2015年11月21日~23日に開催中の第3回将棋電王トーナメントで、最も注目されているソフト「技巧」の開発者、出村洋介さん。
21日のニコニコ生放送での中継に、ご本人が出演しインタビューを受けていましたのでご紹介します。
また、同トーナメント出場のソフト「大合神クジラちゃん」のえびふらいさんも生放送をされていまして、この記事ではそこでの情報も一部ご紹介します。えびふらいさんいつもお疲れ様です。ありがとうございます。
ちなみに、技巧は21日の予選で7勝1敗の成績。唯一負けたのは第1回電王トーナメントから予選全勝を続けているPonanzaでした。Ponanzaは予選を3回連続1位通過。技巧は2位通過となりました。
人間的な評価項目
技巧については以下の記事も参考にしてみてください。
電王トーナメントに「技巧」という強すぎるソフト現る。参考文献に多くの棋書、人間に近いタイプの可能性
インタビューの聞き手は長岡裕也五段と藤田綾女流初段です。
技巧の特徴は?
大局観に相当する評価関数の部分で、羽生先生(羽生善治名人のことだと思われる)などが考慮されているとご著書で書かれていた、駒の損得、駒の効率、玉の堅さ、手番という、人間的な4つの評価項目をもれなく考慮することを意識しています。
このような作り方をしているソフトは他にはない?
むしろ最近は減っていた。以前のYSSの山下(宏)さんとか、GPS将棋の金子(知適)先生とか、昔から作っていた方は比較的細かくそのようなことを見ていた。しかし保木(邦仁)先生のBonanzaの登場以来、3駒の関係だけを見るのが主流になりまして。そのBonanzaの衝撃の大きさから、それがそのまま続いてきた。
Bonanzaの評価関数では駒の位置関係だけなので、玉の堅さや手番でどれだけ得するかが必ずしも正確にはわからないので、そこを丁寧に一つ一つ、人間が重視しているのであればやはり重要なのだろうという考えのもとに、作っていきました。
開発で苦労したことは?
Bonanzaなどの3駒の関係というのは、3駒の関係だけを見ているというプログラムが多く、コンピュータが機械的にできる作業になります。もちろん場合の数は多くて、1000通りとか見ていますが、そういう単純作業を延々とやるのはコンピュータは得意なので、そういう方針で作っている方が多いです。ただ、自分のような作り方をすると、一個一個の項目を手動で全部(調整する必要がある)。
例えば、玉の周りの8マスに相手の駒の利きはいくつあるとか、自分の守りの駒は何枚利いているとか。玉の周囲に空白があれば、相手の持ち駒で王手がかかるかとか。一個一個丁寧に見ていくと、人間の労力としては大変かかる。
強くなったことの判断をどうやってしている?
自己対戦(古いバージョンvs新しいバージョン)で、新しいバージョンが勝てばそれは強いというふうに考える。ただ、必ずしもこれで強くなったと証明できるわけではない。各バージョンがジャンケンのような関係になることもたまにある。
観る将
ご自身の棋力は?
指したら弱いんじゃないかなと(笑)。観るファンの方なので。NHK杯とかは観させていただいています。
最後に、他の開発者からも天才と絶賛される出村さんらしい言葉。
(観るファンだが)ただあの、普段は将棋の棋書とかを読んだり。そのほうが意外と楽しかったりします。(実戦より)研究の方が楽しい(笑)
以前の記事(再掲)にも書きましたが、出村さんは技巧の開発にあたって多くの棋書を参考にしており、人間に近い局面の評価を目指しているようです。詳しく棋譜を見てみないと棋風などは判断できませんが、このインタビューではそのように感じました。
なお、えびふらいさんの生放送に出演されたライターの松本博文さんの情報によれば、出村さんは東京大学大学院法学政治学研究科(ロースクール)出身で、司法試験に合格した後の今年5月から今回の将棋ソフトの開発を始めたとのこと。
約半年の開発期間。日に日に強くなっていったようです。