将棋の戦法にインスピレーションを得て制作されたという小組曲があることがわかりました。
東京音楽大学大学院出身の作曲家、鹿野草平さんが制作されたものです。
2015年6月10日より、楽譜がレンタルできるそうです。
【予約商品6/10発売予定】レンタル楽譜:3つの戦法による《譜》
試聴もできます。
また、演奏されたものが収録されたCDもあるようです。
解説
私(管理人)は、幼いころは音楽を習ったり、小学生の頃には学校を休んでクラシック・コンサートに行った思い出もあるのですが、中学生時代には音楽が苦手科目になり、それ以降はクラシックにはほとんど触れてないです。今ではおそらく日本人の平均より相当低い音楽センスと知識しかありません。
そんな私でも楽しめるのが、作曲者の鹿野草平さんによるこの小組曲の解説。詳しくは上記(一番上)のリンク先に書いてあります。以下で少しだけご紹介します。
Happy Center
小組曲は3曲・・・いや、3局によって構成されており、どの局のタイトルも将棋の戦法の名前を英語にしたものです。
その1局目が「Introduction~Happy Center」。
ハッピーセンター。
楽しい真ん中。
わかりますね。
そう、この曲のモチーフは「ゴキゲン中飛車」です。
図の上の方の陣形、後手番で角道を開けたまま飛車を中央に振った形がゴキゲン中飛車。
開発者である近藤正和六段のゴキゲンなお顔から先崎学九段が名づけたのが由来とされる戦法で、高い勝率を誇り大流行をみせました。
鹿野さんはこれをモチーフにした楽曲「Happy Center」について
非常に楽観的でスケルツォ的な音楽である。ただ、同戦法の緻密な定跡から、音楽にも亭楽的な中に精緻さを織り込んでいる
と解説しています。おお、わかりやすい解説ですね。
嘘です。ぐぬぬ全然わからない。
F System
次はF System。
エフ システム。
これはもうお分かりになりますね。将棋界のアイドルである藤井猛九段が開発し、四間飛車に革命をもたらした戦法。
そうです、この局のモチーフは藤井システムです。
将棋界では単に「システム」と言えば藤井システムのことですし、「F」と言えば95%ぐらいの確率で藤井猛九段のことを指します。
図は先手の飛車が四間(左から4筋目)に振られ、居玉で、1筋の歩を伸ばし、桂馬と角道を活かして相手玉に襲いかかろうという局面(参考)。
相手玉は穴熊にもぐろうと香車を1マス上げていますが、藤井システムの攻めが早すぎてもぐれません。駒組みに手数がかかり、もぐるまでは隙ができやすいという穴熊の弱点を、これでもかというぐらいに突きまくった藤井システム。
鹿野さんはこれをモチーフにした楽曲「F System」について
前半はともすれば不可解で茫洋とした局面、後半はこの戦法の開祖である藤井猛氏の棋風にならい、ガジガジとした楽想
藤井九段の終盤は「ガジガジ流」。序盤でリードした藤井九段が、終盤では金銀を投入してわかりやすく、しかしガジガジガジガジと着実に相手玉に迫る棋風を表しています。
で、「ガジガジとした楽想」って・・・?
Early Stones
小組曲の最後を飾るのがEarly Stones。
サッカーでアーリークロスというのがあります。相手の守備陣形が整わないうちにクロス(センタリング)をあげるプレーです。
アーリーというのは早いという意味。そしてStones、ストーンズ、石。
お分かりですね。そうです、この局は早石田からインスピレーションを得ています。
アマチュアであれば誰もが苦しめられた経験があるのではないでしょうか。初心者相手だと奇襲、あるいはハメ手に近いことになります。
三間飛車のなかでも、すぐに開戦し過激な大乱戦になる可能性をはらみます。居飛車側が開戦を避ければ石田流本組(飛車を7六に、桂馬を7七に、角を9七に配置する)を目指すこともできます。
このEarly Stonesについて鹿野さんは
その荒々しい戦法を音楽で表現したつもりである。全3局の中では一番調性的な曲でもある。
と解説しています。
「調性的」。またわからないワードが出てきましたが、相手に早石田をやられたときの心境で聴けばいいでしょうか。
交響曲・藤井猛
将棋の解説で知られるツイッターアカウント、itumonさんはこの小組曲についてツイートし、以下のように述べています。
そのうち交響曲・藤井猛とかできたらどうしよう
第1楽章は、群馬で十年一剣を磨く日々
第2楽章は、羽生さん、森内さん、佐藤さん、郷田さんとの埋まりそうでギリギリ埋まらない苦悩
第3楽章は、そうした苦悩を打破、藤井システムを見出し、運命を超越する様。
ごめんなさい
— itumon (@itumon) 2015, 6月 4
「交響曲 藤井猛」。ロマン溢れる響き。
itumonさんは藤井九段の将棋人生を交響曲にしようと提案されていますが、一方、藤井九段が開発した戦法(システム、角交換四間、藤井矢倉・・・)だけでも交響曲を成立させることができそうです。
振り飛車党なら
ご紹介したように、鹿野さんがインスピレーションを得たという3つの戦法はいずれも振り飛車の戦法。というわけで、振り飛車党であれば、ぜひとも演奏したくなる小組曲です。
この記事の一番上のリンク先によれば、楽譜の価格は32400円、演奏人数は24人だそうです。
駒を盤上で指揮するだけでなく、オーケストラの指揮者となり3つの戦法を音楽でも表現してみる、というのもいいかもしれません。
たまには飛車だけではなく、タクトも振ってみてはいかがでしょうか。
コメント
調性的というのは、調(ハ長調とかニ短調とか)がわかりやすいということです。
3局目が一番調性的ということは、他の2局は調がわかりづらいか、あるいは無調なんだと思います。
ちなみに、この楽譜はレンタル譜なので、3万円出せば手に入るわけではなく、何回か演奏したら返さなければいけません。
かつては吹奏楽も販売譜が主流でしたが、コピーして団体間で貸し借りするような不正が横行したため、出版社や作曲家を守るためにこのような方式をとる会社が増えています。
コメントありがとうございます。
しかも音楽の技術的なご説明から業界の背景までご説明までしていただきまして、ありがとうございます。
このコメントを見られる方も多いと思いますので、そういう方にとっても有益な情報だと思います。
私は最近は音楽をあまり聴くことがないのですが(寝てしまう・・・)、記事中にも書いたように子供の頃は音楽に触れていました。
音大に入りたかったとかは思いませんが、ある程度の素養は身につけたほうがよかったかなと少し後悔しているところです。
音楽が社会人生活で役に立つ場面はあまりありませんが、やっぱり何かの時にさらっと演奏できたり、今回のように言っていることが理解できるというのは人間の幅が広がるかなと。
そんなことを思って書いていました。
コメントありがとうございます。