藤井聡太の記憶(6)。密かなる6連勝、被害者の会・初代会長に浦野真彦八段

デビューから2連勝した藤井聡太さんでしたが、その頃はまだ彼の活躍は将棋界の中だけの出来事でした。

しかしこれが、将棋界の外を巻き込んだ社会現象になるのに時間はかかりませんでした。このあと2017年は、藤井聡太さんの年になっていきます。

最初に藤井聡太さんに公式戦2敗を喫し、「被害者の会」入りに名乗りを上げたのは、詰将棋作家としても有名な浦野真彦八段。浦野八段は詰将棋の天才少年をずっと気にかけていたと聞きますし、きっと藤井さんも浦野八段の詰将棋を解いて強くなった部分もあるでしょうから、皮肉なことです。

スポンサーリンク

炎の七番勝負

AbemaTVでは、将棋チャンネル開設の目玉として「藤井聡太四段 炎の七番勝負」が行われると発表されました。もちろん異例のことです。

藤井さんが挑む対局者は、増田康宏四段、永瀬拓矢六段、斎藤慎太郎七段、中村太地六段、深浦康市九段、佐藤康光九段、羽生善治三冠(肩書は当時)の7人。正直、この時点では藤井さんの実力に未知数の部分も多かったですから、このメンバー相手に2勝ぐらいでもすごいことで、あるいは全敗もありえるのでは、という評判もあったと思います。

1回目の浦野真彦八段戦

藤井さんのデビュー3戦目は、2017年2月9日の竜王戦6組ランキング戦、対浦野真彦八段。

藤井さんは後手番でしたが、前局(豊川孝弘七段戦)に続き桂をポンと跳ねて(22手△6五桂)流れを引き寄せ、そして34手目に出たのが以下の△7二角。

一見、意味がわかりづらい自陣への角打ち。しかしこのような自陣角は、素人には一見わかりにくくても、なんとなくいい手っぽく見えるから不思議です。

この角打ちの狙いはまず、先手の浦野八段が棒銀で飛車先を突破しようと試みているところを、牽制する意味があります。将来的に△2七歩と飛車先を抑え、あるいは将来的に逆襲を狙うという意味。

さらに、先手から▲6三飛と打たれ竜を作られるのを防いでいます。

ついでに、離れ駒だった6一の金に紐をつける効果もあります。将来的に金をタダ取りされるのを防いでいるのです。このように、相手の複数の狙いを一気に消し去ってるのが△7二角の意味であり、こんな角を打ってみたいものです。

【管理人の所感のコーナー(攻撃的であることは、良いことか)】

サッカー好きの私としては、FIFAワールドカップのベルギー戦直前の、日本代表・西野朗監督へのインタビューにはちょっと違和感がありました。

それはインタビュアーの記者が、西野監督に「この試合も攻撃的な姿勢で臨むのでしょうか?(=攻撃的に行って攻め勝ってもらいたい)」という趣旨の質問をしていたことです。

この件に限らず、日本のサッカーをめぐる報道においては「攻撃的、積極的」を良しとして、「守備的、消極的」が悪いことであるかのような風潮があるように思います。

サッカーの場合は、攻めのほうが華があってファンを楽しませることができるとか、相手の長所を消す戦術や消極的な体力温存は客受けが良くない、というのもあるのでしょうけど。

藤井聡太さんやその対局をめぐる報道でも、同じように「攻めてもらいたい」とか「攻めに期待」という報道も多くありました。

この記事で紹介した藤井さんの△7二角は、直接的な攻めの手ではありません。上記に書いたとおり、主な意味としては相手の狙いを消すことにあります。将来的な反撃を含んだ手ではあると思いますが。

将棋界ではいわゆる「受け将棋」の棋風の棋士が歴代の名人に君臨してきた歴史もありまして、決して「攻め」が「受け」より上位にある、ということはありません。

その受け将棋の代表格・大山康晴十五世名人の有名な言葉に「最初のチャンスは見送れ」というのもあります。最初のチャンスはチャンスに見えても実はそうではない、そこをじっとこらえて本当のチャンスを待つ、という趣旨の意味ですが、将棋をあまり知らない人から見ればこの棋風は消極的にも見えますね。

また、これもワイドショーとかで勘違いされているのを見かけたことがあるのですが、将棋では「攻めてるほうが有利」というわけではありません。

実際に将棋を指していると、攻めていると気持ち的には楽です。が、攻めが切れる(もう攻め手がなくなってしまう)とカウンターを食らっておしまい、という状況はよくあります。

サッカーでも、攻めているほうが有利とは限りません。気持ちよく攻めていたが、肝心なところでカウンターを食らって・・・というのはよく見てきました。

サッカーでも将棋でも「受け」「守り」というのは、そのジャンルに詳しくない方には理解されにくいのだと思います。攻めのほうが見ていてわかりやすいですからね。そういうことから、みんなが見ていてわかりやすくて気持ち良い「攻めを良しとする」風潮、あるいは前述のインタビューのように「攻めを煽る」風潮が生まれるのかもしれませんが、歴史的に見てそれは危険ともいえます。

藤井さんが放った△7二角からわずか14手後、藤井さんの48手目を見て、浦野八段は投了しました。短手数での決着でした。

一気に6連勝

それから2週間後の2月23日、NHK杯予選が一斉に行われ、藤井さんは浦野真彦八段(2回目)、北浜健介八段、竹内雄悟四段を破りNHK杯本戦への出場を決めました(当時は非公表)。

藤井さんは密かに、デビューから6連勝を飾りました(これも当時はまだ非公表。NHK杯の予選の結果がわかるのは、普通は本戦のトーナメント表が発表されたときですので)。

藤井さんのデビュー3、4戦目で当たり、連敗した浦野八段は自ら「藤井聡太被害者の会」の会長を名乗ることになります。

「被害者の会」っていうのは言葉としては印象悪いかもしれませんが、将棋界独特のネタですかね。特定の棋士に負けが込んている棋士たちの集合体です。他には「羽生善治被害者の会」が特に有名で会員数も多いです。こんなに若くして活躍する藤井さんですから、長く活躍すればこれから被害者の会の会員数が激増していくと思います。

スポンサーリンク

将棋ワンストップをご覧いただきありがとうございます。ぜひシェアをお願いします

記事の追記や更新の通知はツイッターで行います。フォローをよろしくお願いします!



コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。