2015年3月28日に開催された将棋電王戦FINAL第3局(▲プロ棋士・稲葉陽七段VS△コンピュータソフト・やねうら王)は、116手で後手のやねうら王が勝利。
この結果、本シリーズにおけるプロ棋士VSコンピュータソフトの対戦成績はプロ棋士から見て2勝1敗となりました。
棋譜は日本将棋連盟モバイル、または将棋電王戦FINAL公式サイトでご確認ください。
横歩取りになるも、開門せず
戦型は事前に予想されたものの一つである横歩取りに。
この戦型では、稲葉陽七段は、自陣の「門を開けて」飛車を呼び込み捉える手順を事前研究で発見していました。
しかし、この手順を狙える局面まで進行したものの、33手目の▲6八銀によって稲葉七段は自らこれを放棄(後の船江恒平五段によれば、やりにくい形だったとのことだが、できないこともなかったようだ)。
「プライドを捨てる必要はない」というPVの言葉通り、この「開門作戦」を用いず、力勝負を挑む形となりました。
時間を残す稲葉七段
事前の研究の成果なのか、稲葉七段は序盤にほどんど時間を使わず、やねうら王が一方的に時間を使う展開になりました。
後手の16手目△3三桂(いわゆる横歩取り3三桂型)も、近年では珍しい手ではありますが、稲葉七段は研究済みで、この手に対してもノータイムで応じていました。
急に激しい展開に
昼食休憩のあと、後手のやねうら王は飛車を8筋から2筋に転回。
一方、稲葉七段はこれをいったん▲2八歩(41手目)と下で受けた後、なんと▲3六歩(43手目)、▲3七桂(45手目)、▲7二歩(47手目)と、後手の攻めを呼びこむ形に。
この場面で、ニコ生の中継画面で表示されていたコンピュータソフト・YSS(昨年バージョン)の評価値は、後手のやねうら王側が3、400点ほどとなりました。直前までは先手が100点前後のプラスだったので、攻めを呼びこんだことでYSSの評価は逆転したことになります。
もう一つの門、開門
前述した事前研究で発見していた「門」は8筋の門だったのですが、2筋から攻めを呼びこんだ結果、2筋の門を開くことに。
これで後手は△2九飛成と竜を作り、YSSの評価値は400点を超える後手有利になりました。一方、第4局で登場するponanzaは、それほどの有利とは認識していなかったようです。
現状のponanzaの評価値です。
わずかにやねうら王持ちみたいですね。 pic.twitter.com/svioeppyTr
— 山本 一成@Ponanza (@issei_y) 2015, 3月 28
先手、攻めに転じるも・・・
竜を呼び込んだところで、稲葉七段は攻めに転じました。
しかしこの後数手で、YSSの評価値は一気にやねうら王側の1000点付近に。ponanzaも後手の有利が拡大したと見ていました。
今はこんな感じです。後手コンピュータのやねうら王が500点くらい良いとPonanzaは考えているみたいですね pic.twitter.com/ESd59ShGA3
— 山本 一成@Ponanza (@issei_y) 2015, 3月 28
先手がリードしていた残りの持ち時間もこの辺りで逆転しました。
先手、入玉を目指す
先手に誤算があったのか、後手のリードはだんだん大きくなり、ついにYSSの評価値も後手3000点ほどと勝勢に。先手玉は中段に逃れ入玉を目指す流れになりました。
今の評価値
256手まであと171手 pic.twitter.com/B922ETHTJj
— 山本 一成@Ponanza (@issei_y) 2015, 3月 28
残り持ち時間も後手が大きくリードすることとなりました。
ミッション2:入玉
普通に勝つことを断念せざるを得ない先手は、馬を作って中段の玉に引きつけ入玉しやすい状況に。ニコ生解説の深浦康市九段は、稲葉七段が入玉を目指すことを「ミッション2」と表現しました。
一般にコンピュータソフトは入玉が苦手とされており(コンピュータソフトはプロ棋士の棋譜を見て学習するが、入玉は棋譜の数が少なく学習が足りない)、稲葉七段はこれに勝機を見出しました。
90手目、やねうら王が△7六飛と王手金取りに打ったところで、開発者「やねうらお」こと磯崎元洋さんの表情が明らかに曇りました。この手は駒得となる一方、入玉を許すような手でもあり、磯崎さんは「入玉されたらまずいな」と動揺しているように見て取れました。
第1局に登場したコンピュータソフト・Aperyの開発者である平岡拓也さんも以下のようにツイート。
これは稲葉七段勝つと思う。
— 平岡 拓也 (@HiraokaTakuya) 2015, 3月 28
一縷の望みが出てきました。
入玉せず
ただ、稲葉七段は一直線に入玉を目指さず、97手目▲5四歩、101手目▲4五桂など時折攻め、玉は中段で停滞させました。
後に稲葉は七段「駒があまりにも足りなかった」ために入玉を躊躇したと述べています。「入玉すればどうにでもなる」と考えていた検討陣とは異なる考えをしていたことになります。
しかし、この入玉を目指さなかったことが裏目に出て、稲葉玉は中段で寄せられる格好に・・・。
ソフトが初勝利
後手の116手目で△4六竜とされ、必死をかけられた稲葉七段は、この手を見て投了。
今シリーズ初めてのソフト側の勝利となり、通算成績はプロ棋士から見て2勝1敗となりました。
この対局は、他にもいろいろと見どころがありましたので、詳細は追ってお伝えしたいと思います。
注目の第4局は、2015年4月4日、△プロ棋士・村山慈明七段VS▲コンピュータソフト・ponanzaによって行われます。
ありがとうございました。