2015年3月28日に開催された将棋電王戦FINAL第3局は、後手番のコンピュータソフト・やねうら王が、先手番のプロ棋士・稲葉陽七段に勝利したのですが、その勝因の一つとして「電王手さん」の動きがあったようです。
この記事では、「電王手さん」が動く時間がやねうら王の指し手に影響を与え、それが結果的にやねうら王の勝因となったことを記します。
なお、本局の流れは以下の記事、棋譜は日本将棋連盟モバイル、または将棋電王戦FINAL公式サイトでご確認ください。
将棋電王戦FINAL第3局、やねうら王が入玉を目指した稲葉陽七段を下す
確率が低いが一番嫌な形になった
対局後のインタビューで、稲葉陽七段は本局の戦型「横歩取り3三桂戦法」について「予想していた」と発言。
しかし、「本譜の指し方は確率は低いが一番嫌な形になった」とも発言していました。
なぜ「確率が低い」形になったのか。この理由が、対局後の記者会見でやねうら王の開発者「やねうらお」こと磯崎元洋さんから明かされます。
電王手さんのおかげで事前研究を外すことができた
その理由とは「電王手さん」。
磯崎さんは、「飛車を閉じ込められる変化を稲葉七段に事前研究されていた」ことをあげ「負けると思っていた」と発言したうえで、「言っていいのかわかんないですけど」としながらも勝因を説明。
それによると「30手目でやねうら王が△4三銀を指したが、その1秒前までは△7二玉を読んでいた。なぜ△4三銀を指したかというと、電王手さんが(指し手を盤上に再現するために)動くのが30秒ぐらいかかるんですかね、指し手入力も3、4秒かかるので、都合35秒か40秒ぐらいかかる。稲葉先生はその40秒を加えて練習対局してなかったのではないか。電王手さんがあと1秒早く動いていたら、△7二玉を指していた。そこが勝負のアヤだった」とのこと。
対局時間の設定によって指し手が変わる
コンピュータソフトは一般に、その対局時間(持ち時間)の設定を変更すると指し手も変わります。時間が長ければ長いほど良い手を指す確率は高くなりますが、持ち時間が固定された場合はその手を事前に研究されてしまいます。
そこで磯崎さんは、最善手を指せなくても、あえて(対局ルールの5時間よりも)大幅に短い時間で読むことで、事前研究を外すことを考えていました。
しかし対局前日に磯崎さんがツイッターでこの手法を実施すると表明したところ、日本将棋連盟やドワンゴからやめてほしいとクレームが入りこれを断念。
磯崎さんはこれについて「研究を外すために対局時間の設定にランダム性を入れるべきだった」とツイートしていました。
これら一連の流れは以下の記事をご覧ください。
やねうら王開発者、電王戦FINAL第3局当日の実況と対局時間設定の変更を断念
電王手さんによって指し手が変わった
したがって磯崎さんの説明によれば、図らずも、「電王手さん」によって持ち時間が微妙に変わり、事前の研究を外すことができた、ということになります。
磯崎さんはこれを「電王手さんのおかげなのかな、と。ちょっと思ったりもします」とも述べていました。
稲葉七段がいう「確率は低いが一番嫌な形」と、磯崎さんがいう「勝負のアヤの結果」が同じことを表すのかはわかりません(たぶん同じだと思うが・・・)が、2人がともに確率が低いと見ていた局面になったことは間違いなさそうです。
磯崎さんは対局後に以下のようにツイート。重ねて「電王手さん」のおかげだったと述べています。
無事対局終わりました。クマのぬいぐるみの出番はありませんでした。残念です。
将棋自体は望外の結果で、まだ実感はわきません。
応援してくださっていた皆様、本当にありがとうございます。
局後の会見で言ったように電王手さんの動作時間に助けらたのだと思います。デンソーさん、大好き!
— やねうら王 (@yaneuraou) 2015, 3月 28
門を開いて飛車を閉じ込める作戦は未遂
上記のようなことがあったためと思われますが、稲葉七段は前述の「飛車を閉じ込める変化」は決行しませんでした。
稲葉七段は、本譜の局面について事前の練習対局で1回だけ出てきたとし、「飛車(竜)を取るまでに暴れられて危ない変化になる。あの形になると(33手目6八銀に代えて)▲9七角と(門を開けることは)できないかなと考えていた」と述べました。
悔やむ稲葉陽七段
稲葉七段は対局後の会見で「今回の電王戦FINALに出場したソフトのなかでは、対策を立てやすいソフトだった。確率の高い変化を、自分が優勢になるような変化をたくさん用意していた」「嫌な形に誘導されてしまった」とも発言。事前の練習対局では5割弱勝っていたことも(やねうら王の持ち時間を本番と同じ5時間、自分の持ち時間はほとんど使わない条件でも)明かしました。
これを聞くと「電王手さんのせいで負けた」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、一方で、「(有利な変化によって)楽に勝ちたいという心の隙が、自分の弱さが出た」「相手の読みが上回っていた。力負け」とも話していましたので、全部が全部「電王手さんが敗因」というわけではなさそうです。
電王戦らしさ
電王手さんがソフトの指し手に偶然にも影響を与え、これが勝負に直結した。これはこれで、第1局、第2局に続き、電王戦らしい勝負だったとも言えます。
将棋電王戦FINAL第1局は斎藤慎太郎五段がAperyに勝利
電王戦FINAL第2局、永瀬拓矢六段が鬼手△2七同角不成でSeleneのバグをつき停止させ勝利
4月4日に行われる第4局にも期待せずにはいられません。
以上、ありがとうございました。
コメント
電王手さんのおかげで事前研究を外すことができた
その理由とは「電王戦さん」。
「電王手さん」ではないでしょうか
コメントありがとうございます!
ご指摘の通り、お恥ずかしながら「電王手さん」を「電王戦さん」と書いた箇所がありました。
しかも肝心なところで・・・。
ご指摘いただきましてありがとうございます。
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