芸歴わずか4ヶ月だという「アナクロニスティック」というお笑いコンビが、初めてのテレビ出演で将棋ネタを披露しましたので、ご紹介します。
20代前半の男性二人のコンビ。所属はプロダクション人力舎です。
今のところ、彼らにとってはテレビで唯一披露したネタが将棋ネタ。
これはもう将棋芸人といって差し支え無いでしょう。
出演したのは2015年9月5日のNHKの「バナナマンの爆笑ドラゴン」という番組です。
紹介者の東京03の方が言うには、彼らは「うちの事務所では天才かもと言われているコンビ」だそうです。
男女交際を大盤で解説
動画があればいいのですが、ないので私(管理人)も盤を使ってネタを説明しようと思います。
舞台は将棋の大盤解説。NHK杯テレビ将棋トーナメントを思い浮かべていただければいいと思います。大盤を挟んで左に司会、右に解説者です。
司会・・・つまり、NHK杯でいえば清水市代女流六段にあたるのが、長谷川巧貴さん(以下、司会)。
解説にあたるのはホビーさん。コントの中では「落とした女は星の数」でおなじみの久世淳平七段(漢字は適当にあてました)という人に扮しています。(以下、久世七段)
将棋界でも「光速の寄せ」とか「1億と3手読む」とか、やや大げさな表現がありますが、この「星の数」はそれに倣っているのだと思います。
対局は、先手となった佐藤宏二段(22)が、後手の田中美紀四段(27)に挑みます。
現局面は合コンの帰り道
現在の局面としては「合コンの帰り道、やっと二人になれたね」というところ。その局面図が以下。
(原作では一部露骨な表現がありましたので、ちょっとだけ表現を変えています)
先手の佐藤宏二段は振り飛車で、穴熊でしょうか。1九にこもっています。
一方、後手の田中美紀四段も振り飛車のようです。が、おそらく一旦、高美濃囲いを構築したものの、それを崩されて、7一の地点に移動し囲いを再構築したものと思われます。
手番は佐藤二段。
二段と四段ということで、フレッシュな戦いが期待できそうです。
開戦は手の突き捨てから?
上の局面から佐藤二段が仕掛けます。▲5四手。
将棋では、「開戦は歩の突き捨てから」と言いますが、男女交際においても手を突くところから戦いが始まると言えそうです。しかし。
久世七段「ここには鞄が効いていました」
久世七段「△同鞄。あざやかでしたね。男性側の手で鞄を持たれては、手をつなぐことはできませんからね」
おおお!!
将棋において攻撃を絶やさずに継続していくことを「手をつなぐ」と言いますが、これと男女が「手をつなぐ」ことをかけているわけですね。
確かに、先手の手を後手も手で払うことはできますが、駒を上ずらされて、ちょっと気持ち悪い形ですね。鞄で払った形のほうが、後々いざとなれば攻めにも使えそうで、味がよさそうです。
これは期待が高まります。
先手、怒涛の攻め
次に佐藤二段は、田中四段を家に誘おうと、犬を敵陣に打ち込みます。
久世七段「『僕の家にチワワを見に来ないか』と▲7三犬」
叩きの歩・・・じゃなくて叩きの犬。
司会「これに対し美紀四段、『私、犬アレルギーなの』と△同病」
これは、やや研究が足りなかったでしょうか。まあ合コンの帰りということで、もちろん二人は初手合いだとは思いますが、犬を切り札にしているなら調べておくべきだったかもしれません。
久世七段「まだあきらめません。『僕の家、ホームシアターもあるんだ』と▲6二映」
司会「これに対し美紀四段、『私も持ってるよ』と△同持で返します」
久世七段「でも、『大画面で男はつらいよを見たことないでしょ?』と▲7二寅」
うーん、ガジガジだけど空振っているか。
司会「これに対し美紀四段『・・・』、△同無」
これは佐藤二段、やや攻めが単調だったと思いますね。後手の囲いは僅かに薄くなったでしょうか。しかしもう少し、じっくりと攻めるべきだったかもしれません。盤上の駒を利用してもよかったのではないでしょうか。先手は穴熊で、まだ王手がかからない格好ですし。
後手に駒を4枚渡したわりには、戦果があがっていないです。
B面攻撃
やや単調な攻めが切れ模様となった佐藤二段。ここでB面攻撃を見せます。
久世七段「自宅に呼べないとわかったので、向こう宅に上がり込もうと。そこでこの2八の送が生きてくるわけです」
司会「はい、2八の送が2二で成って狼に(▲2二送成)」
まさに、送りの手筋!!
これはリアリティありすぎる。この手筋を用いた人は年代問わず多いのでは。
この▲2二送成は、3一の家を狙ったもの。「家」は実は攻め駒なのです。敵の玉(女)に攻撃が難しい時は、敵の攻め駒を責める。俗にいうB面攻撃です。ほおお、佐藤二段、こうやって攻めをつなぐもんですか。
なお、本来の将棋での「送りの手筋」の意味は、相手玉の隣に駒を捨てて(下図の▲3二金打)、玉に取らせるように誘導(送る)して、玉を守る駒(後手の5二の金)を無力化したり次に取ったりしようというものです。
とにかく、佐藤二段の送りの手筋が炸裂!
しかし!!
なんと△同家。これは?!
久世七段「ここで衝撃の一言。『私の家、実家なの』」
司会「△同家で受けるとは」
久世七段「実家だったんですね!」
司会「驚きました」
・・・。
投了へ
久世七段「美紀四段、『私、終電で帰るね』と」
△2八終。
ここで佐藤二段が投了。
これは、どういう状況かはっきりはわかりませんが、おそらく先手の男に詰みがあるか、詰みはなくても受けがない状態なのだと思います。一方の後手陣はまだ盤石。
田中四段は27歳。佐藤二段は22歳。今回は5歳年上の田中四段が佐藤二段の攻めを受けきった形になりました。
投了図をよく見てみれば、佐藤二段は醜さを服で覆い隠しています。これらは遊び駒となってしまい、攻めにも受けにも働きませんでした。
酔に手伝ってもらって欲を前進させるという単純な攻めも、二段レベルだったら通用するかもしれませんが、四段ともなれば無理攻めです。まあ、まだ若い佐藤二段ですし、これからに期待しましょう。この悔しさを忘れるために、家まで全力で走って帰ってください。
次回の対局は
なお司会によれば「来週は竜王戦、パンツェッタ・ジローラモ竜王vs叶恭子名人の対局をお送りします」だそうです。
勝手なイメージですが、ジローラモ竜王は軽いさばきが得意そうです。振り飛車党。
叶名人は、私の勉強不足であまり拝見したことがないのですが、名前からすれば重厚な指し回しが期待できそうです。
アナクロニスティックさん、お疲れ様でした。
まだデビュー4ヶ月。次の一手も期待しております。
コメント
残念ながら、解説の局面では既に大差がついていたようですね。
佐藤二段、ここまでの攻めは田中四段の囲いを固めるだけに終わってしまいました。
攻めが切れる事を見越して方針を切り替えた方が良かったのではないでしょうか。一例として、田中四段に残り時間が少ないことを自覚させ、持久戦に持ち込む展開はどうだったか。また、管理人さんは左辺からの攻めを無理攻めと評しましたが、「欲」で囲いの急所である「恥」を攻めれば一発逆転もありえたと思います。「警」は強力ですが、「醜」が出てこなければ使いこなすのは難しいですからね。
(管理人注:リンク先が権利侵害をしていると思われたため、リンクを削除しました。ご了承下さい)
コメントありがとうございます。
あ、そうですね。よく見ると攻めて相手の守りを固めさせてしまうパターンですか。
あのあたりの攻めが、うまくいくにはどうしたらいいのか。それにしても玉の周りに駒を捨てていくだけの単調な攻めは、ちょっと焦りもありましたかね。
持久戦!!そうですね。持久戦に持ち込めばあるいは、穴熊の固さが生きる展開になったかもしれません。
ただやっぱり佐藤二段も若いので焦りはあったはず。もしおっしゃるような勝負手を放ったとして、27歳の田中四段がどう応じるかも見てみたいものです。
コメントありがとうございます。
たしかに、著作権に触れうる動画ですね。失礼しました。
このゲームは一字駒だからこそ面白いんだと思いました。
私は「警」を「警察」だと解釈しましたが、考えてみれば警察が盤上にいるわけない。だから、この駒は「警戒心」だと思うんです。たぶん、成ったら警察ですね。
駒の意味と働きを互いに想像し、勝利・敗北条件すら状況によって変わるようなゲーム。駒の動きの実装が難しそうですが、一発ネタに留まらない可能性があるかもしれません。
コメントありがとうございます。
ご理解いただきありがとうございました。
なるほど。私は「警戒」か「警戒心」だとみていました。対面の男の駒に対抗するために。
確かに、一字駒だからいろんな想像や発想ができて面白いのかも。
成ったら警察!
恐ろしい駒。
彼らまだまだ出たてらしいので、今後もなにかあれば注目したいです。おっしゃるように、定番ネタとしても良いと思います。
コメントありがとうございます。