藤井聡太の記憶(5)。桂ポンと変わりゆく将棋界

2017年初めの将棋界には、残念ながら前年の不祥事の暗雲がまだ立ち込めていました。

1月4日の上州将棋祭りで、当時の日本将棋連盟会長・谷川浩司九段が三浦弘行九段やスポンサー、ファンに謝罪。17日の竜王就位式で渡辺明竜王も謝罪。

18日には谷川会長らが辞任。他の役員らの解任請求の動きもありました。

前年末のデビュー戦を勝利で飾った最年少棋士は、そんな状況のなか2戦目を迎えることになります。

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AbemaTVに将棋チャンネル開設

1月20日に重大かつ明るいニュースが将棋界にもたらされました。

サイバーエージェント系でテレビ朝日も出資するネットTV「AbemaTV」に、将棋チャンネルが開設されると発表されたのです(2月1日に開設)。テレ朝といえば、朝日新聞の系列。朝日新聞といえば、名人戦など将棋界の大スポンサー。

実質、大スポンサーが自ら中継するということになりました。A級順位戦の8回戦、最終戦(将棋界の一番長い日と呼ばれる)、B級1組の最終戦などが中継されるという、画期的で、将棋ファン歓喜の内容でした。

最年少棋士の誕生という明るい話題が、この開設を後押ししたのではないかと思います。

5月には、一般棋戦だった叡王戦がタイトル戦に格上げされることになります。将棋界にいい風を吹かせてくれたのも、藤井さんの大きな功績だと思います。

豊川孝弘七段戦

藤井さんのデビュー2戦目は、1月26日の棋王戦予選・豊川孝弘七段戦でした。オヤジギャグの人です。

藤井さんにとって初めての先手番の公式戦。戦型は、藤井さんが最も得意とする角換わりとなりました。

そして▲4五桂ポンが出ます。

将棋の格言に、「桂馬の高跳び歩の餌食」というのがあります。桂馬は一度進む(桂馬を進めることを、跳ねるとか跳ぶとか言います)と後には戻れず、しかも桂馬はまっすぐ前には進めないため、頭(すぐ前のマスのこと)に相手の歩が来ると、次に取られる状況に陥ってしまいます。何も考えずに跳ねてしまうと、相手の歩で桂馬が取られがちということです。

上の図、自分で指したらいかにも桂馬を取られそうです。

だから桂馬を跳ねるときは、いろいろ準備してから跳ねる、というのが常識的でした。しかしいきなりポンと跳ねていって攻めが成立する、というのが「▲4五桂ポン」で、当時流行しつつありました。

桂ポンの経緯

桂ポンはかなり以前にも指されていた形でしたが、近年の桂ポン流行の発端は、2016年10月3日のA級順位戦で三浦弘行九段が採用し勝利したのが始まりでした(対戦相手の渡辺明竜王が、後に三浦九段の手とコンピュータソフトの手との一致率が驚くほど高いと疑うことになったという、いわくつきの対局ですが)。

その後の竜王戦七番勝負でも、三浦九段に代わって挑戦者となった丸山忠久九段が第一局で早速採用。

このような大きな対局で続けて採用されれば、当然、将棋界ではこの形の研究が進みます。

【管理人の所感のコーナー(将棋界の流行)】

この桂ポンもそうですが、プロ棋士の間では流行の戦型や指し方(主に序盤戦において)というのがあるようで、1年前にはよく見たような将棋が、今ではすっかり廃れているということがあります。

ほんとうに驚きます。ファッションでいえば、先週「あ、あの人変わった服着てるな」という人を見たけたと思ったら、今日は2、3人その「変わった服」を着ている人に出会い、3ヶ月後にはもうみんながその「変わった服」を着こなしているみたいな感じで。

やがてその指し方に対する有効な対策が編み出され、その対策に対する対策が出てきて、その対策に対する対策に対する対策が出てきて・・・という、永遠のいたちごっこ。

近年はコンピュータ将棋ソフトも、流行を作るのに一役買っています。最近は単にソフトではなく、人工知能(AI)という言われ方もします。

コンピュータによって新しい指し方が発見される時代です。そしてコンピュータによって、従来ダメだと思われていた指し方が、ダメではないということがわかった、なんてこともあります。

コンピュータによって将棋の研究の速度が飛躍的に向上し、それぞれの棋士がどんどん研究を進めた結果、流行が目まぐるしく入れ替わる時代に。無数の序盤戦術が誕生し、その無数の対策の研究もままならないうちにまた無数の序盤戦術が誕生し、そして消え・・・というカオスに。もう、序盤戦の幅が広がりすぎて、研究も対策もしきれない!

近いうちに来るであろう、そういう時代に必要になってくるのは結局のところ「終盤力」・・・だと西尾明六段が言ってました。

それって藤井さんに有利な時代なのかもしれません。

藤井さんは当時中学2年生ながら、将棋界の流行をキャッチアップして自分のものにする能力を有していると、このときはっきりわかったわけです。

藤井さんといえば桂馬みたいなイメージもありますが、このときの桂ポンが始まりだったと思います。

藤井さんはこの対局に危なげなく勝利し、デビューから2連勝を飾りました。

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