羽生善治名人「これから雨が強くなりそうですね」。北野新太さんのいささか私的すぎる取材後記より

2015年7月10日にみんなのミシマガジンに投稿された、北野新太さんの連載「いささか私的すぎる取材後記」が、面白かったのでご紹介します。

記事のタイトルは「台風下の棋士」。

台風の下で行われたある対局から、羽生善治名人と阿久津主税八段の2人を描いています。

第41回 台風下の棋士(いささか私的すぎる取材後記)
【修正】リリース当初、別の北野さんの記事にリンクしてしまっていました。お詫び致します。

以上、ありがとうございました。

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感想文

以下はまあ、相変わらず私(管理人)の読書感想文ですね。

正直、上のリンク先を読むだけで十分なんですが、まあ一応・・・。

北野さんの文章構成とか隠喩の部分が面白いのは言うまでもないので、そのあたりの感想文は割愛します。ただタイトルが「台風下の棋士」というのは恐ろしくいいです。

電王戦FINAL、阿久津主税八段への重圧

まず、阿久津八段の電王戦FINALでの勝利についての記述があります。あのハメ手とも言える△2八角を打たせる手順による勝利です。この勝利には様々な議論がありました。

電王戦FINAL、AWAKE開発者・巨瀬亮一さん「ハメ手を使うプロ棋士の存在意義」を問う

将棋電王戦FINAL、ハメ手を使用すればプロ棋士側が全勝した可能性

雑誌「将棋世界」の2015年6月号には、本局の阿久津八段自身による「自戦解説」が掲載されています。そこには、

面白い将棋、魅せる将棋というのはもちろんプロとして意識しなければいけませんが、面白いというのも人それぞれ感じ方が違うのでしょうし、すべてを成り立たせるのは難しいことだなと改めて思いました

と心境が綴られています。ただ、これはこれで納得できる文章なのですが、どうも優等生的な感じがしていました。

第三者による、阿久津八段の心境の取材がされないかなと思っていました。

そこで今回の北野さんの文章。北野さんは一杯飲んだ後タクシーの助手席でつぶやいたという阿久津八段の言葉を聞き逃しませんでした。

「ずっと、電王戦だって普段の対局と同じなんだって思ってやってました。でも…違った。実際に近づいてくると、やっぱりいつもの対局とは全然違いました。やっぱり、すごく重圧はありました…」
あのクールなポーカーフェイスの裏側で、阿久津は震えるような思いを抱えながら大勝負に立ち向かっていた。

これは、阿久津八段が勝利した電王戦FINAL第5局の2週間後のことだそうです。

あの熱気から少し冷静になってのことで、しかも一杯飲んだ後なので、本心に近いのだと思います。

この取材力。

あとは、対局相手だったコンピュータ将棋ソフトAWAKEの開発者、巨瀬亮一さんの心境も聞きたいと思ってしまいました。あの熱気の中ではうまく伝えられなかったこともあるでしょうし、誰か一杯飲んだあとのタクシーで聞いてみてほしいです。

羽生名人「これから雨が強くなりそうですね」

私が今回の文章のなかで、もう一つで惹かれたのは羽生名人の言葉。

短い取材を終え、ありがとうございましたと告げると、羽生は鞄と傘を持って「これから雨が強くなりそうですね」と言った。仕事上の会話を終えた時、何かひとつ言葉を加えようと気遣う時、人が振る舞う時のあの感じだ。私が「横断歩道が川みたいになってました」と言うと、再び気遣うように小さく声を上げて笑った。

いかにいい会議、会話のエンディングを作るかというのは、普通のサラリーマンにとってはコミュニケーション上の重要課題。

常々思うことですが、棋士の方々はこういう社会性をどうやって学ぶんでしょうね。

まあ羽生名人ともなると、各界の様々な方と会議、会話は相当たくさんあるでしょうから、自然にできるのでしょうが。

私のようなコミュニケーションが下手な人間からすると、仕事(棋士として)も長年トップで、こうやって社会性もある人というのは、本当に完璧な人間にみえてしょうがないです。

将棋や棋士の何に惹かれる?

この記事のラストの文章、これが私個人的に最も心に響きました。

先輩の観戦記者から最近「将棋や棋士の何にそんなに惹かれるんですか?」と尋ねられた。
どんな競技よりも真剣勝負だからですよ、とか、けっこういろんな世界を見てきましたけど、ああいう人たちはなかなかいないもんですよ、などと、ああだこうだと答えてはみたものの、どうにもしっくりこなかった。
だから、あの台風の夜の話をした。

私はまだ将棋ファンになって1年半ほどではありますが、友人知人に将棋の話をすることはあり、でもなかなかその良さが伝わらない。どうやって伝えりゃいいんだといつも思うわけです。

北野さんは将棋専門の記者ではないため、その分「いろんな世界を見てきた」ということで、それに比べて将棋の世界というのを客観的に見られるのだと思います。

今回の文章で「こうやって伝えるんだ」というものが伝わってきて、一人で感動したのです。

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コメント

  1. あなあき より:

    「文筆家」なんていうものはウソツキじゃないと務まらないよwww

    • 管理人 管理人 より:

      コメントありがとうございます。

      まあ多少のあれはあるかもしれませんが、それでもこの文章はとても面白かったです。こうやって伝えるんだな、と。コメントありがとうございます。

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