2015年3月から4月にかけて行われ、プロ棋士の3勝、コンピュータソフトの2勝で終わった将棋電王戦FINAL。
野月浩貴七段による第5局の観戦記や、将棋連盟の同棋戦担当の理事である片上大輔六段のブログ(その1、その2)、日本将棋連盟モバイルの編集長である遠山雄亮五段の総括なども出揃いまして、そろそろ「祭りのあと」も終了ムード。
それで、「今後」の話になると思うのですが、将棋電王戦のこれからを考えるうえで欠かせないと思われるのが、コンピュータ将棋の先輩ともいえるコンピュータチェスのこと。
伝説のチェスチャンピオンだったガルリ・カスパロフさんがディープ・ブルーに敗れたのが1997年であり、そこから人類対コンピュータチェスはどのような戦いがあったのか。
少しだけですがご紹介したいと思います。
コンピュータチェスの歴史
実は、今回の電王戦の裏のMVPともいえる西尾明六段(棋士側の参謀的役割として尽力された)が、第5局の数日後に以下の様なツイートを・・・。
チェスにおける人間vsコンピュータの歴史。とても興味深いです。/Human–computer chess matches – Wikipedia, the free encyclopedia http://t.co/stzqpqJi3Z
— 西尾明 (@nishio1979) 2015, 4月 14
2005、2006年辺りで興行としての限界を言われていたようですね。2007、2008ではポーン落ち+先手番のハンデ戦、2009には秒間2万手以下のスマホがかつて秒間2億手を読んだDeep Blueを実力で越えてしまっていると。
— 西尾明 (@nishio1979) 2015, 4月 14
事前準備をあまり行わずに批判されたプレーヤーがいたりと電王戦との共通点を探して読んでみても面白いです。
— 西尾明 (@nishio1979) 2015, 4月 14
しかし、西尾六段が「面白いです」と言ったページは英語版のWikipediaであり、私には難解なので(申し訳ございません)、ちょっと情報量が落ちるかもしれませんが日本語版のWikipediaでコンピュータチェスの歴史を見てみます。
人間のチャンピオンに勝利
まず、
1996年にIBMのコンピュータであるディープ・ブルーがガルリ・カスパロフと対戦し、1つのゲームとしては、初めて世界チャンピオンに勝利
ただし、この時点では6戦中の1勝のみの話。しかし
翌1997年に、ディープ・ブルーは、2勝1敗3引き分けとカスパロフ相手に雪辱
ということで、この辺りでコンピュータが人類を超えたかに思えます。
対局ルール
ただ、
これらの対戦では、試合中にプログラマーが自由にプログラムや次の一手に介入できるルール
IBMチームにはグランドマスターも加わっていた
カスパロフ側もトレーニングや解析にデータベースソフトを利用
ということで、ルールについてこの頃から議論があったようです(英語版も少し参考にしました)。
以前の記事でも書きましたが、
コンピュータチェスVS人間の対局ルールとして
「序盤で、コンピュータが定跡手順を指しているうちは、人間側はモニター画面でその手順を知ることができる。定跡から離れるとモニターは隠される」とか「事前貸し出しの研究では、人間の研究チームに技術者(プログラマ)も加わる」とかがある
というのもあるようです。
アンチコンピュータ戦略
年々コンピュータが強くなり、低スペックなマシンやスマートフォンに搭載されたソフトでも人間に勝つようになる一方、人間のアンチコンピュータ戦略も試みられます。
2008年3月15日に行われたヒカル・ナカムラ(世界ランク46位、レーティング2670)とRybkaの対局では、ナカムラが一切の攻撃の意思を見せずひたすら手待ちを続けることで、Rybkaに「自らが優勢である」と錯覚させて無理な動きを誘発させ、途中で一気の反撃に転じて勝利
この対局、将棋でいうところで「542手」かかった熱戦(?)だったよう。チェスの平均手数は将棋より短いので、これが如何に異常な数字かわかります。
英語版では、西尾六段のツイートのように、事前準備をしなかったプレイヤーが批判されたり、人間とコンピュータの戦いは終わりだという人がいたりと電王戦との共通点が見られます。これも詳しくは英語版で。
ハンデ戦
その後は、いわゆる駒落ちのハンデ戦が行われたりしています。
グランドマスターのJaan Ehlvest(当時のレーティング2610)が「Rybka」と対戦。Rybka側は常にポーンを1つ落とす(8ゲーム行い、1ゲームごとに落とすポーンを変えていく)というハンデキャップマッチ
また、「データベースにアクセスすることを制限」したりしています。
序盤定跡とエンドゲームのデータベースにアクセスできない、というハンデが課された
コンピュータ将棋でも、序盤は定跡を使って進行し、どこかの段階で「定跡を切る」のですが、この戦いではコンピュータは最初から定跡が使えないということですね。あとチェスはエンドゲームと呼ばれる終盤にも定跡が存在する(将棋と違って、駒が少なくなるのでパターン化、定跡化されている)らしいのですが、それも使えないと。
コンピュータVS人類の未来・・・?
さらに面白い話が載っていました。ガルリ・カスパロフさんは、「アドバンスド・チェス」という競技を提唱したそうです。これは
人間同士が対局中にコンピュータで指し手を調べながら戦う
というもの。どこかで聞いたことがあるような・・・。
ええ、電王戦タッグマッチにかなり近いと思われます。
アリマア
そして、さらには・・・
チェスとほぼ同じ駒を使ってできるアリマアという新しいボードゲームが考案された。これは、1手あたりの可能な着手数がチェスに比べて遙かに多い
これは!!
コンピュータが、徹底的な探索と評価関数・評価値によって指し手を決めていくのに対し、人間は大局観、あるいは抽象的な価値観のようなもので指し手を決めていくので(特に序中盤)、可能な着手数が遥かに多く読む数が膨大となるゲームはコンピュータは不利、ということだと思います。
(囲碁のコンピュータソフトが未だに人間に太刀打ち出来ないのとも関係あるかも)
アリマアのWikipediaもありますのでご参考に。
両者の腕が試される
アリマアは、将棋で言うと、中将棋とか大将棋のようなことだと思います。
電王戦はプロ棋士の負担が大きいこともあって今回がFINALだと言いますし、しかしタッグマッチは白紙だけど後継棋戦があるといいますし、まさか来年の電王戦は中将棋でやるとか・・・?
そうなると、棋士は大局観が試されます。一方、ソフト開発者も応用力が試されます。
これはこれで、両者の違いが際立つ戦いが期待できる、といえるかもしれません。実現可能性はわかりませんが。
・・・相変わらず最後は妄想になってしまいましたが、以上となります。
最後までありがとうございました。