2015年9月1日、第3回将棋電王トーナメントの開催概要が発表され、エントリーの受付が開始されました。
2015年9月30日までの受付となっています。大会の日程は11月21日から23日の3日間。
注目は、同時に発表されたこのトーナメントのルールです。ルールの一部は、第1期電王戦にも関わるためです(このトーナメントの優勝ソフトは、来春、プロ棋士と対局する第1期電王戦に出場)。
電王戦のルールは、前回(電王戦FINAL)でも注目されました。例えばプロ棋士へのソフトの事前貸出、事前研究ありのルールは、大きな話題となりました。
将棋電王戦FINAL「ソフト事前貸し出しルール」反対派はソフト開発者5人中1人
この記事では、前回第2回電王トーナメントのルールと、今回のルールを比較してみたいと思います。
比較対象の文書
今回発表された「第3回将棋電王トーナメント」のルールは以下のPDF文書です。
第3回 将棋電王トーナメント ルール(PDF)
以下が前回(第2回)のルール。比べてみると、いくつか変更された点があります。
第2回 将棋電王トーナメント ルール(PDF)
追記:
第1期電王戦の対局ルールも発表されています。(これについては別途記事にするかもしれません)
第1期 電王戦 対局ルール(PDF)
優勝賞金は300万円に引き上げ
最初に「電王トーナメント」の部分を比較します。
まずは「賞金」。(第25条)
1位から5位の賞金額は
1 位 300 万円 2 位 100 万円 3 位 70 万円 4 位 50 万円 5 位 30 万円
ということです。優勝したら300万円です。第2回では優勝賞金は250万円でしたので、50万円引き上げられています。
また、優勝者は第1期電王戦への出場が義務付けられ、別途番組出演料として20万円支払われるとのこと。実質320万円。
第2回と比較すると、優勝以外の賞金額は変更されていません。
準決勝以降は3番勝負に
電王トーナメントは、完全スイス式による予選と決勝トーナメントが行われるのですが、第3回では決勝トーナメントのうち準決勝、決勝、3位決定戦は3番勝負となっています。(第16条)
3番勝負は、3組のPCを用いて同時に実施するそうです。これは人間では無理なので、コンピュータ将棋らしい趣向です。
第2回までは1回勝負でした。
審判は立会人に
第2回では「審判」と呼ばれていた存在が、第3回では「立会人」となっています。
立会人は参加者からの投了の受付、ルール違反の判定などを行います。
呼び方だけが変わって、役割はあまり変わっていないように見えます。
なぜ呼び方が変わったのかはわかりません。立会人というからには、プロ棋士が務めるのでしょうか。
勝敗判定
勝敗判定の一部も変更されています。(第22条)
といってもとても細かい変更点で、ソフトが不意に終了してしまった場合、第2回ではそれがOSや通信の原因によるものであったとしても、判定負けとされていたところ、第3回では主催者が原因だった場合はその限りではないとされています。
棋譜
大会の棋譜の扱いについても、いろいろ変更が行われています。最も大きな変更点は、以下ですかね(よくわかりません)。
本大会参加者は、自身の参加ソフトの対局の棋譜に関しては、自由に使用公開できるものとする
(第24条)
マシンのスペック
ソフトを動作させるマシンを、主催者が用意する点は前回と変わりません。同一スペックのマシンによる勝負となるのが、世界コンピュータ選手権とは異なる点。
優勝した場合の電王戦も、主催者が用意したマシンで戦うことになります。
ただし、現時点ではそのスペック等は確定していないようです。(第7条)
電王戦向けの修正は一部を除き不可
ここからは、第1期電王戦に関わるルール。(第26条)
第2回でもそうでしたが、第3回においても、この大会から電王戦までの間にソフトを修正することは一部を除きできないことになっています。対戦相手となる棋士へ事前に貸し出されるため。
第 1 期電王戦へは、本大会で出場したソフトで参加する事とする。
一部とは、持将棋対応、安定性の向上など。ただし、第3回電王トーナメント決勝の1か月後である12月23日までに修正を完了し、主催者に提出する必要があります。
封じ手対応
また、12月23日までに以下の修正も認められています。
2 日制(封じ手)に対応するために、一時的に思考を停止できるようにするための修正
封じ手!!
第1期電王戦は2日制の2番勝負。やはり、2日制ということで、封じ手があるようです。
コンピュータが封じ手をするのは前代未聞。これは楽しみです。
訂正:
第1期電王戦対局ルールによると
封じ手は初日の 18 時以降の、棋士側の最初の着手を封じ手とする。
とのことで、コンピュータによる封じ手はないようです。訂正し、お詫びいたします。
電王戦本番での設定の報告
個人的に気になったのは、このルールが追加されていたこと。
ソフト提出時には、電王戦本番当日のソフトの詳細設定を主催者に報告しなくてはならない。
報告された設定内容に関しては、ソフト貸出時に電王戦出場棋士に共有するものとする。
これは、電王戦FINALでソフト「やねうら王」開発者の磯崎元洋さん(通称:やねうらお)がやろうとして断念したことを、事前にルール化したものだと思われます。
電王戦FINALで磯崎さんは、棋士による事前研究を外すために、ソフトに設定する持ち時間を与えられた持ち時間より大幅に減らすことを画策していました。
やねうら王開発者、電王戦FINAL第3局当日の実況と対局時間設定の変更を断念
これは、対戦相手である稲葉陽七段が、事前に貸し出されたやねうら王で本番と同じ「5時間、秒読み60秒」の持ち時間で練習対局(研究)していることを想定し、やねうら王をそれ以外の時間で稼働させることで練習対局とは異なる手を指させるという戦略。
当然、ソフトは持ち時間が長い方が多くの手を読むことになるので、いい手が指せる可能性が上がるのですが、その手を事前に研究されていては敵わないとみたのだと思います。
ですので、あえて持ち時間を減らして、ベストの手を指さなくても、研究を外すことを考えたのだと思います。
棋士による研究をなるべく困難にしたいと思ったら、指し手か思考時間にあらかじめランダム性を入れることになると思います。指し手にランダム性を入れると棋力が低下するおそれがあるので、思考時間にランダム性を入れることが想定されます(それでも低下するとは思いますが)。
電王戦FINALでは、やねうらおさんの他、Aperyの開発者である平岡拓也さんも「思考時間に乱数を入れるべきだった」と後に述べていました。(上記リンク先の記事参照)
まとめ
大きな変更点は、1.優勝賞金が上がった、2.準決勝以降が3番勝負に、そして(優勝した場合は)3.電王戦での設定を事前に決めて報告しなければならない、ということでしょうか。
ソフト開発者にとっては、1は嬉しい、2はどちらともいえない、3はやや負担、といったところだと思います。
最初にも書きましたが、第3回将棋電王トーナメントのエントリー受付は9月30日までとなっています。
また何か動きがありましたら、この記事に追加するか、新たに記事に致します。
コメント
賞金の具体的金額を、条文に入れるのは、これを契約書として
見ると珍しいですね。今回限りの規定になる事が、多い項目
だからです。別表を作り。「それによる。」とするケースが、
世の中全般では多いのでは。期ごとに、新規文書を作成せず。
補正差分の積み上げ程度で良いようにする、法務的文書管理上、
よりスマートな定番的やり方の欠けかと。将棋連盟。この観点
を強化すれば。たとえば今後。一例を挙げれば、何がしか
の「訴訟」に於いて、法務的情報のIT化を進めやすくなり。
それを有利に展開して、利益が図れるといった、金銭的メリ
ットもあるように見えますが。上記切り口からの取り組みは、
条文の組み立て手法から見て、日本将棋連盟に於いては
未だ、比較的ネガティブな傾向があるように、私には見えま
した。
コメントありがとうございます。
いやー、契約については私はよくわかりませんが別表にするほどじゃなかったとか。
それか契約書じゃないんではないかと思います。抜粋文だとか。
また、この文書は連盟ではなく主催者であるドワンゴさんが発表したものですね。
コメントありがとうございます。
この規約は、マスコミを通じて公開されることを前提にしてますからね。別表なんて作ったら不自然ですよ。
私流の組み立てで。別表も公開は当然。
最初にみんなが見たいの。賞金に関する別表になるんじゃないかと思いますね。
契約規定→例:叡王が。某昔の女流棋士のように、雲隠れした場合の責任の所在は、
将棋連盟にあるものとする。(この規定は、叡王戦が棋士のエントリー
制としたため、必須。)天変地異等でやむ追えない場合。代替え棋士で
okとするか、日程を再調整するか等については、主催者・将棋連盟・
電王戦優勝のソフトの開発者の3者間で話し合い、合意のもとで決定
するものとする。
大会規定→例:秒読み時計を越えて着手しなかったケースは、その側を負けとする。
賞金規定→例:電王戦の優勝ソフトの制作者でかつ、エントリーした者に対しては
金300万円を支払う。
は、それぞれ別途に情報管理しないと。人間が妥当性を後で議論する際、効率を
落とす原因になると見るのが、一般的だと思います。情報管理としては、これらは
それぞれ、別ホルダー分けして、具体的内容をストックするのが最近は普通でしょ
うね。
なお。冒頭でのべたように。上で大会規定と賞金規定は。少なくとも秘密情報とは
すべきでないと私も思います。
情報が階層分けされておらず、ぐちゃぐちゃにいっしょくたんに見える点を、
ここでは、軽い気持ちで指摘したまでです。(あんまり、深い読みは有りません。)
二日制だと、「大局観」に優れた人間にやや有利かなと思ってたんですが、
・棋士にとって、対コンピュータの予行練習に膨大な時間がかかる
・CPUにとって、AWAKEの「2八角打ち」みたいなポカが起こりにくくなる
・CPUにとって、序盤に乱数を強く仕込みやすくなり有利(中盤に以降に逆転すればよい)
といった感じで、じつはCPUに有利なのでは?と思ってます。
開発者側の意見が聞きたいですね。
長さん様:
コメントありがとうございます。まあそれぞれ企業でやり方があるでしょうから、どっちでもいいと思いました。
最初にも書きましたが契約書じゃないですしこれにどういう拘束力があるかわかんないですし、発効日や文書No.さえないので。あまり気にしないでいのではないかと思います。
hoge様:
コメントありがとうございます。
これはどうなるのか難しいですね。一例として森下卓九段のリベンジマッチがありましたが、あれは持ち時間が特殊ですが単純に言うと長くなったら人間が力を発揮できるようになったように思います。
予行演習に膨大な時間がかかるのは、新しい視点ですね。たしかにそうですね。
前回に比べて持ち時間は、長くなったとはいえ「たった2倍」ともとれます。特にコンピュータにとっては「2倍」はあまりインパクトないのかなと。コンピュータ場合は文字通り「桁違い」のスペックのアップや読む局面数の増加を実現してきたなかですので。開発者の意見聞きたいのは同意です。
皆様コメントありがとうございます。