藤井聡太の記憶(3)。デビュー前夜と当時の将棋界

2016年10月12日は、将棋ファンとして一生忘れられない日になりました。

3日後から始まる、将棋界最高の棋戦・第29期竜王戦七番勝負の挑戦者が突然、三浦弘行九段から丸山忠久九段に、変更されました。

この件はその後、日本将棋連盟の谷川浩司会長(当時)らの辞任、連盟理事3人の解任請求可決などを経て、2017年5月24日に連盟と三浦九段が和解に至るまで半年以上にわたり、将棋ファン(少なくとも私ですが)の心に悲しみをもたらしました。

そんな将棋界(と将棋ファンの私)が混乱する中で、14歳の藤井聡太さんはデビューしようとしていました。

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藤井少年の言葉の魅力

藤井聡太さんは、加藤一二三九段が持っていた最年少プロ棋士記録を更新し、しかもデビュー戦の相手が加藤九段だということもあって、藤井さんとともに加藤九段が連日メディア出演して大ブレイクしていったのはご存知のところだと思いますが、その前から伏線がありました。

藤井さんのデビュー戦の相手が加藤九段だと決定する前、読売新聞に二人の対談が掲載されています(2016年10月17日読売新聞朝刊)。

当時76歳の加藤九段と、14歳の藤井新四段の対談。

印象に残った部分は、加藤九段が「普段はどんな将棋の勉強をしているのか?」と聞いたことに対して、藤井新四段が「詰将棋と棋譜並べです。加藤先生の棋譜を勉強しました」と答えていることです。加藤九段は「素晴らしい。言うことなし」と応じています(加藤九段はたぶん、とても嬉しそうなお顔をしたはずです)。

この対談で藤井新四段は、加藤九段の心をガッチリと掴んだはずです。だから加藤九段は藤井さんの話をするとき、あんなに気持ちよさそうなんでしょうね・・・と勝手に思っています。加藤九段のことを、藤井さんはよく研究していたのです。

藤井さんのコメントの素晴らしさは、デビュー後にもよく報道されるようになりましたが、この加藤九段との対談の時点で、藤井少年の言葉は将棋ファンの心も掴みつつあったのだと思います。

11月下旬、藤井さんは地元・愛知県の大村知事を表敬訪問し、21手詰の詰将棋を書いた色紙をプレゼントしました。

【管理人の所感のコーナー(詰将棋の色紙)】

棋士や女流棋士が、色紙に詰将棋を書いてプレゼント(イベントの景品など)したり販売することはよくあって、私もいくつか持っています。

ただ、9手詰ぐらいまではなんとか頑張ろうという気になるのですが、11手詰ぐらいになると、解けず(解かず)じまいになってしまうのが定跡です。だからたぶん、大村知事も21手詰はさすがに解けずじまいかなと思います。

詰将棋はよく「作品」といわれます。色紙に書いてあるといかにも「作品」という感じですが、本に書かれていようが、トイレットペーパーに書かれていようが、どこに書いてあっても同じ詰将棋。

将棋ファンになってすぐのころの私は「詰将棋が書かれたトイレットペーパーを開発して商品化したら、トイレ中の暇を解消できるし絶対売れる!」と妄想していたのですが、よく考えたら詰将棋作家の人から怒られそうで、このアイディアを披露するのに躊躇。あと、解けないとスッキリせず(排便のほうでスッキリしたとても)、永遠にトイレから出れない人が続出しそうで、商品としては成立しなさそうだと結論付けました。

デビュー戦の相手は加藤一二三九段に

12月1日、第30期竜王戦ランキング戦の組み合わせが発表されました。

トーナメント表は以下で閲覧することができます。

第30期竜王戦 6組ランキング戦 (日本将棋連盟)

藤井聡太新四段が、デビュー戦となる1回戦で加藤一二三九段と対戦するというのは衝撃でした。だって出来すぎでしょ? って思いました。

「組み合わせは抽選で決まった」とわざわざ報道もされましたし、まあ、今となっては抽選だったとしか言いようがないのですが。前述の竜王戦を舞台にした不祥事があったので、その穴埋めにこの注目のデビュー戦を使われた? とか邪推もしました(竜王戦のスポンサーである読売新聞への穴埋めという意味で)。

当時の日本将棋連盟ホームページには「竜王戦6組ランキング戦では、アマチュアは1回戦で新四段と当たる」という規定が掲載されていて(竜王戦6組ランキング戦にはアマチュアにも出場枠がある)、新四段よりアマの出場者が多い状況だったので、どうしたって新四段は1回戦でアマと当たるはずだ、という見方もありました。

ところが、この連盟HP掲載の規定は古くて、前期(第29期)からこの規定が廃止されていたのです。将棋連盟のHPはこの年の9月にリニューアルしていたのですが、はっきり言って不評で、情報の間違いも多かったです(連盟もお詫び文を発表するぐらいに)。連盟HPが信用できないのも、前述の邪推に拍車をかけました。

でも結果的に、第29期から規定が廃止されていてよかったです。注目のデビュー戦が実現することになりました。

藤井さんは、加藤一二三九段とのデビュー戦が決定したことについて「身が引き締まる思いです」とのコメントをしています。

デビュー前、将来の目標

12月3日発売の将棋世界2017年1月号には「史上最年少棋士はいかにして生まれたか」という記事があり、ここで藤井さんが将来の目標として「レーティングでいえばあと400点は強くなれると思う」とコメントしています。

レーティングの400点差とは、期待勝率91%:10勝1敗のこと。つまり、将来の自分は今の自分に対して10勝1敗の棋力になる、という目標。それはたぶん、プロ棋士の最上位を大きく超えるレベルにあたると思います。

12月8日、デビュー戦が12月24日に決まったと発表されました。デビュー戦としては異例の、ニコニコ生放送と将棋プレミアムでの生中継も決定。

12月23日、対局前日にはニュース番組(フジ・FNNスピーク)でもデビュー戦について取り上げられていて、加藤九段は「はっきり言って、名人時代よりも今の方が、戦う前には研究をよくしてるんですけど。なかなか結果が出ないところで、率直に言って若干、ふに落ちないところもある」とのコメントをしています。

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