2015年5月3日放送のNHK杯テレビ将棋トーナメントでは、初出場の千田翔太五段が登場し、独特の準備法をインタビューで述べ、そして序盤から驚きの手を披露し、途中悪くなったものの逆転で中村亮介五段を下しました。
この記事では、NHK杯戦の模様、そしてその放送直後のニコニコ生放送(世界コンピュータ将棋選手権の会場から生中継)に千田五段本人が登場し、このNHK杯での対局についても語ってくれましたので、そのあたりも含めて書きたいと思います。以下そのタイムシフト。長いです。
なお、詳しい棋譜はNHK杯のホームページでご確認ください。
独特の準備
対局前のインタビューで、千田五段は本局への意気込みを聞かれ「3日ほど前に練習対局を8時間で行いまして、その長時間の持ち時間の感覚が短時間でも生かされると考えております」と語りました。持ち時間8時間なら先後あわせて16時間ほどかかることになります。
一方、NHK杯は1時間から1時間半で終局する早指し戦。
解説の大石直嗣六段は「いや、すごいことです。千田流というか、NHK杯は持ち時間が短いので10秒将棋などで準備して臨むのが多いと思うが、これは千田流としか言い様がない」とコメント。
直後に放送された世界コンピュータ将棋選手権中継での本人の話によれば、この8時間の対局はコンピュータソフトAperyとの対局だったとのこと。朝10時過ぎから対局し、翌日0時40分過ぎに終わったそうです(休憩時間をとらずに指したらしい)。
序盤の▲3五歩
振り駒によって先手は千田五段に。
まず驚きだったのは、序盤15手目。先手の千田五段がいきなり歩をぶつける▲3五歩を、力強く着手。
これは△同歩と取らせた後、9筋の歩を突いて1歩入手し、▲3四歩と打ち角を捕獲するという筋を見ています。解説の大石六段は「おおお!!びっくりしますね。考えてもいなかったですね」と解説。
浮足立ったかもしれない
千田五段は、上述の世界コンピュータ将棋選手権生放送で、この手についても語っています。
「floodgate(ネット上のコンピュータ将棋対局場)の棋譜をよく見ている」という話の流れから、▲3五歩について「NHK杯、放送されたんで言いますけど、あれは研究じゃないです。と言うより、そもそも研究してないので。全体的にコンピュータの将棋を見て、知っているかどうか、ですか。研究じゃなくてデータを見ているだけ」、そして「つい強気な手をやってしまう。ちょっとNHK杯も浮足立ったところあったかもしれない」と発言していました。
この発言を解釈しますと、千田五段はコンピュータ将棋でこの手(▲3五歩)を見たことがあって知っていたが、研究はしていなかった。NHK杯でこの局面になったところで、ついやってしまった、というところでしょうか。
中村五段が優勢に
中村五段は端の取り込みを許す代わりに、△4三銀と角頭を受け、端は△8二銀と銀で受けました。
その後千田五段は、中央に攻め駒を集めて突破を図ります。
上図の直前の後手の50手目△4三銀について、千田五段は「うっかりしていた」と感想戦で述べており、このあたりでは、形勢は中村五段のほうが良かったようです。
先手の攻めは無理気味に見えましたが、▲4一金と打って角取りを見せ、攻めをつなぎました。
急転直下
その後、後手の中村五段は飛車を9筋に回って竜を作り、先手が7五に角を打って追い返すという展開に。ここで竜の引き場所が・・・。
中村五段は9六に竜を引きましたが、これが9四だったら後手が優勢だったようです。
直後に先手から▲5四桂と打たれたときに、9四だと竜で取れる形だったため。
桂馬を銀で取らせることに成功した千田五段は、馬をいい位置に引きながら王手して、ここから優勢となった模様。
97手にて千田五段の勝利となりました。
自爆でした
中村五段は途中、優勢を意識していたようで、感想戦では苦笑いしながら「これ、勝ち切れないってアホ過ぎる」とか「いやーひどい将棋だったね、さすがにちょっと余していると思ったけど」とか「急転直下でした。自爆というか」とか話していました。
趣味アニメソング
前期順位戦でC級1組に昇級し、将来を期待される千田五段が逆転勝ちをおさめた一局でした。
千田五段は、対戦相手に合わせて勝つための(相手によって手を変えるような、振り飛車党に端歩を突くとか)研究はしない、とも述べるなど独特の感性の持ち主。
そんな千田五段が世界コンピュータ将棋選手権生放送で語ったコンピュータ将棋のことや、アニメソングに関するのトークの模様は、またのちほど改めて記事にしたいと思います。
千田翔太五段の趣味は「カラオケでアニソン」で「JAM Projectが一番」
とりあえず以上、ありがとうございました。