藤井聡太の記憶(19)。初の千日手。勝負手で大逆転、僥倖。澤田真吾六段戦

2017年6月2日、藤井聡太さんの公式戦第20局が行われました。

個人的には、藤井さんの連勝記録中の対局のなかで最も重要だと感じ、印象に残っているのが本局です。

千日手があり、勝負手が炸裂し、終局後の「僥倖」という言葉も話題になりました。

相手は将棋界5大王子の一角・風の王子こと澤田真吾六段。棋王戦予選決勝の対局であり、藤井さんにとっては節目の20連勝がかかる大一番でした。

7年前、藤井さんは澤田四段(当時)に4枚落ちの手合だったといいます。

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初の千日手

対局は、澤田六段の先手、藤井四段が後手で始まりました。角換わりで、澤田六段が穴熊、藤井さんは右玉に構えました。

ですが、この対局は、1時間ちょっとで千日手となりました。

千日手

千日手とは、同じ局面を4回繰り返すことです。

序中盤においては先手後手がお互いに、特定の駒を行ったり来たりさせることを繰り返して、局面が進まず、千日手となるケースがあります。他の手を指すと不利になるという判断からです。

どちらかが繰り返しをやめることを「打開する」といいますが、先手は打開を目指すことが多く、後手は無理して打開しないことが多いです。

これは千日手になった場合、先後を入れ替えて指し直しとなるため。

将棋ではほんの少し先手が有利とされているため、後手としては先手で指し直すことができて不満がないわけです。逆にいえば、先手としては千日手では不満に思うのが普通ですし、序盤作戦の失敗を認めることにもなります。

終盤においても千日手になるケースがあります。お互いに駒を打って、受けて、取って、取って、打って、受けて、取って、取っての繰り返しで成立することが多いかもしれません。お互いに最善・必然の手を繰り返している場合も多いですが、そうでない場合もあります。

形勢が有利だと考えている方は打開を目指し、そうでない方は千日手を目指します。

千日手は無勝負として扱われます。多くの場合は、その日のうちに先手後手を入れ替えて指し直しが行われます。

千日手となった局面。

澤田六段は金を7八・8八と行ったり来たりさせ、藤井さんも金を4二・5二と行ったり来たりさせて、両者打開せず、千日手が成立。

指し直し局は、先後が入れ替わり藤井さんが先手、澤田六段が後手となります。しかも消費時間は引き継がれますから、消費時間が少ない藤井さんが有利にみえます。

さらに、局面自体も澤田六段が悪くないと思われる局面で、澤田六段からの打開も十分に可能でした。

このような条件にもかかわらず、澤田六段は千日手を選びました。真意は不明です。藤井さんの研究を恐れたのか、千日手が自分の土俵だと考えたのか。澤田六段は千日手が多いほうですし、躊躇なく千日手を選ぶほうだとは思いますが、このような悪条件の千日手を選ぶのは意外でした。

こうして、藤井さんは公式戦初の千日手を体験したのでした。

待機策をとる澤田六段

指し直し局は、同日の午後に指されました。

千日手局でもそうでしたが、澤田六段は藤井さんの仕掛けをじっと待ち受ける方針でした。

澤田六段はいわゆる一人千日手のような手を繰り返しました。

一人千日手

一人千日手とは、自分は特定の駒を行ったり来たりさせて手を進めず(同じ局面を繰り返す)、相手に手を進めさせる戦術のことです。要するに待機策。

自分の陣形は同じ局面だが、相手の陣形は整備が進む。損なようだが、自分はすでに万全の陣形となっているので、あとは相手から仕掛けられるのを待ち受けるという方針。

それで相手も仕掛けて来ず、(本当の)千日手になればそれもまたよし、という方針。

昔は千日手があまりよしとされなかったようですが、現在では特に若手は千日手に抵抗がないようです。

後手番としては、(本当の)千日手になれば先手で指し直しができるので、千日手を狙うことも一つの戦略となっています。

前述の通り、澤田六段は千日手を苦にせず、千日手が多い方の棋士ですので、後手番ではこの方針で十分なわけです。

ところが、藤井さんが少し仕掛けをみせたところで、澤田六段が猛然と反撃。

一気に藤井さんを敗勢まで追い詰めました。

勝負手で大逆転

ここで今度は藤井さんが王手ラッシュ(王手の連続)を見せ、そして以下の勝負手を放ちました(▲7五桂)。

この勝負手に対して、△7五玉と逃げれば澤田六段の勝ちでした。コンピュータ的に見れば、この局面は澤田六段の勝勢。多くの棋士も澤田六段の優勢~勝勢という見方だったと思います。

しかし、△7五同金という手も見えます。目障りな桂馬を取ってしまえることはよさそうですが、相手の玉から自分の金が離れて攻撃が緩くなってしまうかもしれません。どちらがいいのか? と相手に選択肢を与えるのが良い勝負手です。

勝負手

「勝負手」の意味は、将棋を知らない方はちょっと勘違いがあるかもしれません。

将棋において「勝負手」とは、「勝負を決めに行った手」とか「勝負が決まった良い手」という意味では、ありません。

劣勢となっている側が「逆転の望みをかけて放つ手」という意味があります。

最善手ではないことも多く、自然な手でもなく、じっと我慢する手でもないですが、相手を迷わせたり驚かせたりする手であることが多いです。

勝負手が失敗すれば、形勢を大きく損ねることにもなりえます。

優勢側は、勝負手を放つ必要はなく、自然な手を積み重ねれば自然に勝利に近づきます。

しかし劣勢側は自然な手の積み重ねでは逆転の望みがありませんので、どこかで勝負手を放って逆転を狙います。

「勝負下着」という言葉がありますが、これも、もし交際が順調であればわざわざ勝負下着を選ぶ必要はなく、自然な下着でよいのです。

順調ではなく、ライバルに負けそうだとか、望まないのに恋が終わってしまいそうだというときに、意表を突く勝負下着に逆転の望みをかけるのだと思います。

なお、敗勢で終局が近いときに、最後に一縷の望みをかけた勝負手を「最後のお願い」ともいいます。

澤田六段に勝負手を突きつけた藤井さん。

この勝負手に対して、ほとんどの棋士が△7五玉と逃げるところだと思いますが、澤田六段が選んだのは△7五同金でした。やはり対局者心理というのは、傍で観ているのとは違うのでしょうね。

藤井さんの勝負手は成功。これでもまだ互角ぐらいだったとは思いますが、流れは完全に藤井さんへ。

日本将棋連盟モバイルのアプリがまたしてもアクセス不安定になる中、逆転。

そして・・・。

「羽生マジック」ならぬ「藤井マジック」との声も聞こえた勝負手によって、大逆転で勝利しました。

これでデビューからの連勝記録は「20」に到達。

僥倖

対局後に藤井さんが言った「苦しい将棋でしたし、(20連勝は)本当に、自分の実力からすると僥倖(ぎょうこう)としか言いようがないと思います」という言葉も印象的でした。

「望外(ぼうがい)」のときも話題になりましたが、「思いがけない幸運」という意味がある「僥倖」という言葉も、将棋界の業界用語みたいなものかもしれません(藤井聡太の記憶11参照)。

藤井さんを追い詰めた澤田六段でしたが、終局後は真摯に「実力不足ですね」と話していました。

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