールの読み上げを続けます。
「棋譜並べとかもあまりできておりません。しかしその中でも郷田先生の棋譜は積極的かつ優先的に学ばせていただいているほど、郷田先生の将棋が好きだからです。
今年一番印象に残っているのは1月の深浦康市九段との前期順位戦です。中終盤も凄まじかったように思いますが、角換わりの出だしから、郷田先生がいきなり5筋に飛車を回られたことがとても印象的です。
腰掛け銀に対して圧をかけて中央を制圧するのが狙いなのでしょうか?
恥ずかしながら勉強不足で、初めて見る角換わりでした。
その後、角換わりの棋書をいくつか当たってみたものの、これほど早く5筋に飛車を回る変化は全く見当たりません。私なりにもいろいろ考えて試しているんですが、残念ながら棋力が全く追いつかず深まっていきません。
どのような構想、狙いだったんでしょうか?(以下略)」
好きな棋士の対局で現れた手順に思い悩み、いくつか棋書を当たってみて、自分でもいろいろ試して、それでもダメで1年弱経ってニコ生に質問を送るというライトなファン。
ライトファンの鏡です。
ライトではない
そんなライトなファンからのメール質問に戸惑う藤田女流と郷田王将。
藤田女流「はい、ライトではなく・・・」
郷田王将「うん・・・たいへん謙虚におっしゃっておられますけど」
藤田女流「(笑)」
郷田王将「強い方だと思いますね。はい(笑)」
質問の対局は、2015年1月15日の第73期順位戦A級、▲深浦康市九段vs△郷田真隆王将の将棋。文中にあったように、後手は序盤早々に飛車を5筋に回っています。
そこから5筋の歩を伸ばしていって、中央を制圧しています。
郷田王将によると、これは自身の新手というわけではなく、何局か前例があるとのこと。この指し方は5筋から盛り上がっていく狙いがあるのですが、角換わりで5筋の歩を突くのは隙ができやすい、というリスクもあるということでした。
かなり強い
そんなライトな質問をくれた質問者にエールを送る二人。
藤田女流「この方も、いろいろ考えて試しているんですね」
郷田王将「ねえ、素晴らしいですね。こうやって、少しずつ進歩されていくと思うので」
藤田女流「そうですね」
郷田王将「だいたい、将棋倶楽部24で三段っていうのは相当強い」
藤田女流「かなり強い方だと思います。道場だと五段(に相当)とか(笑)」
たぶん、質問者の棋力は将棋ファンの中でも上位1%以内(もしかしたら0.1%以内ぐらい?)だと思うのですが、それでも自分を「かなりライトなファン」というのは、冗談なのか、本気なのか。
郷田王将は質問者の方に「ご謙遜なさらずに、自信を持って指していただきたいと思いますね」とエールを送っていました。好きな棋士からのエールに、質問者の方も喜ばれたことと思います。温かい気持ちになります。
質問者の「ライトなファン」というのは多分冗談だとは思いますが、「言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから」というマザー・テレサさんの言葉を思い出しました。こういう謙虚な気持ちでいることが、将棋の上達を助けるのかなとも思いましたし、多くの将棋ファンがそういう気持ちだったらまた新規のファンも入って来やすいのかなと思ったりしました(偉そうにすみません)。
コメント
ただの自慢……というのが自然な解釈だろうなwww
コメントありがとうございます。メールで自慢しても満たされないと思うのですが・・・冗談半分だとは思いますが冗談を受ける方もためされてまいます。
今さらですが、たまたま見つけたので。。
自慢でもなんでもなく、私も24で三段下位たまに二段程度なんですが、メール送り主の方(私より強い方でしょうが)の気持ちはわかります笑
プロの方の棋譜や解説を見たり聞いたりする度にやっぱプロすげーってなって、自分との知識差実力差に愕然とするんですよね
ぱっと局面を見て先後を判断したり、20年前の流行戦法を語ったり、過去の実戦例の有無をさくっと言い当てたりは、24の三段レベルじゃ到底できる話じゃないんです
そりゃ視聴者の大部分より強いのはわかってますが(笑)それでも郷田さんに向かって「僕強いんで」とは口が裂けても言えないですよ笑
コメントありがとうございます。私もこの記事書いた時点から棋力はかなり(?)あがってるはずなんですが、いくら強くても、っていう気持ちはとてもよくわかります。
これを謙虚と捉える人もいるんですね。
典型的な「謙遜自慢」ですね。
自慢したいことを相手に言わせるテクニックです。
「将棋倶楽部24で三段っていうのは相当強い」←これを言わせたいんです。
穿った見方をすれば慇懃無礼というやつではありますね。まあただの冗談でしょうが。
それと新規や本当のライトファンからすれば「24で三段でもライト層なのか……」とハードルの高さにやる気が起きなくなる可能性の方が大きいと思います。
自分なら初心者に向けては「ハム将棋に勝てるなら(ライト層としては)立派に将棋を指せてますよ」とか「まずはウォーズ三級を目指しましょう」いうようなことを言いたいですね。
事実、将棋はそこに到達出来る人すら想像以上に少ないですから……。将棋のルールを知っている人と比較して、将棋が形になっている人の割合が少なすぎるのは最初の壁が高すぎるからだと思っています。
将棋を学べる環境があって指して指して指しまくる人であれば確かにすぐに強くなりますし、そういう将棋ファンの中ではウォーズ三級、24なら14級程度では初級者でしかないでしょう。それでも入り口に立てる人すら少ないのです。負けても熱意をもって将棋を続けられる環境がまず必要です。
三段なんて大したことないよ!なんて言ってしまえば低級タブを抜けるどころか15級にも勝てない自分は将棋に向いていないのだろうと心が折れます。
それよりむしろ、誰でも最初はハムに勝つのすら至難であるし、24なら中級タブで指してる時点で世間的には将棋がめちゃくちゃ強い人だと教えたいですね。最初はみんな勝てないもんなんだと。
真の初心者にはハム将棋に勝てれば将棋人口(ルール知ってる人)の上位10~20%くらいにはなれるから頑張ろう!と近いところに目標を設定してモチベーションを持たせてあげたいです。