歴史探訪・トッププロも惹かれる古き将棋

 アライコウと申します。今回はおすすめ書籍の紹介をしたく、寄稿させていただきました。よろしくお付き合いください。

日本将棋大系

 最近、日本将棋連盟モバイルで「名局探訪」という企画が人気です。大山康晴、升田幸三といった過去の大棋士たちの名局を、現在の棋士が解説するというものです。

 将棋の戦法、定跡は日々進化していますから、過去の名局といえど現在のプロが見ると、部分的には違和感があることも少なくないようです。しかし先人たちの試行錯誤があってこそ今があるのですから、昔の将棋にも確かな価値があることは疑いありません。

 将棋ワンストップ様の読者の中には、そうした昔の将棋や棋士に興味が沸いてきたという方もいらっしゃるでしょう。そこで今回は、1978年から1980年にかけて筑摩書房から出版されたシリーズ「日本将棋大系」を紹介したいと思います。

1. 初代大橋宗桂・二代大橋宗古 / 勝浦修著 1979年12月
2. 初代伊藤宗看 / 丸田祐三著 1978年7月
3. 五代大橋宗桂・宗銀=印達 / 加藤治郎著 1979年8月
4. 二代伊藤宗印・三代大橋宗与 / 花村元司著 1979年2月
5. 三代伊藤宗看 / 大山康晴著 1978年6月
6. 伊藤看寿 / 原田泰夫著 1978年9月
7. 九代大橋宗桂 / 有吉道夫著 1979年6月
8. 六代大橋宗英 / 米長邦雄著 1979年10月
9. 六代伊藤宗看 / 板谷進著 1979年5月
10. 大橋柳雪 / 大内延介著 1978年8月
11. 天野宗歩 / 中原誠著 1978年5月
12. 八代伊藤宗印・小野五平 / 大野源一著 1979年7月
13. 関根金次郎・土居市太郎 / 五十嵐豊一著 1979年3月
14. 坂田三吉・神田辰之助 / 加藤一二三著 1979年1月
15. 木村義雄 / 大山康晴著 1980年1月

・別巻1 図式集 / 森けい二著 ; 上 江戸時代初期 1979年4月
・別巻2 図式集 / 内藤国雄著 ; 中 江戸時代中期 1979年11月
・別巻3 図式集 / 二上達也著 ; 下 江戸時代後期 1978年11月

 将棋の名人は、徳川家康の時代に家元制(世襲制)ではじまり、紆余曲折を経て現在の実力制に至ります。日本将棋大系は、初代名人の大橋宗桂から実力制最初の名人である木村義雄十四世名人まで、過去の名棋士たちの棋譜を刊行当時のトッププロが解説しています。経歴等も掲載されており、資料としても一級品。別巻は詰将棋集です。もちろん今では中古でしか手に入らないものですが、Amazonのマーケットプレイスなどで比較的容易に購入できます。

 大系の名にふさわしく、江戸から昭和初期にかけての古典将棋を調べられる、ほとんど唯一のシリーズです。復刻してもいいと思うのですが、さすがに需要が少ないのでしょうか。

 ちなみに私が所持しているのは「三代伊藤宗看」「天野宗歩」「関根金次郎・土居市太郎」「坂田三吉・神田辰之助」「木村義雄」の5冊です。そのうち、全巻揃えられればと思っています。

過去の将棋を並べることの意義

 日本将棋大系は昔の棋譜の解説書ですから、現在の定跡を学ぶ役には立たないと思います。では、日本将棋大系のような昔の棋書を読むことに、どのような意義があるのでしょうか。

 それは将棋の歴史に思いを馳せるという、一種の精神活動です。チェスや囲碁にも言えることですが、将棋はいかなる名棋士の妙手も、棋譜と盤駒さえあれば自分自身で再現できます。何百年も昔の手を、当時のことを自由に想像しながら指してみる。たとえば歴史好きの人が、古城や武士ゆかりの史跡を訪ねるようなものでしょうか。何とも心がみなぎるのです。

 現代の研究が進められた棋譜もよいですが、こうした古典も味があってよいものです。我々はアマチュアですから、プロのように最善手を求めるばかりが将棋の楽しみではありません。普段は棋譜並べをしない、苦手だという方も、ぜひ一度やってみてはいかがでしょうか。将棋友達から「渋いですね」とか言われることうけあいです。

 私が最初に入手したのは天野宗歩でした。幕末において「棋聖」「実力十三段」と呼ばれた人の将棋はどんなものか、興味があったのです。古書ならではの紙の匂いを感じ、一流の解説を読みながら盤上に並べていく。宗歩の指し手で特に有名な「遠見の角」というものがありますが、これを実際に指してみると、何とも言葉にできないものがありました。

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 いかにも斬新に見えるこの手を、江戸の昔に指した人がいる。実戦で指せたら、とても楽しいだろうなと思います。

羽生名人も驚愕、江戸の名人の終盤力

 現在の定跡を学ぶ役には立たない、と書きましたが、現在のトップ棋士たちも驚くような終盤が出現することがあります。その中でも三代伊藤宗看(七世名人)の将棋をご紹介します。三代伊藤宗看は詰将棋の最高峰として名高い『将棋無双(象戯作物)』でも有名ですが、指し将棋においても「鬼宗看」と呼ばれるほど、優れた棋力の持ち主でした。

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 享保十年(1725年)、江戸城での「御城将棋」にて、当時まだ二十歳で七世名人となる前の宗看は、ライバルの大橋宗民と戦います。相居飛車の将棋で、後手の宗民が激しく攻めている局面ですが、

「絶妙手である」

 図の▲3五桂で、日本将棋大系の解説を担当した大山康晴十五世名人がこうコメントしています。先手玉はものすごく危なそうに見えて、即詰みはないんですね。それを見切った上での切り返しでした。

 この将棋は「将棋世界」に連載された「イメージと読みの将棋観」でも取り上げられ、トップ棋士たちがこぞって称賛の声を上げています。

「江戸時代の将棋はほとんど知らないんですが、強い部分はけた違いに強いという気がする」(羽生善治名人)
「江戸時代の将棋はほとんど並べていないけど、この終盤の切れ味は恐ろしいですね」(佐藤康光九段)
「すごい手順ですね。少なくとも私より強い」(森内俊之九段)
「読みきってこの手順を指したとしたら、間違いなく現代でもトップの終盤力です」(谷川浩司九段)
「(▲3五桂と読んで)おお、やはり。以下も素晴らしい手順ですね」(渡辺明棋王)
「あれだけの詰将棋を作る人が本気で終盤を考えたら、弱いはずがない」(藤井猛九段)

※肩書きは現在

 こうしたコメントは、まさに昔の棋譜にも価値があることの証明ではないでしょうか。興味を持たれた方は、ぜひ日本将棋大系を手にしてみてください。

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 この記事を書いた私(アライコウ/@araicreate)は、将棋小説「俺の棒銀と女王の穴熊」を、タイトル戦の中継でもおなじみのニコニコチャンネルにて連載しています。

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 先日、最新の第5巻(Amazonへ)をリリースすることができました。最新巻リリース記念ということで、2015年8月末までKindle版のシリーズ全巻99円セールを行っています。おかしなタイトルですが真剣に将棋を扱っていて、中学生以上を対象年齢にしています。Kindle端末やスマートフォン、タブレットをお持ちの方は、この機会にぜひよろしくお願いします。

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コメント

  1. あっしー より:

    主人公の右玉がパックマンされるような…小説では…ないのか…

  2. 匿名 より:

    やはり序盤は大きく変わっても終盤力は現代にも通じるんでしょうね。
    某囲碁漫画のような話ですが、江戸時代の棋士が現代の定跡を覚えたらどうなるのか……。
    森内先生の「少なくとも私より強い」は謙遜もあると思いますが、面白い話ですね。

  3. 管理人 管理人 より:

    あっしー様:
    真面目な小説だとのことです。コメントありがとうございます。(もし何かの間違いで書き込んでしまったとして、コメントを取り下げるのであれば、ご連絡下さい)

    匿名様:
    コメントありがとうございます。
    序盤の研究が進んだのは、将棋の歴史の中では最近の出来事ですよね。

    なお、ツイッターでは私は以下のように発言しこの記事を紹介しています。

    本日、羽生善治名人がドワンゴ川上会長との対談で、ディープラーニングにより昔の棋士を蘇らせAI天野宗歩対AI大山康晴の様な夢の対決を観てみたいとお話が。本日はこれに少し関連する寄稿をいただきました

    これはまさに「江戸時代の棋士が現代の定跡を覚えたら」に通じる話で、AI天野宗歩に序盤の定跡を覚えさせて、現代の棋士たちと対局するという趣向は面白いかもしれません。

    羽生名人が、ディープラーニングから棋士の個性を持ったAIを作る話を、けっこうノリノリでされていたので面白かったです。やはり升田幸三先生と対局してみたいのだとか。

    皆様コメントありがとうございます。

  4. 匿名 より:

    すごいです!!!

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