AWAKE巨瀬亮一さんの言葉を受けて?羽生善治名人も「棋士の存在意義」に触れる

2015年3月から4月にかけて行われ、初めてプロ棋士がコンピュータソフトに勝ち越し(3勝2敗)て終えた将棋電王戦FINAL。

この第5局に登場したコンピュータソフトAWAKEの開発者・巨瀬亮一さんが、いわゆるハメ手を使ったプロ棋士・阿久津主税八段に対して、

「アマチュアの方が指して既に知っているハメ形になって。それをプロが指してしまうというのは、(阿久津八段は)プロの存在を脅かすようなプロ棋士なんじゃないか」

と述べ、これが大きな反響を呼びました。

巨瀬亮一さん「ハメ手を使うプロ棋士の存在意義」を問う

そして、4月17日に行われた「第42回将棋大賞」の表彰式では、棋界の頂点に立つ羽生善治名人がこの「棋士の存在意義」について触れています。

スポンサーリンク

なりふり構わぬ姿

この将棋大賞で、羽生名人は最優秀賞棋士賞とともに名局賞を受賞。対象となったのは2014年10月23日に行われた第62期王座戦五番勝負(羽生善治王座VS豊島将之七段)の最終第5局。

この対局では終盤、執念の受けを見せる挑戦者・豊島七段に対し、羽生王座の方が先に時間を使い切り1分将棋となりました。羽生王座は、竜を切って豊島陣に切り込み、何度も手を震わせ、間違いをおかしながらも、最後は豊島玉を即詰みに。153手におよぶ激闘でした。

詳しい棋譜などは王座戦のサイトでご覧ください。

スポーツ報知の記事によると、名局賞の賞状には

あなたはフルセットとなった5番勝負で精神力の強さを発揮し、見事防衛を果たしました。第5局の終盤での、なりふり構わぬ姿で勝利への執念を見せたことは多くのファンに伝わり、感動を与えました

と書かれていたとのこと。

羽生善治名人からのメッセージ

そしてこの受賞について、羽生名人から棋士に対してのメッセージ。

賞状の文章が長いと言われていますが、今回も確かに長いなあと思いました

と笑いを誘いつつ、そして・・・!!

最近はコンピューターが非常に強くなってきまして、棋士の存在意義というものが問われている時代になっているのかなあと思います。だからこそ、棋士は将棋を指す上で、賞状の文章に書き切れないくらい内容のこもったものをいかにたくさんつくっていけるか、ということなのではないかと思っています

羽生名人、盤上でも恐ろしいほどの発想力ですが、コメントでも凄まじい。賞状に「書き切れないくらい内容のこもったもの」という言葉を棋士に贈るとは。

そして「文章が長い」という素晴らしい前振り。

阿久津主税八段「解説のことも忘れて」

ちなみに、この王座戦第5局で、ニコニコ生放送の解説をしていたのは阿久津主税八段。

阿久津八段は、この名局の終局後に「最終局で、1分将棋で、こうなると・・・私も解説しているなかで『おー!』とか『えー!』とか言いながら、ちょっと・・・解説のことも忘れて自分自身が楽しんでいた。手に汗握る展開になって面白い一局だった」などと話していました。

豊島将之七段「圧倒的に強く」

ところで、羽生名人が言う「内容のこもったもの」というのは、羽生名人だからこそ言えるのかもしれません。多くの棋士は内容の前に結果を求められるのだと思います。

阿久津八段は電王戦FINAL第5局後の会見で

「見て楽しい将棋が一番。だが、今回の電王戦の戦うにあたって、事前にソフトを貸し出していただけるということなので、出来る限り勝率が上がっていく形を検証した。他の戦型でも、貸し出していただいているルールの中で最善を尽くそうと思って、今回の作戦を選んだ」

と、作戦を選んだ理由を険しい表情で語りました。

これもそうですし、「関西若手四天王」と期待されながら順位戦C級2組に7期滞留した村田顕弘も、前期の昇級にあたり「勝負の鬼になった」「結果が全てだということを本当の意味で理解した」と述べている(将棋世界2015年5月号「昇級者喜びの声」より)ことからも、結果と内容の両立が難しいことがわかります。

そこで、この王座戦の名局で敗れ去った挑戦者であり、同じく関西若手四天王の一角でもある豊島将之七段が電王戦FINAL第5局会見後にツイートしたことの意味が痛いほどわかります。以下です。

豊島七段、ぜひ、「棋士の存在意義を示す」棋士に。

いやもう存在意義示してますけどね、こんな可愛いソフトないでしょうし。

以上、最後まで読んでいただきありがとうございました。

スポンサーリンク

将棋ワンストップをご覧いただきありがとうございます。ぜひシェアをお願いします

記事の追記や更新の通知はツイッターで行います。フォローをよろしくお願いします!

コメント

  1. 匿名 より:

    アマがつかったハメ手と強調してますが世に出たのは100万円企画の時ですがソフト貸し出しで研究をしていた阿久津さんは100万円企画より前にソフトの穴を発見していたので語弊があると思いますよ?
    これに関しては野月さんも証言してるのでアマのハメ手を採用したのではなく、事前に自ら発見していたものです。

    • 管理人 管理人 より:

      コメントありがとうございます。

      >アマがつかったハメ手と強調してますが(中略)語弊があると思いますよ?

      これは巨瀬さんにでしょうか?それとも私(管理人)にでしょうか。

      私は本件の経緯は存じております。本記事中にも示しました、こちらの記事(電王戦FINAL、AWAKE開発者・巨瀬亮一さん「ハメ手を使うプロ棋士の存在意義」を問う)や、その記事の先のこちらの記事(阿久津主税八段は△2八角に「貸し出し後、数局で気づいた」)にも示しています。

      巨瀬さんへのコメントだとしましたら、巨瀬さんはおそらくこの発言の時点では、阿久津八段が先に発見していたという経緯を知らなかった時だと思います。対局直後の会見での発言です。発見の経緯はともかくとしまして、公の場で指されたのはアマチュアの方が初めてだった、という意味で発言されたのかもしれません。

      コメントありがとうございます。

  2. fugue より:

    「結果」を出し続け、勝ち続けてこれた選ばれし者たちがプロ。そのプロの世界でも、「記録(結果)より記憶(内容)に残る」人や、その逆の人がいる中で、その両方に秀でた存在となっているスーパースターがいる…プロになるまでは結果至上主義なんだろうけれど、一度プロになったからには、観る人を内容でも魅せることが求められて然るべき、あるいは少なくともその高みをプロならみんな目指すべき、ということなのかな。今日「プロ」というものが、本質において「観戦競技(spectator sport)の選手」ということであるならば。いい試合はするけれど負けてばかりの名勝負製造機は早晩消えてしまうけれども、内容で魅せることができないプロもまた等しく存在意義が問われても仕方がないのかも知れない。観客なしの、純粋な勝負のみの世界となればまた別なんだろうけれど。

  3. 管理人 管理人 より:

    コメントありがとうございます。

    コンピュータの存在を前提にして、人間にしかできない戦いがあるのが趣旨だとは思います。それは意識的に魅せる将棋を指すべきだというのか、たとえ棋譜はひどくても人間が必死でもがくようにした戦いが観客を魅了できるのか、そこはわかりませんが。

    ところで棋士も存在意義が問われる局面にきているかもしれませんが、コンピュータもコンピュータで曲がり角に来ていると思いますね。というのも囲碁であったように、Googleなどが本気で取り組めばもっと強いソフトができてしまいそうですからね。

    コメントありがとうございます。

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。