動物系将棋用語12語。哺乳類、爬虫類、鳥類、魚類、甲殻類編

2015年11月6日の第28期竜王戦第3局2日目のニコニコ生放送で、解説の加藤一二三九段が「雀刺しという戦法の名前は、今の時代には極めて問題じゃんと気付いた。スズメが超迷惑している。僕は今後使わない」と発言されていました。

そういえば、将棋用語の中には動物の名前がついた用語がけっこうあると思います。

いくつ思いつくでしょうか?

思い出すことは頭の体操に良さそうなので、思いつかない方は一局指してからもう一度この記事を見てみると良いかもしれません。

この記事では、動物の中でも、哺乳類、爬虫類、鳥類、魚類、甲殻類の名前がついた将棋用語をご紹介したいと思います。ただし人間は除きます。

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鳥類

まずは鳥類の将棋用語です。

雀刺し

加藤一二三九段が今後使わないと発言された雀刺しとは以下の様な形のことを言います。最近のプロの将棋ではあまりお目にかかれませんが。

20151110-suzume

端に戦力を集中させ(上図の場合は1筋に)、突破を図る。

Wikipediaには以下のように書かれています。

名前の由来は、▲6八角または▲7九角が1三の地点を狙う格好が、ちょうど雀を捕らえるときに槍を斜めに構える姿に似ているから、と言われている(既に江戸時代から存在する「鳥刺し」という戦法と似ていることから、それをもじって命名したとする説もある)。
(中略)
雀刺しの創案者は升田幸三実力制第4代名人と言われている。

鳥刺し

「鳥刺し」という用語もあります。江戸時代から存在した戦法とのこと。対振り飛車戦で用いられる奇襲戦法の一つです。

20151110-torizasi

角道を開けずに角を7九に引いて、その利きを活かして左銀を5七~4六へと使っていく。

日本将棋用語事典によれば、この名前の由来は

その様子が鳥刺し(先端にトリモチを塗った長い竿で鳥を捕らえること)に似ていることから

だそうです。

トリモチというのは、竿の先につける粘着性のあるもの。鳥を捕獲するために用います。

イメージとしては「鳥刺し」と言われると、鳥をヤリで刺すことかな、と思っていたんですが、そうではなくてトリモチで捕らえるわけですね。

禽将棋

鳥でもう一つ。禽将棋(鳥将棋)という将棋類があります。

7×7マスで、鵬、鶴、雉、鶉、鷹、燕という6種類の鳥が書かれた駒を使用します。

江戸時代、六代大橋宗英によって考案されたとのこと。本将棋とどうぶつしょうぎの間ぐらいでしょうか。

詳しくは以下を参照下さい。

禽将棋 (Wikipedia)

千鳥銀

「銀は千鳥に使え」という格言があるように、銀をジグザグに進めていくことを千鳥銀と言うことががあります。

酒に酔った人の「千鳥足」が語源。チドリは「鳥類チドリ目」の一科。

なお最近では、名解説で知られる木村一基八段が、屋敷伸之九段の銀の使い方のことを「酔っぱらいの銀」と表現したことがあります。

アヒル

鳥類でもう一つ。アヒル戦法とかアヒル囲いと呼ばれる指し方。

20151110-ahiru

玉と金銀の形がアヒルに似ているから?

自陣に大駒を打ち込まれる隙がないので、大駒の交換を目指します。

哺乳類・爬虫類

哺乳類と爬虫類は意外と少ないのでまとめてお伝えします。

穴熊

動物の名前がついた将棋用語と聞いて真っ先に思いつくのが穴熊ではないでしょうか。「アナグマ」という種類の動物もいますが、将棋の囲いの「穴熊」は「クマが穴に入ったような状態」を表現していると言われます。

組み上がるまでに手数はかかりますが、最強の囲いと言われます。

20151110-anaguma

自陣はしっかりと囲いが残っているのに、相手玉を攻める手段がなくなって、攻められるのを待つだけになってしまった状態を「姿焼き」といいますが、とりわけ「穴熊の姿焼き」はよく耳にします。

また、過去には穴熊囲いのことを「獅子の洞入り」と呼んでいたこともあるようです。これも哺乳類ですね。

角行が成った状態を竜馬、または単に馬と言います。これは動物の馬のことを言っているのかよくわからないのですが、一応哺乳類に入れてみました。

ちなみに「桂馬」は木でできた宝物に由来するという説や、香辛料(シナモン)という説もあります。いずれも動物ではありません。

マムシ

と金のことを「マムシ」と呼ぶことがあります。

敵陣を這って囲いを食らう。

相手のと金は本当に嫌になるんですが、まさに毒蛇、マムシです。

魚類・甲殻類

海の生物から。魚類と甲殻類は生物学的には離れていますが(甲殻類は脊椎動物ではない)、まあ魚と甲殻類は一緒に売られているので一緒に紹介します。

蟹囲い

居飛車系の囲いの一つで、蟹囲い。

20151110-kani

駒落ち戦で見られる囲い。また矢倉に囲う途中で蟹囲いを経由することも多いですね。二枚の金がカニっぽいのが名前の由来だそうです。

上から攻められても大丈夫そうですが、横からの攻めには弱い。

カニカニ銀

カニでもう一つ。矢倉の派生系であるカニカニ銀。

20151110-kanikanigin

名前の由来は、日本将棋用語事典によると

二枚の銀が2匹のカニの動きに似ていることから、森信雄六段(現七段)が名付けた

とのこと。考案は児玉孝一七段。平成15年度の将棋大賞・升田幸三賞を受賞。

ナマズ

日本将棋用語事典によると「不成(ならず)」のダジャレで「ナマズ」と言うことがあるらしいです。

単に言葉をもじっているだけで、特別深い意味はない。

と書かれています。知りませんでした。

用語事典に書かれるほど流行していたのでしょうか。この用語事典の発行は2004年です。

ヒラメ

海の生物でもうひとつ。中飛車の戦法、ヒラメです。

20151110-hirame

美濃囲いの派生系のような金銀が、ヒラメの形に似ているということらしいです。大駒の打ち込みに強い。

まとめ

今回は哺乳類の中でも人間の名前がついたものは除きました。「藤井システム」「米長玉」「羽生マジック」など。「箱入り娘」も人間だと思いますので除外しました。また「竜」「鬼殺し」「かまいたち」など、架空の動物の名前がついたものもありますが、これらはまた別の機会に。

この記事では、雀刺し、鳥刺し、禽将棋、千鳥銀、アヒル、穴熊、馬、マムシ、蟹囲い、カニカニ銀、ナマズ、ヒラメの12語の動物系将棋用語をご紹介しました。まだあるかもしれません。もし他の用語を知っていましたら教えていただきますと幸いです。

2015/11/12追記:
かつて実施されていた棋戦「若獅子戦」、人気将棋漫画「3月のライオン」、ひねり飛車の戦型の一つ「猫式縦歩取り」、伊藤看寿が打った金底の歩「魚釣りの歩」、金無双の弱点(4筋)「うさぎの耳」もありました。

コメント欄を参照ください。教えていただいた方、ありがとうございます。

以上、ありがとうございました。

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コメント

  1. やったか? より:

    大変面白い記事、ありがとうございます。
    私は、「雀刺し」って香車と飛車とがまっすぐに敵陣を貫いているイメージ(焼鳥の串のような)だったんですが、違ったんですね。とても勉強になりました。

    動物の入った将棋用語、他にもいろいろありそうですが、意外と思い付きませんね。「3月のライオン」とかはどうでしょうか。関連して、「若獅子戦」(かつての棋戦)もいかがでしょうか。「獅子」はライオンと想像上の生き物と両方の意味があるようですが・・・。

    用語ではありませんが、藤井九段の「鰻屋」関連の言葉が、私には印象的です。

    これからも楽しい記事を読ませて頂ければと思います。

  2. kewpiehoney より:

    いつもお世話になりマンモス。

    桂馬ですが、香辛料を表しているという説もあるそうです。
    桂がシナモンなんだとか。

    動物といえば、オセロの定石を思い出します。ねずみ定石、うし定石…。
    あと、囲碁では 馬の顔、猫の顔 なんてのもありますね。

  3. 銀のハンマー より:

    穴熊囲いのことを昔は「獅子の洞入り」とも呼んだそうです。そのことを紹介した将棋雑誌の記事には過去の観戦記で使用されている例が引用されていました。
    獅子も架空の動物と言えますが、現実のライオンを元に考えられたもので、現在は現実のライオンのことも指すので、この記事の区分なら哺乳類となると思います。

  4. 駒柱 より:

    猫式縦歩取り
    うさぎの耳
    魚釣りの歩

    他にもありそうです。

  5. 管理人 管理人 より:

    やったか?様:
    コメントありがとうございます。
    ええ、そうですよね。1筋の駒たちが敵陣を刺している形に見えるのが自然だと思うんですが、実は角のことを言っていたとは意外。
    若獅子戦は考えました。ご指摘の通り架空の生物かと思って除きましたが、銀のハンマー様も書いてあるとおり、確かに現実の生物かもしれません。
    3月のライオン、なるほどありますね。現在将棋マンガで最もメジャーなので入れるべきだったかも。
    「鰻」は藤井先生のみならず、棋士の食事の定跡なので入れるべきだったかも(ちょっと違うかもしれないですが)。

    kewpiehoney様:
    コメントありがとうございます。
    あ、桂馬はシナモンでしたっけ。そうだったかもしれません。諸説あるらしいですけどこっちのほうが有力かも。
    オセロや囲碁の情報ありがとうございます。ボードゲームはいろいろありますね。チェスは地名が多いようですが(パリ・オープニングとか)

    銀のハンマー様:
    コメントありがとうございます。
    「獅子の洞入り」ですか。こっちほうがかっこいいですね。穴熊というと、ある世代以上にはネガティブなイメージがあるらしいのですが、獅子だとそんなことないかもしれません。へー!観戦記で使われているならかなり浸透していたんですね。
    そういえば、中将棋、大将棋などの将棋類では獅子っていう駒もありますね。それと関係あるのかなと思ってみたり。

    駒柱様:
    コメントありがとうございます。
    猫式縦歩取り、魚釣りの歩は知りませんでした。なるほど、うさぎの耳は聞いたことがありました。将棋ウォーズの金無双はそういうことだったのかと思いました。記事中の事典に書いてあるものは網羅したつもりでしたがまだまだありそうですね。

    皆様コメントありがとうございます。一部記事に追記させていただきます。

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