ETV特集「羽生善治×ガルリ・カスパロフ対談」。人工知能、加齢、引退、チェスと将棋の違いなど

羽生善治名人と、チェスの伝説的チャンピオンであるガルリ・カスパロフさんの対談が「ETV特集 激突!東西の天才」と題して2015年3月21日にNHK Eテレで放送されました。これは、カスパロフさんが2014年11月に将棋電王戦FINALの振り駒のために来日した時のもの。

2人の天才は、チェスと将棋の違い、プレイヤーの教育方法、加齢に対する考え方、引退のこと、人工知能・コンピュータまで、幅広いテーマで対談。

3月28日午前0時には再放送もありますので、見逃した方は是非見て欲しいのですが、どんな番組だったのかを簡単に以下にご紹介します。たぶん、読んだら再放送を観たくなると思います。

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対談内容

この記事では、2人の言葉を中心に番組を振り返ります。粗めに書いてありますので、興味がある方はぜひ再放送を観ましょう。実際の番組は対談形式ですが私(管理人)の独断でセリフを抜き出してご紹介します。

将棋とチェスの違い

カスパロフさん(以下、カ)「(詰将棋の)7手詰めならどうにか解けます。将棋は守りがとても複雑なので対局は無理ですが、攻めるだけを考えればいい詰将棋ならけっこうできるんですよ」

羽生善治名人(羽)「将棋をやっている時の習慣で、高い位置に玉・キング行ったら安全になると思うが、チェスだとむしろ危険なので、それが非常に混乱するところです」

カ「チェスも将棋も社会の鏡なんです。(発祥地から)伝わりながら、土地の気質を取り込んでいったんです」

カ「日本では伝統的に前言を撤回することが潔しとされません。それを反映して駒の多くが後戻りしないのではないでしょうか」

羽「カスパロフさんのチェスっていうのは、極めて将棋的なんですね。チェスの場合は駒を捨てて攻撃するっていうケースは非常に少ない。カスパロフさんの場合はナイトとかビショップとか大きい駒を捨てて(サクリファイス)詰ませて勝つとか、いいポジションを取るとか、そういうスタイル。スタイル的には、かなり将棋的なプレイヤー」

将棋とチェスの可能性

カ「新しい手を生み出すにはまず、心構えが大切。常々、チェスを指すことは何か新しいことを生み出すチャンスだと思っている。ただゲームに勝つのではなく、チェスの常識を変える何かを生み出したいと思っている」

カ「チェスには、もちろん将棋もですが、そこに限界はないんです。重要なのは常識にとらわれず新鮮な目で見ること」

プレイヤーの教育

カ「私のコーチ(ミハイル・ボトヴィニック)は、名プレイヤーとスーパー名プレイヤーを分ける特徴があると言っていました。それはいかに多くのパターンを認識できるか。パターンの違いがわかるということは局面を瞬時に認識できるということ。いちいち読まなくてもいいんです」

カ「優秀なプレイヤーの裏には、それと同じ数の優秀なコーチがいると言っても過言ではない」

カ「(10歳程度の子供の棋譜を)1ゲーム見るだけでも、才能があるかどうかわかるものです。才能を発見するのは案外簡単です。むしろ問題なのはそこからどう進化していくか。才能を伸ばしていける要素があるのかないのか、それを判断するには時間がかかります」

カ「努力できることも才能の一つだと思います。いや、むしろ努力し続けられることこそが、才能そのものなのです」

将棋・チェスだけに集中すべきか

カ「(チェスの力をつけるには、チェスだけでなく)いつも何かに挑戦すべきだと思っていました。様々な経験を積むほうが、人生の助けになると信じています」

羽「自分の場合も、全部が全部将棋だけに集中するのは一番良いやり方ではないと思っている。技術的なことより、メンタル面での、切り替え方とか、集中力を上げたり下げたりとか。考え方の幅を広げるとか。いろんなことを知っていることが、役に立つこともある」

突然の引退について

2005年、カスパロフさんは絶頂期にして突然引退。当時41歳でした。

カ「引退した頃は、チェスの新しい戦略や視点を生み出すというチャレンジに、昔ほど情熱を感じられなくなっていました。絶頂期に、キャリアを傷つけることなく引退できた。新しい人生に踏み出すよい引き際だったと」

プレイヤーの年齢

カ「チェスの世界では、プレイヤーの円熟期の年齢がどんどん若くなってきています。30代に入ったプレイヤーがトップレベルの大会で勝ち抜くのは、難しいのが現状です。チェスでは、今、一番能力を発揮できるのは20代半ばでしょうね」

羽「よく『20代の自分と、40代の自分と対戦したらどうなるか』と聞かれることがある。それは仮定の話なので結果はよくわからないが、ひとつ言えることは、将棋っていうことに対して、現在のほうがより深く理解していると思っている」

羽「歳が上がると反射的な能力や計算的な能力は衰えるが、局面の全体像を捉える感覚的な能力を磨いていくっていうことが、強くなっていくことだと思う。(そういう能力が)上達しているかどうかわからないが、少なくとも上達したいという気持ちは持ってやっている」

人工知能

ロボット兵器などに応用され、30年後には人類を超えるという人工知能。多くの著名人が「数年後必ず人類の心配事になる(ビル・ゲイツ)」「完全な人工知能の開発は人類の終わりをもたらす(スティーブン・ホーキング)」「人工知能は核兵器よりも危険になる可能性がある(イーロン・マスク)」などと人工知能の発達に警鐘をならしている。

カ「私は人工知能の発達を前向きに捉えている。人類を脅かす存在ではなく、我々にとって便利になると信じている。そのためにもチェスや将棋のコンピュータ対決の経験を活用する事が重要。人間とコンピュータの考え方の違いが明らかになり、協力する方法を編み出すことができる」

羽「コンピュータが60:40と評価した、という事象を見た人々の行動は、おそらく99:1ということになってしまう。それは危険だと思っている。人間的な柔軟性やユニークさが大事になってくる」

補足しますと、例えば、右の道を選ぶか左の道を選ぶか迷っている100人の人々に、コンピュータが『60:40で左のほうが良い』と評価した値を見せた時、99人は左を選んでしまう。このような偏りは危険、ということだと思います。

カ「60:40は不確実です。こういった場合には人間の直感や経験のほうが優れている。40が鍵を握っているかもしれないことを理解するのが人間」

勝ち続ける秘訣

カ「努力しかない。未来を切り開くのに、努力の重要性以外には考えられない」

羽「プロの世界では大きな差は生まれない。小さな違いを積み重ねていくことが結果につながる」

カスパロフさんを見送った羽生善治名人

繰り返しになりますが、とてもいい番組でしたので、見逃した方はぜひ3月28日午前0時の再放送を観ましょう。NHKさん、すばらしい対談をありがとうございました。

対談が終わると、部屋から先にカスパロフさんが出て行きました。

そして、残った羽生名人がスタッフに言ったセリフ。

羽「いやぁ、なんか、今日は良い一日でした」

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コメント

  1. やったか? より:

    管理人様、番組紹介ありがとうございます。
    見逃したのですが、是非観たくなりました。

    いろいろと意義深い話が多かったです。特に、「コンピュータが60:40と評価したという事象を見た人々の行動は、おそらく99:1ということになってしまう。それは危険だと思っている。」というお話は、ソフトの評価値だけを絶対視して(鵜呑みにして)優劣を決めつけてしまったり、短期的な勝敗数だけを見て「振り飛車は終わりだ」などと切り捨ててしまったりされがちな近年の傾向に対する危惧にもつながるのかな、と思いました。

    ところで、カスパロフさん、7手詰めをなんとか解けるってすごいなあ。自分は5手詰めを解ける率が3割くらいなので、7手詰めなんてほとんどお手上げ状態です。

    • 管理人 管理人 より:

      コメントありがとうございます。

      私もカスパロフさんが7手詰めを解けると聞いて驚きました。
      詰将棋を解けるということは、将棋のルール、例えば、駒の動きはもちろんのこと、
      成駒、二歩、打ち歩詰めといったことを理解していないと出来ませんので、
      そのようなことを理解した上で解いていると思うとすごいですね。

      60:40の話は、羽生名人の言葉をそのまま文字に起こすことは難しかったため
      (実際の番組では画面上に文字が表示され補足されていました)、少し私の解釈も入れています。
      ぜひ番組を観てみてください。

      お考えのことはその通りで、数字を見ると人はどうしてもその方向に流されてしまうのを
      お二人とも危惧されていました。まさに現在の将棋を取り巻く環境はその実験場になっていると思い、
      私もこの羽生名人のお話が最も印象に残っています。

      コメントありがとうございました。

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