「元プロ棋士」問題について

こんにちは。フリーライターのアライコウと申します。

 これまで何度か将棋ワンストップ様に寄稿させていただきましたが、今回は将棋ファンの方にも、そうでない方にも知っていただきたいニュースがあり、ご覧いただければ幸いです。

引退した加藤一二三九段の肩書きが……

 2017年6月20日、第30期竜王戦6組昇級者決定戦において、加藤一二三九段が高野智史四段に敗れ、およそ63年に及ぶ現役生活にピリオドを打ちました。もう公式戦で指すことはできませんが、加藤九段の将棋への情熱は衰えることなく、これからも指導対局や執筆などで将棋に携わっていくことを表明されています。つまり、引退してもプロ棋士であることは変わらないと。
 それからしばらく経ち、このようなニュースが報道されました。

元プロ棋士・加藤一二三さんの講演会参加者募集 先着順、府中で29日 (東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201707/CK2017070102000108.html

このニュースを見て、加藤九段ファンとしては何とも複雑な気持ちになりました。「元プロ棋士」という肩書きでは、今はもうプロではないかのような印象を与えます。
 実はこの「元プロ棋士」問題は以前から存在していて、事情を知っている人にとってはモヤモヤさせられるものでした。片上大輔六段もご自身のブログで次のように書かれています

補足:ときどき「元プロ棋士」という表現を見かけますがこれは厳密には誤りで、「引退(退役)棋士」もあくまでも「プロ棋士」です。ただ上記のように現役の人数を答えることが多いので、そう書かれてしまうのもやむを得ないかもしれません。

やむを得ない……というのは私もそのとおりだなと思っています。スポーツなど他のプロ競技だと、引退したプレイヤーは「元」と呼ばれるのが普通だからです。

将棋プロの活動とは

 そもそも、将棋プロとして活動するとはどういうことでしょうか。
 前述の通り、公式戦を指すことがなくなっても指導対局、執筆、イベント出演、アマチュア大会の審判など、プレイヤーではなくなっても将棋に関わる仕事はたくさんあります。先日芸能事務所とマネージメント契約をした加藤九段ですが、これまでと変わらず意欲的に将棋の仕事も継続されるでしょう。その姿はまさにプロと言えるはずです。
 では引退したらほとんど将棋とは関わらない、という棋士の場合はどうでしょうか。株主優待生活で有名になった桐谷広人七段も「元プロ棋士」と表記されることが多く、時々イベントに招待されるなどはあると思いますが、自発的にはもう将棋の仕事はほとんどされていないと思います。しかし依然として将棋連盟に所属する「プロ棋士」なのです。少なくとも将棋連盟的にはそうした立場です。
 完全に「元」と呼ばれることになるのは、引退するだけでなく将棋連盟あるいはLPSA(日本女子プロ将棋協会)からも退会した場合です。たとえばいくつものタイトルを獲得し、女流棋士界に一時代を築いた林葉直子さんがその例です。
ともあれ、ただ引退するだけでは「元」と呼び習わすことのない将棋界。こちらのほうが例外と言えるのであり、世間一般との乖離が起こるのも無理のないことです。

無理に改める必要はない?

 各メディアがこれらの事情を知った上で「元プロ棋士」と表記しているのか、それとも単に知らなかっただけなのかは定かではありません。しかしいずれにせよ、「引退棋士」「退役棋士」などと表記するのはわずらわしいですし、単に「将棋棋士」と表記した場合「この人もう引退したんじゃなかったっけ?」と読者に思われ、間違いだと指摘をされるようなこともあるかもしれません。メディアの側からしても、なかなか扱いに悩む問題なのかなと思います。
 ではどうすればいいのか? 今のままでいいんじゃないか、というのが私の考えです。無理に改めようとするのはエネルギーを使うことですし、そもそも「改めてもらう」というのは傲慢であるかもしれないのです。
 私たちファンレベルでは、むしろこの問題を「将棋界あるある」のひとつとして受け入れるのが、不要な軋轢を生まない方法かなと思います。「やめてもらいたいなあ」「別にいいんじゃないか」の両派に分かれ、ゆるく議論し合う程度がちょうどよいと。なお私はやめてもらいたい派です。読者のみなさんはどうでしょうか?

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この記事を書いた私(アライコウ/@araicreate)は、将棋ライトノベル「俺の棒銀と女王の穴熊」を、タイトル戦の中継でもおなじみのニコニコチャンネルにて掲載、電子書籍としてもリリースしています。

リンク(ニコニコチャンネルへ)

 先日、大人気将棋ライトノベル「りゅうおうのおしごと!」(GA文庫 著者:白鳥士郎 イラスト:しらび)のアニメ化が発表されました。こちらで将棋ライトノベルというものに興味を持った方が、私の作品も読んでくれたらいいなとひそかに願っております。

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コメント

  1. 端歩 より:

    同歩が自然な一着。
    「将棋界あるある」を含みにすれば、なんとか主張は通っていると言える。

    他方、連盟HPの「棋士データベース」では「引退棋士」との表現が用いられており、これも有力と思われた。
    しかし文章の中で言葉の馴染みやすさ、また読者がその言葉を見たときに引っかからずスッと理解できるか、というところまで進めてみると難解。
    「引退棋士」は一見よさそうに見えるが、実は空ぶってしまう危険性が高く、よほど深い読みを入れないと指せないとの結論。

    素人目には同歩と取る一手だが、ここは素人感覚が安全だったようだ。

  2. amur より:

    加藤九段については、現在でも「棋士」であることは間違いありませんが、6/20の高野四段戦を最後に対局によって賞金を得る「プロ」ではなくなったので、今では「プロ棋士」とは言えないのではないでしょうか。
    その意味で「元プロ棋士」という表現は間違っていないように思います

  3. Britty より:

    将棋界の慣習は理解していて自分では引退棋士とお呼びしますが他の領域とかけ離れた慣習を維持するのは難しいかな(かえって一般社会からの理解のさまたげにもなる)という気もしています。ただ東京新聞は新聞三社連合に加盟して王位戦の運営にあたる立ち位置で、そこでこういう言い方をみるのは少し違和感はありますね。まさにそれが現在の呼称慣行は一般に理解され難いだろうということの証拠でもありましょうが。

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