2015年4月4日に開催された将棋電王戦FINAL第4局は、先手のコンピュータソフト・ponanzaが後手のプロ棋士・村山慈明七段に勝利。
これでこのシリーズの通算成績は、プロ棋士2勝、ソフト2勝となりました。
なおこの対局の棋譜は日本将棋連盟モバイル、または将棋電王戦FINAL公式サイトでご確認ください。
初手▲7八金から横歩取りに
先手ponanzaの注目の初手は▲7八金。
プロ棋士ではまったく指されないと言ってもいい手ですが、ponanzaらしい、予想された手の1つでした。この手は後手に振り飛車を採用されたときに、先手が玉を囲いにくい形となる手なのですが、ponanzaは振り飛車自体を「不利」と見ているためこの手を躊躇なく選択します。
人間同士の対局では「君は振り飛車ができるのかな?振り飛車にして来いよ」と挑発している意味もあります。
本局では後手の村山七段は振り飛車を選択せず、数手進んだ局面ではプロ棋士同士の対局でもよくある「横歩取り」の局面に。
よくある展開になった・・・かと思いきや、今度は16手目に後手・村山七段が△8八角成を見せました。
よくあるのは△3三角と相手の飛車の頭に角を持ってきてを穏やかに攻撃を防ぐ手。一般的に、コンピュータソフトはじっくりとした中盤が強く、プロ棋士側の対策としてはその「中盤を飛ばす」ことがあげられますが、この△8八角成はまさに「中盤を飛ばす」ことを意図したものと思われます。
ponanzaらしく
再びponanzaらしい手が出たのは、19手目からの▲7七歩△7四飛▲3六飛という手順。ニコファーレで解説をしていた森下卓九段は▲7七歩について「ないではないが、あまりにも筋が悪いので(指されなくなった)」、佐藤康光九段も「最近はないですよね」と述べていました。
▲7七歩(打)は、歩を1つ手放す上、その近くにある自分の金銀や桂馬が使いづらくなる手。ただ、自陣の陣形を低くして飛車打ちに強くした意味はあります。
そして▲3六飛は、森下卓九段が「びっくりした。(プロ棋士では)ありえない」と言った手。▲7七歩は1歩手放しても低い陣形に構える意味があったのですが、▲3六飛は飛車交換を拒否する手。せっかく貴重な歩を使って飛車打ちに強い低い陣形にしたのに、その飛車交換も拒否するという・・・。
ただ、この手によって「中盤を飛ばす」というコンピュータ対策は使えず、力戦の中盤戦に突入していきました。
将棋の常識を覆す構想
後手の村山七段は着々と金銀を布陣。
解説の森下卓九段は「これでponanza側が悪くないとしたら、子供の頃からの、将棋はこういう風に考えるんだということが覆る」とも話していました。
一方のponanzaは29手目▲8三角から33手目▲5六角成と馬をつくったものの、上記のとおり金銀桂が使いにくい形で、布陣が遅れているかに見えました。
ただ、現地解説の千田翔太五段はこの時からすでに先手ponanzaのほうが有利との見解でした。千田五段はコンピュータ将棋に大変詳しいことで知られます。
いつの間にか後手が仕掛けざるを得ない展開に
手が進むうちに、不思議と、じわじわと、働いていなかったponanzaの布陣が間に合ってくる形に。一方で村山七段は先に布陣できていたものの、指す手が難しくなっていきました。森下九段も次第に先手持ちに・・・。
先手は馬の存在感が大きく、後手はジリ貧になる前に仕掛けざるを得ない局面に。村山七段は盤面の右辺から遠く玉を狙った58手目△1四角を放ち勝負に出ましたが、コンピュータの評価値、棋士の検討、いずれも先手有利に大きく傾いていきました。
差が開いていく中終盤
村山七段にとっては苦しい中盤、そして終盤に突入。
村山七段も勝負手を連発しましたが、形勢も、残り持ち時間も苦しくなり、やがて一方的な展開に。ponanzaは追いすがる村山七段を寄せ付けず、どんどん形勢の差を広げていきました。
先手の97手目を見て後手は投了。先手の残り時間は1時間3分、後手は4分でした。
完勝
ponanzaの「将棋の常識を覆す構想」が良かったのか、その後の展開が良かったのか・・・。村山七段には悪手と言えるような手はなかったと思いますが、いつのまにか「仕掛けざるを得ない」展開になってしまい、しかしponanzaはそれを寄せ付けず・・・。
さすがは、最強の呼び声高いコンピュータソフト。ponanzaにとっては完勝とも言える展開だったと思います。
村山七段にとっては敗着といえるような手もなかったように思うのですが、ニコファーレの解説では佐藤康光九段が、先手に馬を作られる原因となった後手の28手目△8四歩で形勢を損ねた可能性があると指摘していました。
重大な問題提起
終局後、佐藤康光九段は、森下九段が「将棋の常識が覆る」と言った▲7七歩△7四飛▲3六飛の手順について「かなり重大な問題提起。これはおそらくプロの棋士でも考えた人がいないのでは。定跡に問題提起した」とも話していました。
この対局には他にもいろいろ見どころがありましたので、後程記事にしたいと思います。
敗戦の村山慈明七段「▲3六飛は研究していなかった」「内容は完敗」
2対2で迎えるFINALのFINAL
前述のとおり、これでプロ棋士VSコンピュータソフトの団体戦の対戦成績は2対2に。プロ棋士の2連勝の後、ソフトが2連勝して盛り返した格好になりました。特に、第3局、第4局はコンピュータソフトの強さを見せつけられました。
将棋電王戦FINAL第5局、団体戦の勝敗がかかる文字通りの最終決戦は、プロ棋士・阿久津主税八段VSコンピュータソフト「電王」AWAKEによって4月11日に開催されます。
以上、ありがとうございました。
コメント
まさに感覚を破壊される将棋ですね
相横歩取りに誘導したからには飛車角総交換の展開にしたかったのでしょうが
村山七段にとっては一番嫌なところでPonanzaのランダム性が機能しましたね
一番激しい展開なら村山七段はどういう構想を描いていたのか気になるところです
コメントありがとうございます!
そうですね、私もせっかく村山七段が研究したという展開も見てみたかったです。
それをさせてもらえず、会見の時の表情はなんともつらいものがありました。
しかし第3局のやねうら王もそうですが、研究が当たる外れるで勝負が決するという・・・。
また番勝負だと違うのでしょうが、一発勝負ですからね。
コメントありがとうございました。
村山先生は残念でしたね。棋士が負けるとテンションが下がる私は、心の底ではソフトよりも人間側を応援しているのかもしれません。
「▲7七歩△7四飛▲3六飛」という手順が画期的だと評判になったようですが、自宅での練習対局ではほかにもいろいろな曲面で画期的な手順が出ているんでしょうね。それをいかに人間が咀嚼して「新手」にするか、ということなんでしょうか(言っててちょっと哀しいですが)。
ポナンザさんが、「▲7四飛と飛車交換すると非勢になるから」消極的に▲3六飛としたのか、それとも「▲3六飛で有利になる手順あり」と見て積極的に選んだのか、是非ポナンザさんに聞いてみたいなと思いました。
コメントありがとうございます。
そうですね、人間と違って、手順の一貫性とか、意味とかはあまり考慮されずに、選んだ手の先にある評価値と少しのランダム性によって
決定されているという(たぶん)ことだと思いますので、ponazaに「聞いてみる」というのは難しいのかもしれません。
ところで、人間を応援する、というのは自然な感情ではないでしょうか。
もっとも、それはコンピュータの強さを認めている上でのことだという人も、多いと思います。
コンピュータが指した手がプロ棋士の公式戦に現れることはすでにありますが、それが哀しむべきことかは
まだわかりません。
低級の私などはそんな新手が出ようが出まいが、自分の将棋にはあまり関係ないです。それに、私は
プロ棋士の方々が将棋を指すということの意味について、棋譜以外のことも大変価値があると思っています。
むしろ棋譜以外の価値をもっと向上させることが、将棋ファンを増やすことのように思っています。すみません、私の考えですが。
いつもコメントありがとうございます!
私のしょーもないコメントに対してもまじめに対応してくださりありがとうございます。将棋の普及を熱心に考える管理人様、かっこいいです。
ポナンザさんに聞いたら、話せるようになった「電王手さま」を介して、「あっ、えー、えー、ずっと難しいと思って指してましたー」とか語ってくれる展開を希望します。
再コメントありがとうございます。
ponanzaさんに羽生名人の言葉まで機械学習させるとそうなるのですが、それは現在のBonanzaメソッドの延長では難しく、新たなメソッドが必要になります。
そう考えると、ちょうどいいところにイケてるアイテム(Voice Rex)を持っている人たちがいるではありませんか。
そういうことだったんですね。ありがとうございます。